正解は出せないけれど
「あ、もしもし?」
ケータイを取り出してから約五分後。店長は誰かに電話をかけ始めた。こんな短時間で、たった一度会っただけのほぼ他人の電話番号が分かってしまうんだ。この仕事って怖いな、と思ったが、ここで一つの考えが思い浮かぶ。さすがにこの早さだと、もしかしたら店長はジェラートさんの番号を知っている人を知っていたのかもしれない。
「あれ?覚えるの?すごい記憶力だね……いやいやいや、そんなたいしたことないって……ところでさ、今何してる?……あ、そうなんだ……へー……いつからそこにいんの?……三人で?……じゃあやっぱ無理か……え?ニュース見てないの?……さっき切り裂きジャックが人殺したらしいよ……うん、津島横市……そうだと思ってた……え?……あはは、そんなの言うわけないじゃん、僕と君の関係性を考えてみてよ……何言ってんの、僕は心の優しい人間だよ……うん、じゃあ今から友達になろう……まぁ、だからといって言わないけど……あ、雅美ちゃんいるよ?話す?」
店長が通話する様子をぼーっと見ていたのだが、店長は「はい」と言って突然私にケータイを差し出した。私はつい反射的にそれを受け取ってしまう。
「えええええ!」
しかし自分の手にはすでにケータイが握られていて、私は仕方なくそれを耳にあてた。
「……もしもし?」
《あ、雅美ちゃん?久しぶりー★ところでさ、雅美ちゃんのところの店長さんって何かかなりむかつくよねっ♪》
「それは私から謝っとくよ……」
まったく、この短時間でどんな印象与えてるんだか。「知り合いの知り合い」から「いけすかない人」にランクダウンじゃないか。
《ねぇ雅美ちゃん、切り裂きジャックが人殺したってどういうことかな?★》
「それを私に聞かれても……。一応確認しておくけど、ジェラートさんではない……んだよね?」
先程の店長の会話から、私はジェラートさんはやってないとわかっていた。彼女が何を言っているかは聞こえなかったのだが、おそらくアリバイ的なものがあったのだろう。
《うん、あたし友達と朝からずーっとカストに居座ってたから★》
「それはそれで迷惑なような……」
朝も昼もカストで食べたんだ、と言ってジェラートさんは笑った。さすが現役女子高生、ファミレスひとつあれば楽しく過ごせる。ただ、居座る客は店側からしたら迷惑だろ
うな。
《それにしても人の名前を勝手に使うなんて、ほんの迷惑な犯人さんだよねー★ブチ殺しに行きたいよっ★》
「ははは……」
彼女が言うと「ブチ殺す」が冗談に聞こえないよ。実際に何人もぶち殺してる人だからね……。
《雅美ちゃんも怪しい人がいても立ち向かわずにケーサツに電話するんだよっ?★》
「うん……そうするよ」
そんな人見かけても立ち向かうバカはいないだろう。と思ったが、私の周りは立ち向かっても勝てそうな人ばかりだったなそういえば。
その後しばらく話して、というか一方的に話されてから通話を終えた。どうやら仲良し四人組のうち、遅れていた一人が来たようだ。相変わらずのハイテンションで「またね~♪」と言ったジェラートさんは、普通の女子高生のように見えた。
最近の切り裂きジャックがジェラートさんではなかった事に安心しつつ、店長にケータイを返す。
「ジェラートちゃんじゃなかったね」
「でも、だとしたら一体誰なんでしょう。警察にもわからないくらい手口がそっくりなんですよね」
それにしてもジェラートさんはだいぶ能天気だ。今日の殺人の犯人は本物か偽物かもわからないくらいそっくりな手口で、世間では自分がやったことにされてるのに。あらぬ罪を着せられて何とも思わないのだろうか。
そのことを店長に言ってみたら、「まぁ気にしたからって真犯人が見つかるわけでもないし?」と言われた。そりゃ自分で今日の犯人を見つけようなんて思わないけどさ。
店長は私の言葉に答えた後、こう付け加えた。
「雅美ちゃん、ついでにお茶いれてきて」
いったい何のついでだよ。
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