失敗は成功の母2




「瀬川君」

瀬川君の部屋のドアをノックして呼び掛けると、そのドアは静かに開いた。相変わらず表情のない瀬川君が顔を出す。

「どうしたの?」

「あ、あのさ」

私はひっそりと一呼吸すると、予め用意しておいた言葉を口にした。

「ちょっと用事できちゃって外に出たいんだけど、しばらく店番お願いできないかな?」

私の言葉を聞くと、瀬川君はまず私の顔を見て、振り返って部屋の中を見て、それからまた私の顔を見て、「いいよ」と言った。

「ほんと!?ごめんね、なるべくすぐ戻るから!」

私は瀬川君を彼の部屋の前に残し、急いで店を出た。

花音ちゃんとの電話から一時間後のことだった。駅前のコンビニに一旦集合ですわ!という花音ちゃんのソプラノが脳内によみがえった。

私は電話を切ったあと、電話帳のファイルをすっかり元通りにしておいた。カウンターの下なんてみんな滅多に見ないだろうし、私が漁ったこともわからないだろう。

目的のコンビニに入って店内を見回してみる。どうやら花音ちゃんはまだ来ていないようだ。

私は雑誌コーナーへ行くと、立ち読みするフリをして時間をつぶした。

花音ちゃん、よくここにコンビニがあることを覚えているなぁ。もしかしたら、この駅をよく利用しているのかもしれない。私が知らなかっただけで、朱雀店にだって頻繁に来ているのかも。

そんなことを考えながらしばらく雑誌を読んでいると、突然誰かがすっと隣に立った。花音ちゃんかな?と思って振り向いて、私は思わず表情を落っことした。

「……花音ちゃん?」

「お待たせ致しましたわ」

つばの広い帽子を目深に被り、大きなサングラスをかけ、この蒸し暑い中ロングコートを着た花音ちゃんがそこに立っていた。

「その格好で行くの?」

「当たり前ですわ。捜査に変装はつきものですもの」

その格好、逆に目立つと思うけどなあ……。そうは思っても、まだそんなに仲が良いわけではない私と花音ちゃん。私は結局何も言えなかった。

私は雑誌を棚に戻すと、花音ちゃんと連れ立ってコンビニを出た。

店までの道を花音ちゃんと並んで歩く。私は隣の彼女にちらっと目を向けたら。全身真っ黒な服装で固めている彼女と歩いていると、何だろう、何て言うか、道行く人の視線が痛い。

「今、蓮太郎さんは店にいますの?」

「うーん、どっからか帰ってきて、それから見てないんだけど……。特に物音もしなかったし、裏口から出たのかなって思って」

「なら今のうちですわね。蓮太郎さんが帰ってくる前に調べますわよ!」

サングラスの向こう側に燃え盛る瞳が見える……気がする。花音ちゃん輝いてるなー。

「そういえば雅美さん、なぜ突然二階のことを……?はッ、もしかして、蓮太郎さんの秘密を知りたくて!?ダメ!ダメですわよ!蓮太郎さんの秘密は私だけの物なのですから!」

「いや、そういう訳じゃないけど、何か気になってきて……」

私はちょっと尋ねてみただけだったのに、ここまで大事にしたのは花音ちゃん貴女ですよ。

私は花音ちゃんのハイテンションに若干疲労を感じながら店へ向かった。




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