輝く星はひどく綺麗だ2
私達は近くのレストランに入った。外装も内装も上流階級の人々が集いそうなビクトリア朝様式の美しい造りになっていて、とてもきれいだ。白い壁も明るい印象を与える。座席もざっと見た感じ二百五十席くらいあるし、中も広々している。
「一応瀬川君のメモには、ブルーノとシェミーはフォレストエリアに多く出没するって書いてありますけど」
「じゃあこの後そこ行く?ここから近いみたいだし」
私は瀬川君メモを、店長は園内のマップを広げながらそう言った。私達は現在コーヒーを頼んで、レストラン内の真ん中辺りから少し右に寄った場所にあるテーブルに座っている。お昼で混雑する前に昼食を済まそうとする客が多く、店内は賑わっていた。
「ライオンとイヌは本当に神出鬼没らしいね」
「運が悪ければ一日中歩き回っても出会えない場合もあるそうですよ」
「もっと効率的な方法があればいいんだけど……あっ」
店長が窓の外を見て突然声をあげる。私も振り返って窓の方を見てみたが、特に何も変わったところはなかった。
「さっきそこにライオンがいた」
「えっ、嘘、サインサイン!」
私はサイン帳を取り出そうと慌ててかばんの中を引っかき回すが、店長はテーブルの上に置いてあったサイン帳を持って立ち上がった。
「いいよ、僕が行ってくるから。雅美ちゃんは荷物見てて」
小走りでレストランを出て行く店長の背中に、私は「はい」と小さく返事をする。店長がいなくなったテーブルにぽつんと一人。少しだけ寂しくなった。
「あ、あちらのテーブルが空いてますわよ」
突然耳に入ってきた声に私は思い切り肩をびくつかせる。私は咄嗟にメニューで顔を隠した。あの独特の喋り方、鈴の鳴るような高い声、間違いない。今のは花音ちゃんの声だ!
花音ちゃんは私の目の前を、数人の友人達と通り過ぎる。どうやら私には気づいていないようで、一先ずホッとする。私は目立たないようにそっと立ち上がると、顔を伏せてレストランを出た。
外に出て窓越しに花音ちゃんの方を振り返ってみると、彼女は楽しそうに友人達と談笑していた。危なかった、おそらく店長がいたらバレていた。
私は走ってその場を離れると、バッグからスマホを取り出して店長に電話をかけた。あのまま店長がレストランに入ったら危険だし、私はレストランから離れてしまったから合流しなければならない。
《あ、雅美ちゃん?どうしたの?サインなら貰ったよ》
「店長、もうレストランに向かってます?レストランはダメです、今花音ちゃんがいるんです」
花音ちゃんの名前を出したとき店長が固まったのが、電話越しでもわかった。私は自分はすでにレストランにはいないことを告げる。
《わかった、雅美ちゃん今どこにいるの?すぐ向かうから》
「えーっと……」
私は辺りを見回す。しかし周りには植木や風景としての建物が並んでいるだけで、目印になりそうなものはなかった。
「遠くに観覧車が見えます」
《……ならそこで待ち合わせする?》
「すみません」
私は今いる場所から園内の反対側の端にある観覧車から視線を外し、改めて周りを見てみた。しかし、何度見ても目印になりそうなものはない。
「わかりました。じゃあ私が店長のところに行くので、店長が今どこにいるか教えてください」
《それは無理》
「何でですか」
《だって雅美ちゃん迷わずここまで来れる?》
あまりにも私を舐めくさったその態度に、私は唇を尖らせた。
「行けますよ。場所はどこですか?」
《……ドリームギャラリーの前》
「ドリームギャラリーですね。わかりました、すぐ行きます」
私はスマホをバッグにしまうと、代わりにマップを取り出した。ドリームギャラリーの位置を確認する。どうやらレストランを挟んでここから正反対の位置にあるようだ。私はレストランを飛び出して右の道へ来たが、左に行けば店長に会えたんだな。
ドリームギャラリーの位置を確認すると、私は勇ましく歩き出した。馬鹿にしてもらっては困る。たしかに私はドリームランドにはほとんど来たことはないが、こんな街一つ分もない敷地内で道に迷うなんて、それはあまりに私を馬鹿にし過ぎだ。
五分程歩いて、私は少し不安になる。そろそろドリームギャラリーの緑色の建物が見えてきてもいいはずなのだが……。私は手に持っているマップを広げて現在地を確認してみた。
「あれ……?」
周りの建物とマップのイラストを交互に見る。何だ、一本隣の道を歩いていたのか。ドリームギャラリーはすぐそこだ。私はマップをバッグにしまうと、九十度方向転換して再び歩き出した。
