ほっとする場所3




「やっぱり大晦日は蕎麦だよね〜。あ、北野ごめんね、研究所のみんなと食べたかったでしょ?」

「いや、いい」

私は二人の会話に微笑みを貼り付けた。そのままの表情で数秒固まる。正直に言ってしまうと、満腹すぎて他のことに気を回している余裕がないのである。

さすがにハンバーガーとポテトSサイズ、さらにナゲットまで食べた一時間後に蕎麦一人前は厳しすぎた。

「あっらー、どうしたんですか?」

「え?いや、何でも……」

しかし行くと言った手前ちゃんと食べなければ失礼だ。そう思い、吐きそうになりながら蕎麦をすする。蕎麦は美味しい、美味しいんだけれど……味とか構ってる精神的ゆとりはない。

にっしーを挟んで二つ隣に座る北野さんが、呆れたように短くため息をついた。

「どうせ昼食を食べてきたなどそんな所だろう」

「うっ」

北野さんするどい。まさしくその通りである。私は図星を刺されたのと、胃袋がパンパンという、二つの理由で顔を青くした。

北野さんの言葉を聞いて、にっしーが少し心配そうな顔をこちらに向ける。が、すぐに明るくなってこう言った。

「そうなんですか!?でも大丈夫です!残しても北野が食べますから!」

「貴様は私を何だと思っているんだ?」

それからにっしーは北野さんの大食い武勇伝を語り始めた。二人で中華料理のチェーン店である玉将に食べに行った日の出来事や、近くにオープンしたバイキングでケーキを食べまくった事。

どうやら二人はとてもいい感じで友達をやっているようだ。いったいいつ、何がきっかけで仲良くなったのだろう。この二人の人生が交わる理由を全然想像ができない。

「そうだ、あっらーは何の用事で街にいたんですか?」

それを今更聞くのか、と内心で苦笑する。しかし相手の用事を聞かずに誘ってしまう所がにっしーなような気もする。

「ちょっと誕生日プレゼントを選んでて」

「へぇー、誰の誕生日なんですか?」

「まぁ、店長……の」

そう言うと、にっしーと北野さんは大いに驚いた。

「え!バイト先の店長に誕生日プレゼントなんてあげるんですか!」

「それほど無駄な金の使い方は他に無いと思うぞ?」

自分に買った方がまだマシだとぼやく北野さんに、にっしーもウンウンと頷いた。

まぁ普通の距離感なら、バイト先の店長に誕生日プレゼントをあげるなんてあまり無いとは思うが。実際前職の飲食店のバイトしてた時、店長に誕生日プレゼントを送るスタッフなど一人もいなかった。だが、朱雀店は従業員数も少なく、無駄にフレンドリーな職場なのだ。

「いやー、なんか昨日自分のをねだったら貰っちゃって。そんでお返ししなきゃいけないっていうか」

そこでにっしーは唐突に何かを思い出して口を挟んだ。

「あ、あっらーの誕生日プレゼント、年明けたらわたしますね」

まさか今日会えるとは思わなかったから、と彼女は付け足した。私立場毎年お互いの誕生日にプレゼントを送りあっているのである。

「そこで相談なんだけど……。店長に何あげたらいいと思う?」

とりあえず今日会った全員に行った質問を投げかけてみる。この二人は直接店長のことは知らないけど、むしろ知らない方がいい解答がもらえるのかもしれない。

すると二人は声を揃えて言った。即答であった。

「ケーキでいいんじゃないか?」

「ケーキでいいんじゃないですか?」



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