神様のいたずらかもしれない3




話もつき、そろそろ帰りましょうかという雰囲気になった。周りのテーブルには、長居を決め込んでいる学生であふれている。

私とおじいちゃんは席を立ち、レジへ進んだ。伝票を出して店員さんに精算してもらう。

「チーズケーキがおひとつと、ソフトドリンクがおひとつで、五百九十九円になります」

おじいちゃんが懐から出した財布を開く。その中身がチラッと見えたのだが、私は驚いて思わず声が出そうになった。おじいちゃんの財布の中には、一万円札がぎっしり入っていたのだ。

レジを離れてから、私は思わず聞いてしまう。

「すごいですね、おじいさんは社長さんか何かですか?」

するとおじいちゃんはちょっと恥ずかしそうに笑いながら答えた。

「まぁ、社長といえば社長なのかもしれませんねぇ」

それから、昔を思い出しているかのようにゆっくりと話はじめる。

「私が立ち上げた会社ですが、周りの者に支えられてここまでやってこれました。最近ようやく息子達がしっかりしてきてくれたので、一安心ですよ。私もそろそろ隠居してゆっくりしたいと思っているところなのです」

私はおじいちゃんの話を聞いて驚いた。駅で声をかけた時から、物腰の柔らかい気品のあるおじいさんだなぁと思っていたが、まさか本当に社長だっただなんて。

「では、私はこの道を行きますが、荒木さんの仕事先はどちらかな?」

私はおじいちゃんとは反対の道を指差しながら答えた。

「あ、私はこっちです。そろそろお店に行かないと、店長が遊びに行けませんから」

私の冗談に、おじいちゃんも微笑んだ。私、おじいちゃんのこの笑顔は好きだなあ。なぜだかホッとする。

「おや、店長さんは遊びたい盛りですかな?」

「本当に、いい歳して困っちゃうんですよ。毎月店長会議をサボって、他のお店の店長さんに資料を持ってきてもらってるんですよ?」

私は頬を膨らましてそう言う。全て事実だが、店長のことを知らないおじいちゃんからしたらただの冗談に聞こえるだろう。

しかし、おじいちゃんは私が予想予想もしていなかった表情をしていた。少し目を見開いて、何故か驚いていたのだ。私は何か変なことを言っただろうか?

私が今しがた言った自分の言葉を頭の中で反芻していると、おじいちゃんは納得したといった感じでゆっくりと頷いた。

「荒木さん、荒木雅美さんね。思い出しましたよ、貴女のこと」

「え?」

ということは、私とおじいちゃんは前にどこかで会ったことがあるということだろうか。でも私にそんな記憶はない。

訳がわからずに困惑していると、おじいちゃんは一歩下がってこう言った。

「荒木さん、お願いです。どうか私の孫を見放さないでやってくださいね」

そしておじいちゃんは、またあの優しげな笑みを浮かべたのだ。おじいちゃんの去って行く背中を眺めながら、私はその言葉の意味を考えた。そしてようやくその意味がわかり、驚きの声を上げる。

「って、ええぇぇええ!?」

夕日がオレンジ色に染める街に、私の叫び声がこだました。





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