五分後。ようやくドリームギャラリーの緑の建物の前についた私は、困り果てていた。店長が見当たらないのだ。まさか私が遅いから探しに行ったんじゃないだろうな……。私はスマホを取り出すと店長に電話をかけた。
《あ、雅美ちゃん?まだ着かないの?》
「着いてますよもう。店長こそどこにいるんですか?」
《どこってドリームギャラリーの入口の前だけど》
「私も今入口の前にいます。店長建物間違えてるんじゃないですか?」
《間違えてないよ。入口の真上に名前が入ってるもん》
そう言われて、私も入口を見上げてみた。入口の少し上にピンクの看板が取り付けられていて、【DREAM GALLERY BACK ENTRANCE】と書かれている。間違いない、ここがドリームギャラリーだ。
「私の方にも書いてありますよ。ドリームギャラリーって二つあるんでしょうか?」
私はマップを広げて確かめてみた。隅々までよく見て、他にドリームギャラリーの文字がないか探してみる。
「やっぱり一つしかないみたいです。店長の方のも緑の建物ですか?」
《うん、緑の建物……あ、いたいた》
しっかり三分間マップとにらめっこして他にドリームギャラリーという建物がないことがわかると、私は店長との通話に意識を戻した。すると、電話越しからも左の方からも店長の声が聞こえてきた。
「店長!どこ行ってたんですか!」
不思議に思って左を見てみると、スマホをポケットにしまいながら店長が歩いて来るところだった。私はスマホを握りしめたまま店長に駆け寄る。
「雅美ちゃん、ここ裏口だよ」
「えっ」
私は振り返って、さっきまで目の前にしていた入口を見てみる。どうりで人がいないと思った。でも、裏口ならこんなに立派な作りにすることないのに。紛らわしい。
「人間誰にでも間違いはあります」
「ああうん、そうだよね。ところで、もうあと一時間半しかないけどこれからどうする?」
店長の言葉に、私は腕時計を見る。
「とりあえず……居場所がだいたい特定してるブルーノとシェミーから行きますか?」
私の提案に店長は簡単に同意した。二人並んでフォレストエリアに向かう。
フォレストエリアに行くと、すぐに人だかりを見つけた。どうやらブルーノとシェミーがいるようだ。運が良かった。ここにいる確率だって五分五分だったのだ。
「それにしても、人だかりがすごいですね……」
インコのラングレーとミラは小さなショーのようなことをしている最中だったので、その時程ではないが、ぶらぶら歩いているだけにしてはウサギの二匹を囲っている人の数が多い。さすがは人気キャラ。二匹を囲っているのはどうやら修学旅行生が多いようだ。
「まぁこのくらいだったら普通にサイン貰えるでしょ」
「そうですね」
店長がブルーノに近づいて行ったので、私もサイン帳のページを開きながらそれを追った。そういえば、先程店長がもらったライオンのサインはビアンカのものだったようだ。ズリエルの方はまだなので、このあと探さなくてはならない。
「あのさ、サイン貰ってもいい?」
店長は人々が開けた隙間を歩いてブルーノに近付き、真正面からサインを催促した。私は店長の後ろから出て「お願いします」とサイン帳を差し出した。ブルーノは「任せといて!僕はサインが上手いんだ。見てて!」と長いジェスチャーをしながら、ミミズが這ったようなサインを書いた。
「ありがとうございます」
私がブルーノからサイン帳を受け取ったのを見ると、店長はすぐに二、三メートル離れた位置にいるシェミーに近づいて行った。私は一番人気のブルーノとシェミーとは一緒に写真を撮っておきたくてスマホをカメラモードにして用意していたのだが、撮影を頼もうと思った店長が離れてしまったのなら仕方がない。私はスマホをバッグにしまうと、ブルーノに手を振って店長を追った。
「店長、待ってくださいよ」
すでにシェミーに話しかけていた店長に追い付き、シェミーにサイン帳を差し出す。シェミーは大きなリボンがついた耳を揺らしながら、きれいなサインを書いた。ボーイフレンドのブルーノとは大違いだ。私はシェミーからサイン帳を受け取ると、さっさと立ち去ろうとした店長の腕を掴んで今度こそ引き留めた。
「待ってください店長」
「どうしたの?」
「シェミーと写真撮っていいですか?」
私はそう言って店長にスマホを差し出す。店長がスマホを受け取ったので、私はシェミーに写真をお願いしてもいいかと尋ね、その隣に並んでピースをした。
