少しずつずれてゆく4
翌日、私達は鳥山さんの通う高校に来ていた。瀬川君と話し合った結果、お兄さんには聞かれたくないということで、鳥山さんの通う聖華高校へ直接向かうことにした。一応鳥山さんには事前に連絡し、私達は午後の授業をサボって今ここにいる。
学校終了のチャイムが鳴って、途端に校内が騒がしくなる。こういうのはどこの学校も同じなんだなぁ。
昇降口から排出される生徒達の顔をぼーっと眺める。女子生徒は一様にピンク色のセーラー服を身に纏っており判別が付きにくいが、ぼーっと眺めても目当ての人物はすぐに見つかると踏んでいた。
「あ、あれ、鳥山さんじゃない?」
しばらくして、昇降口から金髪のツインテールが出てくるのが見えた。顔をあげた鳥山さんに、私はひらひらと手のひらを振った。
「早かったわね」
「うん、最後の授業サボった」
「せ、瀬川君も……久しぶり」
「久しぶり」
一通り挨拶を終えて、私達は近くのファーストフード店に入ることにした。鳥山さんは激辛ハンバーガーを迷いなく注文する。
「それで、話って?メッセージアプリじゃ詳しく説明できないって言ってたけど」
「うん……文字だとどうしても履歴が残っちゃうし……」
私はそう答えてから瀬川君を見た。私が説明するよりも、瀬川君にしてもらった方がわかりやすいし早い。
「鳥山さんと同じ学校の……轟木蛾針さんのことなんだけど……」
「轟木蛾針?……聞いたことないわね。どこのクラスなの?」
「二年の生徒なんだ。僕らで調べるより、鳥山さんに聞いた方が早いと思って」
瀬川君は鳥山さんに昨日のことを説明した。今日の鳥山さんはなぜかおとなしかったので、何事もなく説明を終えた。いつもこのくらいの大人しさだったらいいのにな……。
「わかった、調べておくわ。ジェラートの友達でしょ?本人にそれとなく聞いてみる。それにしても……」
鳥山さんはちょっと不思議そうな顔をして言った。
「朱雀店の店長さんが隠し事するなんていつものことでしょ?何でそんなに気になるの?」
「それは……」
私と瀬川君は顔を見合わせた。
「なんか店長がいつもと違うっていうか……」
「長い付き合いだから分かるんだ」
私はまだ二年も居ないけどね。まぁ、それでも長い付き合いと言ったら長い付き合いだけど。それより、鳥山さんがうちの店長を"さん付け"で呼んだのが驚きだ。一体今日はどうしちゃったんだろう。
「そっか……。瀬川君が言うならそんなのかもね」
私は!?私の存在無視!?こっそりショックを受ける私を尻目に、鳥山さんは力強い笑みを浮かべた。
「その轟木って子のことは私に任せて。何かわかったらすぐ連絡するから」
「ありがとう、鳥山さん」
「そうだ、お兄さんにも黙っててくれないかな……。このこと、絶対店長にバレたくないから」
私は顔の前で手の平を合わせてお願いした。店長にはバレたくない。私も瀬川君も思っていることだ。お仕置きが怖いとかそういう事じゃなくて、多分、店長に嫌われるのが怖いんだろう。せっかく築いたこの関係を、こんな事で壊してしまうのが怖い。
「そこは安心して。私、口は堅い方だから」
一通り話を終えてファーストフード店を出る私達。鳥山さんはそのままバイトへ向かった。私達は最寄りの駅へ向かう。
「鳥山さん、頼りになるね」
「そうだね」
「どっちが先に店に戻る?二人一緒は怪しいよね」
「いつも僕の方が早いから、僕が先に戻るよ。店で店長が何かしてるかもしれないし……」
瀬川君はそれだけ言って口を閉じた。私も何も言わずにいることにした。
私達だって、店長のこと疑いたいわけじゃないんだ。お願いだから、もう少し私達を信頼してほしい。
「……力不足、なのかなぁ」
「どうしたの?」
「あ、ううん、何でもない」
私達に力が足りないから言ってくれないんだろうか。私達がまだ子供だから隠すんだろうか。
「荒木さん。今日も仕事頑張ろう」
「……うん」
ビュウ、と冷たい風がふいた。私はマフラーが飛ばないように手で押さえる。
今日は十一月一日。もうすぐ冬がやってくる。
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