Who can you be?
「お願いします、三日後までに何とかしてくれないと私……!」
「わかりました。落ち着いてください」
私は依頼人と視線を合わせ、なるべく自信に満ち溢れた声で言った。
「必ず解決します。なので私達に任せて、有田さんは安心してください」
依頼人の有田恵美(ありたえみ)さんは私の言葉にこくこくと頷いた。するべき話が終わると、有田さんは店を出て行った。私は依頼内容の書いてある紙をしばらく眺め、つい深いため息をついてしまった。
一時間程してようやく店長が帰って来る。私が店に来た時はすでにいなかったが、いったいいつもいつもどこへ行っているのか。いつお客さんが来るかわからないんだから、ちゃんと店にいてほしいものだ。
私はカウンターから立ちあがると、ソファーに座った店長に先程の依頼の紙を差し出した。
「店長、さっきお客さん来ましたよ」
「えー、面倒臭いなぁ」
店長はその立場にあるまじき文句を言いつつ、私の手から紙を受け取った。たまにしか来ない仕事なのだからもっと嬉しがらないと。
店長が紙を受け取ってすぐに、店の裏から瀬川君が姿を現した。彼が差し出した紙も、店長は受け取る。
「幽霊退治?専門外なんだけど」
「違いますよ。学校の幽霊の噂を暴いてほしいって依頼ですよ」
私が訂正すると、店長を挟んで反対側にいた瀬川君が微妙な表情をした。自分が駆り出されることを想定したのかもしれない。
「金曜の夕方までに解決してほしいっていうのは?」
「その噂のせいでクラスの人が肝試ししようとか言い出したらしくて。依頼人の有田さんはホラーが苦手らしいので、それまでに解決してくれないと困るんですって」
「肝試しって……まだ六月なのに」
若者のノリには夏だろうが夏じゃなかろうが関係ないのだろう。最近学校に幽霊や火の玉などの目撃情報が多い、なら肝試ししよう!という単純な行動理由なのだ。
有田さんは怖いものが苦手だが、仲間はずれにされるのは嫌なので参加はしたいらしい。これも単純な行動理由だ。
店長は読み終わった依頼内容が書かれた紙を瀬川君にわたした。瀬川君がすぐに自室に帰らずここに留まっていたのは、この紙を受け取るためなのだ。
「今日の夜か明日の夜どっちがいい?」
「えっ!三人で行くんですか?」
店長の言葉に私はびっくりしてそう返した。店長は自分は何かおかしなことを言っただろうかと不思議そうな顔をする。
「三人で手分けした方が早く終わらない?学校って広いし」
「手分け?手分けするんですか!?」
「……ダメなの?」
「いやダメとかそういうわけじゃないんですけどみんなで固まってた方が安全といいますかやっぱり夜って危険ですし。ほら不審者とか」
引きつった笑顔を浮かべる私を店長は数秒眺めていたが、ふいと視線を下げると私の主張には全く触れずにこう言った。
「じゃあ明日の夜一時にここ出発ね。各自で懐中電灯を持って来ること」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
さっさと話を終わらせようとする店長と瀬川君に、私は慌てて待ったをかけた。
「そういえば私、その日用事あるんでした忘れてました!」
「じゃあ今日にする?ほんとはちゃんと下調べしてから行きたかったけど……」
「いえよく考えたらそんなに大事な用事じゃありませんでした。明日にしましょう」
私の答えに店長は満足気に頷いた。反対に私は苦々しい顔をしている。
私がいくら足掻こうが決定事項は覆らない。明日の深夜一時、ドキドキッ!何でも屋だらけのプチ肝試し大会の開催が決定してしまった。ほとんどホラー耐性のない私にとっては、夜の学校なんて地獄の中の地獄だ。
夜。学校という普段見慣れた空間が夜の闇と静けさのせいでお化け屋敷に早変わりするのだ。夜道なども確かに怖いが、まぁ何てことない。どちらかというと夜道はお化けよりも不審者の方が恐ろしい。
だが学校や病院などは違う。普段明るくて人が多い場所ほど、夜に行くとそのギャップに震え上がる。肝試しなんて最初に考え出した奴は頭が沸いていると思う。
話が終わるとさっさと自室に帰ってゆく瀬川君と、相変わらずソファーで寛いでテレビを眺めている店長を、私は眉間にシワを寄せて交互に見た。この二人は神経が図太そうだから肝試しなんて怖くないんだろう。さらには、いかにも幽霊なんて信じてなさそうなタイプだ。
いや、私だって幽霊なんて非科学的なこと信じちゃいないが、もしかしたらと思ってしまうのだ。だって大抵の人は心のどこかでちょっぴり信じてたりするよね?
私は店長の横顔にもう一瞥だけすると、ため息をついてカウンターへ向かった。
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