しかし、シェミーが慌てたように私に何かを訴えている。こういう着ぐるみのキャラクターは喋ってはいけないのが普通で、もちろんシェミーもジェスチャーだ。店長を指差して何か訴えているのだが、何が言いたいのかようやくわかった。店長は一緒に映らなくていいのかと言っているのだ。
「でも他にカメラ係がいないので……」
私がそう答えると、シェミーは「あなたがいいならそれでいいけど……」という顔をした。全部ジェスチャーで伝えなきゃならないから着ぐるみの中の人は大変だなと私は思った。
残念ながらブルーノとは写真を撮ることが出来なかったが、シェミーとは記念撮影することができた。しかも私が付けているカチューシャの耳はシェミーのものだから、お揃いだ。ウサギの二匹は大人気キャラなので、私の撮影が終わるやいなや次の人がシェミーに詰め寄っていった。
「あと一時間ちょっと余ってます。順調ですね」
「残りはイヌとライオンの片割れだっけ?」
「ミルトンとローリーとズリエルです」
順調ですね、とは言ったが問題はここからだ。残りの三匹はどこにいるのか本当に検討が着かない。しかも常に移動しているだろう。園内をしらみ潰しに探して、あと一時間で見つけられるだろうか。一時間半後には噴水広場で写真撮影に現れるネコのフィースとジュリアのところへ行かなければならないのだ。
「とりあえず歩き回りますか?三匹がどこにいるかわかりませんし……」
「それって非効率じゃない?」
「でも他に方法あるんですか?」
私の問いに店長は仕方ないという顔で答えた。
「聞き込みしよう」
「他のお客さんに聞くってことですか?」
「一時間で三匹でしょ?歩き回って探すのは最初から無理だよ」
しかし店長の言うことはもっともだ。こんな場所で一般のお客さんに話しかけるのは少し恥ずかしいが、やらなければ仕事が完遂出来ない。私は気合いを入れ直した。
「わかりました、やりましょうっ」
私達はまずフォレストエリアを出て、一番最初に目に入った三人家族に声をかけた。二十代後半の若い夫婦と、幼稚園くらいの女の子だ。
「すみません、今日イヌのミルトンとローリーを見かけませんでしたか?」
夫婦は突然声をかけられてびっくりしたようだが、にこやかに答えてくれた。優しそうな人を選んで良かった。
「ローリーならフラッシュタワーの近くで見たけど、もう二時間くらい前だからなぁ……」
「お役に立てなくてごめんなさいね」
しかし結果としては有益な情報は手に入らなかった。私は夫婦と女の子に「ありがとうございました」とお礼をして、彼らと別れた。
「二時間前じゃあてになりませんね……」
「でも二時間前にそこにいたんなら、今はそこにいないかもって考え方は出来るんじゃない?とりあえずフラッシュタワーとは反対の方に行ってみようか」
私達はフラッシュタワーと反対方向のサイレントマウンテンの方に向かいながら、聞き込みを続けた。すると八人目の聞き込みで求めていた情報がゲット出来た。教えてくれたのは、空導高校ではないがチャラそうな制服の着崩し方をした修学旅行生の女の子達だった。
「すみません、聞きたいことがあるんですけど……」
「はあ?」
「聞きたいことぉ~?」
私は「うっ……、ガラが悪い……」と思いながらも、なんとか笑顔を作って尋ねた。
「今日イヌのミルトンとローリーを見ませんでしたか?ライオンのズリエルでもいいんですけど……」
なるべく下から下から言ってみると、一人の女の子が「あっ」と声を出した。
「そういやさっきミルトン見なかった?ほら、チュロス食った時にさ」
「あー、見たかも。あれ何分前だっけ?」
「覚えてね。一時間くらいじゃね?」
「そんな前じゃねーし三十分くらいだってマジで」
「あれオーロラトリックの前だったよね?」
「マジでそれだわ」
彼女達の言葉遣いの汚さに「もうちょっときれいな喋り方をすればかわいく見えるのに……」と思いながら、お礼を言ってオーロラトリックというアトラクションを目指す。それともうひとつ、彼女達はそのやたらにケバい化粧を止めた方がいいと思う。
オーロラトリックの目の前のベンチで休憩しているカップルに聞き込みをする。するとついさっきまでここにミルトンがいたと言うのだ。私達はカップルが指差した方向に走り出した。
「店長、いました!」
カップルに教えられた道の一つ目の角を曲がったところで、ミルトンの後ろ姿を発見した。親子との記念撮影に応じている。私達はすぐにミルトンに駆け寄った。
「すみません、サイン貰えますか?」
私達より前にミルトンがフリーになるのを待っていた数人が写真を撮り終えるのを待ち、ミルトンにサインをお願いする。ミルトンは喜んでサインに応じてくれた。
