俺の仕事を紹介します
「おはよーございまーす」
挨拶をひとつ吐きながら店のドアをくぐる。ぽつぽつと返事が返ってくる店内では、大人達がデスクでキーボードを叩いたり紙束をめくったりしていた。
挨拶くらいちゃんと返せよなと、心の中で悪態をつきながら自分のデスクに腰をおろす。学生鞄を足元に放り投げ、ノートパソコンの電源を入れた。
ほとんど返ってこない挨拶にはもう諦めている。ここはそういう店だ。店にはそれぞれの雰囲気がある。ここが玄武店や朱雀店だったなら、きっと温かい挨拶が返ってくるのだろう。しかしこの店では、より良い人間関係より仕事だの売上だのが全てなのだ。
立ち上げたパソコンで今日の仕事内容を確認する。アルバイトの自分は、特に仕事のない日はほとんど雑務で一日が終わる。今日は仕事が入っていないので、ぼーっとしていればそのうち店長から掃除や資料整理が命じられるだろう。
キッチンで入れた砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲みながらGoogloでテキトーな単語を検索してヒマを潰していると、店長室のドアが開いて店長が出てきた。
「兵藤!仕事だ!」
店長は手に持っている資料をパンパン叩きながら俺を呼ぶ。俺は黙って立ち上がり店長のところへ向かった。
「呼ばれたら返事をしろ!」
店長は神経質そうに指でメガネをクイッと上げた。俺は「ちっ、うるさいな」と思いながらそうは言わずに、代わりに「……すみません」と言った。
「急ぎの仕事が入った。白虎だ。今すぐ行ってこい」
「はい」
店長は数枚の資料と箱の入った紙袋を俺に押し付けると、忙しそうに店長室へ戻って行った。そんな忙しいフリしても、実際この店忙しくなんてねーよと思いながらその背中にガンを飛ばした。もし本当に忙しいなら、それはお前の要領が悪いだけだ。ほかの店の店長はもっと上手くやってる。
とりあえず任されたからには仕事に行かなければならない。俺はいつも通り振り返って口を開いた。
「行こうぜ、姉ちゃ……」
そして気づく。そうだ、姉ちゃんは今入院してるんだった……。
俺は馴れた動きで荷物をまとめると、一人で店を出た。白虎店に行くには電車に乗らなければならないので、まずは駅へ向かう。
「姉ちゃん、早く退院しねーかな……」
俺は足元に落ちていた小石を蹴り上げた。
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