ほっとする場所




翌日、十二月三十一日、大晦日。時刻は午前十一時十三分。普段ならもう店のカウンターに座っていてもおかしくない時刻、私は一人悩んでいた。

今私を苦しめる悩みはこれだ。すなわち、店長って何が欲しいんだ?問題である。

私は今日、再びショッピング街に来ていた。今度は一人で。

結局昨日の雪は止むことを知らず見事に降り積もり、私はブーツで雪をザクザク鳴らしながら普段より静かな街を歩いていた。さすがに今日は人が少ない。雪も積もったし、大晦日だもんね。

家で悩んでいても何も思いつかなかったので、とりあえず街に来てはみた。ぶらぶらとお店の中を覗いてみたりもしたが、店長が何を欲しいのか想像できない。そもそも、考える猶予が一日しかないのが厳しすぎる。

くっそー、こんなに難題なら誕生日プレゼントなんて買ってもらわなければ良かった。私は首に巻いたピンクのマフラーを整えながら心の中で悪態をついた。

と、顔を上げると、前方に金髪ツインテールの後ろ姿が飛び込んできた。どこからどう見ても白虎天の鳥山さんだ。何をしているのだろう。

彼女いつか見たように壁からちょっと顔を覗かせて、こそこそしていた。あの様子だとまた尾行かな、と当たりをつける。前に店長とお兄さんの後をつけた日のことを思い出した。

話しかけるべきかと悩み、私は五秒ほどその場に突っ立っていた。鳥山さんのいる場所を避けて通ることは出来るけれど……。

いや、やっぱり話しかけよう。私はすぐにそう決めると、一本踏み出した。もしかしてもしかすると店長の誕生日プレゼントのヒントが浮かぶかもしれないし。

私はゆっくりと鳥山さんに近づいて、なるべく小さな声で話しかけた。

「鳥山さん……?」

バッと振り向く鳥山さん。よかった、今日は鳥山アタックをくらわなかった。この前のアレは結構きいたしね。

「荒木じゃない。何やってんの?」

それはこっちの台詞だよ。だってここ朱雀店の管轄だもの。

「私は……ちょっと買い物を」

「ふーん。相変わらずあんたの所は暇なのね」

グサッ。今日もキツいお言葉だ。まぁ優しい鳥山さんなんて鳥山さんじゃないんだけどね。そんなものに出くわしたら思わず「誰?」って言ってしまうだろう

「鳥山さんは何してるの?」

「私?私は仕事よ。尾行の」

そう言って鳥山さんは前を歩く男性を指差した。十メートルは離れていないくらいだ。それ以上離れると、私だと見失ってしまうだろう。

それにしても。やっぱり尾行か、と思ってから考え直す。鳥山さんってだいぶ目立つ容姿をしているのに、よく尾行なんて仕事を任せるものだ。もっと地味めな人の方が適任なんじゃないかなぁ。私はちらっと隣の鳥山さんを見て、その金髪のツインテールを確認した。おまけに美人である。

「そっか……大変だね、年末なのに」

「まぁね。でも店でグダグダしてるよりは良いんじゃない?私暇って嫌いだし」

朱雀店は万年暇なんだけどな〜。鳥山さんがうちに来たらどうなっちゃうだろう。暇すぎて発作を起こしそうだ。私は今くらいの暇がちょうどいいと感じるが。

話が一段落したところで、私は彼女に声を掛けた目的を果たすことにした。店長の誕生日プレゼントのヒントをもらうのだ。

「そうだ、鳥山さん。店長に何かあげるとしたら何あげる?」

それとなく聞きたかったが、全くそれとなく聞けていないということに私は気がういていたが、この際無視して、それとないつもりで聞いてみた。

言われた鳥山さんは思い切り怪訝そうな顔をする。

「何、なんかやるの?」

「いやー、そういう訳じゃないんだけど」

「じゃあ良いじゃない」

彼女は壁から顔を覗かせた。それからまた私に視線を戻す。

「それじゃ、私もう行くわね」

鳥山さんはそう言ってさっさとこの場を去って行った。年末にまでご苦労様だ。

小走りで離れてゆく背中を見て、私は自分の店舗がいかに暇かを実感した。



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