青春は駆け足で7
「店長に"文化祭でバイト遅れる"って言ったらさぁ、"まさか"って言われたんだけど、どうなの?これ」
「まー麗雷が学校行事で遅れるなんて言ったんだから、そりゃーその店長さんも驚くと思うぞ?」
その答えを聞いた麗雷は、ちょっとふて腐れた顔をした。麗雷は学校にはあまりやる気を出さないが、それでも適当にしているつもりはなかったのだ。
「つかさぁ、あの変態ほんとに出んの?あいつがバンドなんて全然想像できないんだけど。つかキモ」
「聞いた所によるとあいつボーカルらしいよ」
「さらにキモッ」
今日は文化祭の二日目だ。時は放課後。あと数分で生徒達によるライブが始まる。麗雷達四人は、特設ステージから少し離れた木陰に並んで座っていた。ステージの回りは人が多過ぎてゆっくり見れないので、少し離れたこの場所でライブを見物することにした。
所詮は素人の集まりなので、音楽のレベルはあまり期待できないが、軽音部や校外でバンドを組んでいる者達も出場するので、ほとんどの生徒達がここに集まっていた。教師達も隅の方で見物している。
「あ、始まったみたいだよ」
結歌がステージを指さした。ステージの上では司会者がマイクを握っていた。
「皆さーーぁん!今年も始まりました!文化祭二日目、皆さんお楽しみのライブでこざいます!司会はわたくし有住嶺菜(ありずみりょうな)とっ」
「三枝秋也(さぐえだあきなり)です!」
わーーっ、と盛り上がる生徒達。この司会者は毎年放送委員の中から選ばれているらしい。ノリノリの二人を、麗雷は若干疲れた顔で見ていた。
「で?あの変態はいつ出んの?見たら私は帰るわよ」
「えーと、多分七番目だな。この"ラブリーサンダー"っていうのがそうだと思う」
「名前ダサっ」
パンフレットを見て答える凪砂と、それを聞いて顔をしかめる麗雷。
「どぉでも良いけどぉ、こんな遠くじゃ金井君が全然見えないじゃん~っ」
「麗雷が人混みはイヤなんだってさ。諦めな」
双眼鏡でステージを見ていた璃夏に、凪砂が宥めるように言う。
「そんなこと言ってたらライブ見れないじゃん。人混みがイヤなら一人でここに居ればぁ?」
凪砂を間に挟んで麗雷に文句を言う璃夏。麗雷はパンフレットに視線を落としたまま答えた。
「あんたこそそんなに嫌なら一人で前行ってこればいいじゃない」
「むっ、」
璃夏は凪砂の腕を掴んで言った。
「凪砂ぁ、結歌ぁ、もっと前行って見よっ。麗雷は一人が好きみたいだしぃ?」
璃夏は嫌味全開だ。しかし凪砂はこう言った。
「ごめん璃夏、うちらもここで十分」
璃夏の機嫌が悪くならないように、凪砂はできるだけ控えめに言う。璃夏は機嫌が悪くなると面倒臭い。
「え~~っ、璃夏のお願い聞いてくれないのぉ?」
上目使いで頼み込む璃夏。凪砂は呆れながら言った。
「あんたねぇ、そういうのは……」
「さてさて、お次はラブリー サンダーの五人です!どうぞ!」
ぱちぱちぱち……。六番目に歌を披露した人気バンドとは違って、おざなりな拍手が鳴った。
「始まったね。変態バンド」
「私帰る準備するわ」
さっさと身の回りの物を片付け始める麗雷。しかし、この直後麗雷にとって全く予想外のことが起こった。
スゥ……と息を吸い込む康介。マイクで拡張された大きな声が、学校のグラウンド全体に響き渡った。
「三年A組鳥山麗雷さん!貴女が好きですッ!付き合ってくださいッ!」
「はぁっ!?」
カバンを肩にかけていた麗雷は思わず素っ頓狂な声を上げた。周りにいる三人も、突然の出来事に何も言えずにいる。
「麗雷さん!どうか僕に返事をください!」
「あ……っ、え、えぇっ!?」
麗雷は特設ステージに集まる沢山の生徒達の視線を感じた。
「ちょ、ちょっと!フザけたこと言ってんじゃないわよ!ブッ飛ばしてやるから下りて来なさい!」
「はいっ!すぐ行きます!」
ステージに付いている階段を駆け足で下りる康介。それを見て、麗雷は自分の失言に気づく。
「キャーー!やっぱナシナシナシ!こっち来ないで!」
その言葉にはお構いなしに、康介はどんどん麗雷達の方に近づいてくる。生徒達も康介が通ると自然と脇に寄った。康介から麗雷へ続く、一本の道が出来上がる。
「ちょ、私帰るわね!」
荷物を引っつかんで走り出す麗雷。友達三人がそれを見送った。
「おー、頑張れよー」
「お疲れー」
「変態にモテモテねぇ。璃夏にはない才能ぉ~」
手を振る三人の横を通り抜けようとする康介。が、その瞬間、璃夏が足を出した。
「あ~っ、ごっめ~ぇん。大丈夫ぅ?」
璃夏の足に引っ掛かって、見事に顔面から転倒する康介。麗雷はもう見えないくらい遠くを走っていた。
「れ、麗雷さ~ん」
涙を流しながら麗雷の背中に手を伸ばす康介。それを見た璃夏は「キモッ」と吐き捨てた。
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