少しずつずれてゆく
「ハロウィンのカボチャお化けのケーキ、今試食やってますよー!ぜひ食べていってください!……あ、お姉さん、カボチャお化けのケーキ、どうですかっ?」
「あ、大丈夫です……」
元気な店員さんだなぁ……と思いながら、店先の試食販売を見ていたら声をかけられた。しまった、ちょっと見すぎたかな。ケーキを食べたいのは山々だけど、さすがに一人で試食するのは恥ずかしいな。隣ににっしーでもいれば良かったんだけど。
そんなことで、今日は十月三十一日。つまりハロウィンだ。まぁハロウィンだからって何かする訳じゃないけど。私がこうして街を歩いているのも仕事だし。
本日の仕事はいなくなったペット捜し。依頼人の浪川さんは昨日の夕方、家で飼っているチワワを捜してくれとウチに来た。まぁ、チワワなんて鎖につながないし、今まで家出したこともなかったみたいだから、依頼人も油断してたのだろう。
でも犬なんてお腹が空いたら帰ってきそうなものだけどなぁ。浪川さんも心配しすぎなんだよ。犬ってそんなに馬鹿じゃないし。
そんなことを考えながら、辺りを見回しながら街を歩く。とりあえず今日は、浪川さんのいつもの散歩コースを捜してきた。散歩コースでは見つからなかったので、今はこうしてコースからちょっと外れた街を捜している。
浪川さんのチワワは、名前をメルというらしく、特徴は首にピンクの首輪をしている事だ。ちなみに性別はオスらしい。
何時間も街を練り歩いていると、そろそろお腹が空いてきた。いったん店に帰ろうかなぁ。でも店長、私の分のお昼ご飯買っといてくれてるかな……。
今日のお昼ご飯が若干心配になった私は、通りすがりにあったコンビニで野菜ジュースと小さめのお弁当を買った。コンビニ弁当なんて久しぶりで、選ぶのがちょっと楽しかった。
コンビニ袋をぶらぶらぶら下げて店に戻る。
「帰りましたーー」
古い引き戸を開けて店に入ると、目の前のカウンターに瀬川君が座っていた。
「おかえり」
ノートパソコンから顔を上げて私を見る瀬川君。
「店長どっか行ったの?」
「さぁ……昼ご飯買いに行ったんじゃないかな……」
どうやら気づいた時にはいなかったらしい。それで仕方なく店番しているのか。
私が帰って来たため、瀬川君はノートパソコンを片付けて立ち上がった。時計を見ると二時前だ。瀬川君の分のお弁当も買ってこれば良かったかな。
瀬川君が店の奥戻ったので、私はカウンターに座ってお弁当を食べることにする。
「いただきます」
割り箸を割って、おかずのエビフライをつまんだその時、店の引き戸がガラガラと開いた。慌ててエビフライを戻して「いらっしゃいませ」と言おうと顔を上げたが、そこにいたのは店長だった。
「あ、雅美ちゃんおかえりー」
「ただいま……て、おかえりは私のセリフじゃないですか?」
店長は「そうかも」と言いながらカウンターの横をすり抜けて、店の奥へ行ってしまった。私はしばらくぼーっとしていたが、ハッと我に返って椅子に座り直し、再びエビフライをつまんだ。
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