どうしてなんですか7
「ロ━━ンっ」
「ま、また!?」
「うおお、やるなぁ荒木さん。わしゃもう引退を考えようか……」
「まぁまぁ、中村さん、荒木さんがちょっと強かっただけですよ。私達の麻雀魂は永遠に不滅です」
「さ、佐藤さん……」
よーしよし、三連勝~。しかもぶっち切りで。私は意気揚々と牌を混ぜ始めた。……あれ?何か違くない?
急に夢から覚めた私は、思わず両手を広げたままの状態で固まった。隣の席の中村さんが、牌を混ぜるのをやめた私に不思議そうな目を向ける。何故私はこんなにも馴染んでるのだろうか。何故こんなにも楽しそうにジャラジャラやってるのだろうか。
ハッとして壁の時計を見る。私がここに来てから二時間近くが経過していた。まさか、こんなにも麻雀にのめり込むだなんて。タイミングを見てさっさとお暇しようと思っていたのに。このおじいさん達が私を担ぐのも悪い。
急に目が覚めて、さて何て言ってこの場を立ち去ろうかと思案した時、上着のポケットのスマホが鳴った。おじいさん達が一瞬こちらを見るが、牌を混ぜる手は止めなかった。私は着信が瀬川君からだという事に驚きつつ、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
《荒木さん?今どこにいる?》
「えーと、どこって言われても……」
近くに目立つ建物もなかったので、一言じゃ表しにくい。ひとまず相松市と答えようとしたところで、瀬川君の言葉に遮られた。こんなに焦ってる瀬川君は珍しい。
《店長と電話が繋がらないんだ》
「あれっ?瀬川君も?実は私も」
そこでようやく、私は自分が相松市にいることを伝える事ができた。
《僕も今店にいないんだ。店長に仕事を任されて、大阪にいるんだけど》
今日瀬川君が店にいない事を今初めて知った。私がここへ向かう際のやり取りもバタバタで、彼の自転車が店先にあるかを確認するのも忘れていた。
《荒木さん今すぐ帰れる?》
「う、うんっ」
私は慌てて荷物をつかんだ。おじいさん三人組が揃って顔を上げた。
《人払いするなんて絶対怪しいから。僕も今店に向かってる》
「わ、わかった!すぐ帰る!」
私は三人への挨拶もそこそこに、部屋を飛び出した。真っすぐ伸びた廊下が私の足音をグワングワンと反響させる。
停めておいた車に乗り込み、エンジンをかけるとすぐにアクセルを踏み込む。車がボコボコになったらすみません、と心の中で店長に謝罪しておく。
瀬川君の話によると、彼は別の依頼で朝早くに大阪に出かけたらしい。それは店長に言われた事で、店にはどうせ私がいるだろうと思って安心して向かったそうだ。
ところが仕事が終わって店長に連絡しようと電話をしてみると、それが繋がらない。不審に思った瀬川君は店の電話にもかけてみたが、それも繋がらなかったそうだ。そうして私が店にいない可能性を考えた。
そこで私に電話をかけると、案の定外出中。しかも店長命令で。自分が帰るにはまだ時間がかかりそうだから、急いで先に帰ってくれと言われた。店に帰った所で、店長がいるかどうかは分からないが。
とりあえず私は今こうして車を飛ばしている。行きの時とは違う意味でクラクションを鳴らされまくっている。今度はほんとうに奇跡的に車体に傷をつけることなく、私は店までたどり着いた。むしろあれくらいスピードが出てた方が運転しやすいのかも、頭の片隅で考える。
店の前に車を乗り捨てて、引き戸に飛び付いてそれを開け放った。
「店長……!」
そして私はそれを見た。
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