無限ループの回答2
僕は姉が羨ましかった。姉には才能があったし、しかも努力をするのが好きだった。僕は姉にはできないことなんてないんじゃないかと思う。
それに、姉は好きな物をたくさん持っていた。姉はいつも、やりたいことが多過ぎて時間が足りないという顔をしている。好きなこともやりたいことも無く、ただのうのうと息をするだけの僕とは大違いだと思った。
僕は姉が羨ましかった。姉の才能も、性格も、生き方も。全部僕にはないものだったから。
だからこそ姉は僕の心がわからない。僕のような凡人はどうやって人生を歩んでいるのか、何を考えて毎日生きているのか、姉は知らないしきっと一生わからない。
それでいいと思う。そんなことは、姉にとって生きる上では別に必要ない、どうでもいいことだから。
「姉さん」
翌朝、学校へ行く前の姉に声をかけた。玄関で靴を履いていた姉はこちらを振り返る。いつも姉にくっついている弟は、どうやら洗面所で歯を磨いているらしい。玄関には赤いランドセルが用意されていた。
「陸か。おはよう。どうしたんだ?」
「昨日の話だけど」
「バイトの話か?」
「うん。やっぱりその話受けようと思う」
「本当か!?」
別に姉の言葉に触発されたわけではない。ただ、一人で生きて行く術を身につけるのは早いに越したことはないと思ったのだ。せっかくチャンスが降ってきたのだから拾っておいて損はない。
「さっそく今日店長に言っておくよ!近いうちに店に連れてって紹介するからそのつもりでな」
姉は顔をほころばせて言った。歯磨きが終わったらしい弟が小走りに寄ってきて、僕の目の前を通り過ぎて玄関で靴を履いた。
「じゃあウチら学校に行ってくるな。行こうか、海」
「うんっ。バイバイお兄ちゃん」
黒い革製の学校指定鞄と赤いランドセルがドアの向こう側に消える。姉と同じ色の制服を着ている僕は、正確な時刻を確認するためリビングへ入った。壁の時計は七時四十五分を示していた。
僕と姉は同じ学校へ通っている。僕は中高一貫校の中等部へ、姉は高等部へ。それでも姉の方が家を出るのが早いのは、弟を小学校へ送るためだ。僕は八時二十分に家を出れば間に合うので、それまでリビングでじっとしている。
同じ学校と言っても中等部と高等部は校舎が違うので学校生活で姉とは全く出会わない。同じ敷地に建っているというだけなのでグラウンドや体育館なども完全に別の場所にある。制服も生地は同じだがデザインが多少違う。
正直、僕は何故姉があの学校に通っているのかわからなかった。僕のように自己主張のない奴ならともかく、姉の性格なら親に猛反発してでも自分の好きな学校を選びそうなものなのに。
僕らの通う私立城ヶ崎中学校・高等学校は、いわゆる進学校だ。その辺の中学、高校よりもハイレベルな授業をし、部活にも力を入れ文武両道を掲げる。中学入学時の受験は厳しいが、一度入ってしまえばノーテスト同然で高校に上がれるし、学校のブランドのおかげで大学へも有利に進める。
八時二十分になったのでソファーから立ち上がる。学校指定鞄に刻まれた校章が光を反射してキラリと光った。今日も気分は乗らないが、僕はまるで作業のように学校への道のりを歩き出した。
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