子どもたちのいろいろ6





「おはようございます。どこ行ってたんですか」

翌日、五月二十日。今日は授業がないので平日にも関わらず朝から仕事に来ていたが、店長が姿を現したのは一時半過ぎだった。目の前の引き戸を開けて店に入ってきた店長に、挨拶と非難の言葉を告げる。

「んー、ちょっとそこまでなんだけど……」

「ちょっとそこまでが何でこんなに帰りが遅いんですか」

少し眉を上げて不平を言ってみる。しかし店長は適当な返事をしただけだった。

店長がカウンターの横を通り抜け、ソファーの方へ向かう。と思ったが、何かを思い出したように途中で振り返った。

「そうだ。明日早いから今日は早めに帰っていいよ」

「早めって何時ですか?」

私は壁から顔を出し、店長の方を見ながら聞き返す。

「別に何時でもいいんだけど……。あ、ちょうど白虎店から回ってきた資料があるから、それの整理が終わったら帰っていいよ。たぶん三十分くらいで終わると思うし」

私が「わかりました」と答えると、店長は「ちょっと待ってて」と言って店の奥へ向かった。おそらく白虎店からの資料とやらを取りに行ったのだろう。

私は壁の時計を見上げた。三十分で終わるなら、二時半には帰れるだろう。早めに帰っていいと言うのなら、お言葉に甘えさせてもらおう。泊まりじゃないから荷物も少ないし、もう明日の準備は出来ているのだが、何せ朝が早い。朝というか、深夜出発なのだ。明日に備えて早めに寝た方がいいだろう。

店長が戻ってきて、私に数枚の資料を手渡した。てっきり五、六枚かと想像していたが、思っていたより枚数がある。店長がソファーに座ったのを気配で確認しながら、私はボールペンを握った。さっさと終わらせてさっさと帰ろう。



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