お腹が痛くなりそうだ




四月四日、金曜日。夕方。

私は今日もバイトをすべく何でも屋朱雀の建物に来ていた。

「おはようございま━━……す」

間延びさせた挨拶をしながらガラガラと引き戸を開け店に入る。

「おかえりー」

「あれ?珍しいですね。店長が店番してるなんて」

カウンターにいる店長を見て、私は思わず本音を漏らした。どうせ誰もいないか店番は瀬川君のどちらかだろうと思ってだらけた挨拶をしたのだが。そう考えて、でもまぁ相手が店長だからって私の挨拶のトーンは変わらなかっただろうなと思い直す。

というか「おはようございます」に対して「おかえり」ってどういうことなの?ここは私の家ではないんですけど。

「雅美ちゃんが学校行ってる間はいつもやってるよ?」

「全然気づかなかったです」

しれっと答える店長だが、本当かどうかはわからない。店長のことだから、来客用のソファーに座ってテレビでも見てるんじゃないかなぁ。十ヶ月もここで仕事をしているが、店長がカウンターにいる姿なんて初めて見たし。

「そうだ雅美ちゃん。今日出かけるからそのつもりでね」

「え、どこに行くんですか?」

「白虎」

店長の返答を聞いて私の表情は明らかに曇った。その乗り気のなさは言葉になって口から吐き出される。

「また行くんですかぁー?」

「あれ?白虎店嫌い?」

「嫌いじゃないですけど……」

鳥山さんに会うのが憂鬱なだけなんだけどさ。藍本さんともまだ仲良くなれてないし……。店長が白虎店の二人と私の仲を取り持ってくれたらいいんだけど。

そういえば、鳥山さんと藍本さんは仲良いんだろうか。昨日はほとんど口をきいている様子はなかったが。

「日波さんの居場所がわかったからね。さっさと捕まえて白虎店との仕事終わらせよう」

「え!?もうわかったんですか?」

「もちろん、これくらいちょちょいのちょいだよ。リッ君の手にかかればね」

結局瀬川君かよ!珍しく店長がちゃんと働いたと思って、ちょっと嬉しかったのに!

それにしても、もしかして店長も白虎店との共同作業を早く終わらせたいと思っているのかな?何か少し急いでいる……というか、焦っているような気がする。見た目では全くわからないんだけどさ。

でも店長が白虎店との仕事を嫌がっているとしたら、その理由はなんだろう。私が白虎店との仕事に気が乗らないみたいだから……っていうのは絶対ないだろうな。

「じゃあ雅美ちゃん来たし、僕は奥に引きこもるね」

堂々とそう宣言して、とっとと店の奥に引っ込む店長。おそらく二階の自分の部屋に行ったのだろうが、店長としてそれでいいのだろうか。今に始まったことではないが。

というか、私は白虎店に行く正確な時間を聞いていない。今からでも聞きに店長の後を追おうかとも考えたが、面倒臭いので止めた。いつでも出れるように準備をしておけばいいだけの話だ。

私は店長のアバウトさに若干の文句を垂れつつも、鞄に必要な物を詰め込んでいった。まぁ必要な物って言っても、メモ帳と筆記用具くらいしか思い付かないのだけど。

でも一応六角スパナは持って行きますか。




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