今までのこと、これからのこと4
「そういえば国見さんは本部でのアルバイト説明会って行きました?」
「行った行った!懐かしいなぁ」
当時を思い出したのか、国見さんはニコニコして答えた。
「たしか入社して三ヶ月くらいの頃かな?それまで本部の話とか全然されなかったから完全に自営業だと思っててさ」
「そうですよね!私もそう思ってましたもん。あのボロボロの建物じゃね……」
「あれ、能力テストだったらしいね。だから雅美ちゃんにも本部の話とか全然できなくてさ。バイトにはあんまり関わりのない場所だから私達もそんな詳しくなかったし、喋っちゃだめな線引きがよくわからなかったから」
「なんかしきたり的なやつだって聞きました。私達も最初わからなくて、周りの人に助けられました」
店長や鳥山さん、花音ちゃんにアドバイスを貰ったからクリアすることができた。今までの仕事や出来事が一本の線になった瞬間で、本当に感謝したし嬉しかったなぁ。あ、そういえば。
「国見さんは神原さんって知ってます?その説明会で初めて会ったんですけど」
「神原?どんな人?」
「いつも着物着てる、神原閻魔っていう人」
「あー、あいつかぁ!私と健太は避けてたなぁ。店長が注意しろって言うから」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「でも店長自身はけっこう気に入ってそうだと思ったけどね、あいつのこと」
「えー、そうなんですかね?国見さん達は神原さんに勧誘されませんでした?本部で一緒に働こうって」
「全然されてないよ。雅美ちゃんされたの?」
「はい、ついこの間まで。しつこく」
「私と健太は露骨に嫌そうな顔してたからなー。それでじゃない?」
本部の見学に連れて行かれてから、全く神原さんを見かけない。あんなに頻繁に朱雀店の周りをうろうろしていたのに。待ち伏せしたくせに飄々と「巡り合わせや」と言った声が懐かしい。いや、会いたいわけじゃないが、物足りないというか何というか。
「そういえばその後くらいに、花音ちゃんと二人で店の二階に忍び込んで怒られたっけなぁ」
神原さんの話は国見さんにとって盛り上がるものではなさそうだ。私はさっさと話題を変える。
「え!?雅美ちゃんもやったの!?ていうか、私あんなに注意したのに!」
「いやぁ、出来心というか、なんというか」
呆れる国見さんに、私は笑いながら頭を掻く。きっかけを作ったのはたしかに私だが、花音ちゃんに乗せられたからだと言い訳しておく。
「まぁやりたくはなるよねぇ。あんなに入るなって言われると。で、どこまで見たの?」
「ほとんど何も見てませんよ。階段を登りきってちょろっと顔出したくらいで」
「そうなんだ。じゃあ私と健太の方がバッチリ見てるわね。私達は二階に上がってドアが何個かあって、どうする?ってお互い顔を見合わせた時に瀬川君にバレて」
「あ、瀬川君にバレたんですか」
「めちゃくちゃ冷静にやめといた方がいいですよって言われて、ちょっとだけ!とかお願い黙ってて!とか言ってたら、その場で店長に電話されてチクられた」
「あー、なら結局あの時瀬川君にバレてもアウトだったのか」
「でも二階はめちゃくちゃキレイだよね。しっかりリフォームしてある」
「誰だったかに一階はリフォームできない理由があるんじゃない?って言われました、そういえば」
「たしかに、今思えばわざとあの建物を保存してるのかもね。だってさすがに建て替えろよって思うもん。お金はあるんだし」
花音ちゃんには申し訳ないが、あの後私は二階のベランダから花火を見る為に店長の自室に上げてもらっている。自室と言っても、おそらくあれはベッドルームだったのだろう。ベッドとタンスの他にはほとんど何も置かれていない部屋を通過してベランダに出た。
「てか雅美ちゃんもけっこう色々経験してるね」
「ははは、そうかもですね。何だかんだ言ってけっこう長く働いてますし……。その後地下の書庫を見つけたり……あ、みんなで徹夜して夏休みの宿題やる依頼とかありましたね」
本当はその間に、殺人の依頼があったんだけど。それはスルーすることにする。
「あー、そういう依頼が朱雀店っぽい」
「中学生の子の宿題だったんですけど、城ヶ崎中学なので私じゃ問題集が全然解けなくて。店長と瀬川君が主に頑張ってくれましたねぇ〜」
「みんなで徹夜って、合宿みたいだな」
「そんな感じでしたね。途中で知り合いのお姉さんが来て手伝ってくれて、わいわいがやがややってました」
あれは本当に大変だった。朝依頼人が受け取りに来る時刻ギリギリに終わって、その頃にはみんな顔が死んでいた。店長と瀬川君がほとんど終わらせてくれたようなものだが、あんな依頼はもうごりごりである。
「その後はちょっと大変なことがありまして……」
「大変なこと?」
「大変なことというか、私の中では一大事だったんですけど」
私は二代目切り裂きジャック、轟木蛾針さんの事件のことを思い返した。
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