どうしてなんですか4




私と瀬川君はひとまず近くのファミレスへ入った。お客さんはちらほらと見える程度だった。やってきた店員に、二人ともコーヒーだけ注文する。

「そ、それで、ジェラートさんは何て言ってたの?」

瀬川君はノートパソコンを広げた。大きくて邪魔になりそうだが、最近いつも持ってる印象だ。前はよくスマホを捜査していたけれど。大きくて冷えたノートパソコンは、高校の制服とは不釣り合いに見えた。

「それが、トライフルさんも轟木さんがうちに依頼した事は知らないらしい」

「そっか……」

そこに、店員がコーヒーを持ってくる。瀬川君はコーヒーに砂糖とミルクを入れた。

「でも最近付き合いが悪くなったって言ってた」 

「一緒に遊ばなくなったってこと?」

「トライフルさん達は放課後毎日のように一緒にいるらしいんだけど、たまに轟木さんが先に帰る時があるんだって。それでも半月に一、二回らしいけど」

半月に一、二回か。店長が出かけてる日と照らし合わせたいけれど、店長はたいがい出かけているからなぁ。確認のしようがない。

「昨日も先に帰ったらしい。店長、昨日一日中いなかったよね。せめてどんな依頼かだけでも分かればいいんだけど……」

その言葉に激しく同意して、私は大きく頷いた。何の依頼かだけでも分かれば、まだ考えようがあるのに。もういっそのこと店長の部屋を家捜しするか?と喉元まで出かかった。

瀬川君も話すことがなくなったようで、完全に黙ってしまった。私はさっきから気になっていた事を聞いてみる。

「そういえば、さっき切り裂きジャックがまた人を殺したって言ってたよね。あれってどこで見つかったの?」

「市内だよ。メルキオール街の近くの……あの古い家が多いところ。そこの空き家で見つかったんだけど、もう殺されてから丸一日以上たってたらしいよ」

「そっか」

市内と聞いて、急に怖くなってきた。今の切り裂きジャックはジェラートさんではない。ということは、私だって殺されてもおかしくないのだ。それに偽物切り裂きジャックは昼間でも躊躇なく犯行を行う。完全に避けようと思ったらもう外も出歩けない状態だ。

「怖いね……あ」

そこで私は気づいた。そもそも大前提として、

「瀬川君って切り裂きジャックの正体知ってたっけ」

もしかしたら知らないままかもしれない。なぜなら私は白虎店と共に行った仕事の報告書にジェラートさんのことは書いてないのだ。しかし瀬川君はこう答えた。

「知ってるよ」

「そっか。調べたの?」

「いや、前にトライフルさんに偶然会って」

「まさか本人から聞いたの?」

瀬川君はコクンと頷いた。彼の話によると、あの仕事のあと一度白虎店に行く機会があったらしい。そこで鳥山さんと立ち話をしていると、通り掛かったジェラートさんが声をかけてきたそうだ。

「だから今日轟木さんの事話してくれたんだね」

「そうだね。あそこで一度顔を会わせていなかったら、荒木さんを連れて行こうと思ってた。でも荒木さんには店長を見張っててほしかったから」

いくらジェラートさんでも見ず知らずの人間に友達の事を話したりしないだろう。結果的に今日店長は一日中店にいたけれど、もし出かけたらどうしてたのだろう。

「それにしても、言ってくれたらバッチリ監視してたのに」

たまに二階の自室に上がったりしていたし、そこまでしっかりと見張ってはいなかった。指示されていたら意識して店長の姿を追っていたのに。

そう思って言ったら、瀬川君は相変わらずの無表情でこう答えた。

「だって荒木さん、ポーカーフェイスとかできないでしょ?」

ごもっともである。






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