「やった。次はローリーとズリエルですね。時間はあと四十分……。この方法ならいけますよ!」
私達は聞き込みを繰り返し、四十分ギリギリでイヌのローリーとライオンのズリエルのサインをゲットした。しかしホッとしている暇はない。次はネコのフィースとジュリアだ。写真撮影の列が長蛇になる前に、さっさと行って場所取りをしなければならない。
「店長、走りましょう!」
私は店長を率いて走り出した。ここから噴水広場はそんなに近いわけではないが、五、六分も走ればつくだろう。
噴水広場にはあらかじめ情報を得ていた人達が数人の列を作っていたが、私達は十番目に並ぶことが出来た。しばらく待つとフィースとジュリアが連れ立ってやって来る。フィースは意地悪なキャラクターだが、ジュリアはその彼氏より更に勝ち気という設定だ。今もジュリアの方が前を歩いていて、フィースは半ば引っ張られる形になっている。
私達の前に並んでいた人々が次々に記念撮影を終える。約十五分後、私達の番が来て、私はバッグからサイン帳を取り出した。
私がフィースにサイン帳を差し出そうとすると、フィースは私の隣の店長を見て何かジェスチャーをした。店長の付けているカチューシャを見て「俺様とお揃いだな!」と言っているんだとすぐにわかった。
「耳がお揃いだって言ってるんですよ」
「ああなるほど」
フィースのジェスチャーに不可解そうな顔をしていた店長に、そう教えてあげる。私がせっかく選んだカチューシャなのに、つけてること忘れていたな?ドリームランドのカチューシャはテンションを上げる魔法の道具なのに。まぁ、私もインコの人だかりに突撃した時カチューシャの存在を忘れていたので、人のことは言えないのだが。
ネコのフィースとジュリアにサインをもらい、ついでに握手と記念撮影をしてもらった。次はいよいよ目的であるシマリスの二匹だ。二匹はこの後スターワルツの前の広場でミニライブと握手会を行う予定だ。早めに行って場所取りをしなければならないが、それでも四十分程自由時間がある計算になる。私は噴水広場から離れながら園内のマップを広げた。
「フィース達のサイン案外早く貰えて時間空きましたね。何か乗りますか?人気ないやつだったらたぶん間に合いますよ」
「人気ないやつ乗って楽しい?」
「それもそうですけど……」
「でもアトラクションに乗るのはいいかもね。外にいたら花音に会いそうで怖いし」
店長の言葉に私はぱあっと顔を輝かせた。せっかくはるばるドリームランドまで来たんだから、何かアトラクションに乗ってから帰りたかったのだ。私はすでに心に決めていた二つのアトラクションの名前を口にした。
「ならスノーフラワーステップとサイレントコーフィーのどっちかがいいと思うんですけどっ。この二つなら乗って噴水広場に行っても四十分以内で済むと思うんです」
私が提案した二つのアトラクションをマップで確認した店長は、少し考えた後こう言った。
「スノーフラワーステップは止めよう」
「何でですか?」
個人的にはスノーフラワーステップの方が良かった私は、店長にサイレントコーフィーを選んだ理由を尋ねる。簡単に言うとサイレントコーフィーはお化け屋敷で、スノーフラワーステップは最新の映像技術とドッキングした数分の人形劇だ。私の質問に、店長はマップのスノーフラワーステップの説明を見ながら簡潔に答えた。
「花音が好きそうだから」
「そうですか……」
ならあまり得意ではないが、ホラー系のサイレントコーフィーにしよう。店長も花音ちゃんに見つかりたくないだろうが、私だって見つかりたくないのだ。今日見つかったら私は恐らく花音ちゃんに絞め殺されてしまうから。
四十分後、サイレントコーフィーを堪能した私達は、噴水広場に特設されたミニステージの最前列に立っていた。ちなみにサイレントコーフィーはお化け屋敷ではあるがメルヘン要素が強いので、何度も悲鳴を上げるほど怖くはなかった。ネズミィーランドのジェットコースターの方がよっぽど怖いだろう。
私は最前列でバッグ越しにサイン帳を握りしめながら、ショーが始まるのを今か今かと待っていた。このシマリスのショーは、アメリカから一日限定来日しているだけあってさすがに人が多い。ショーの後の握手会も係員がしっかりと誘導を行ってくれて、前の人から順番に二匹と握手をするらしい。インコの時のような押したり引いたりがなく、とても安全だ。
「あ、始まるみたいですね」
ステージの上にシマリスのアレックとエルシーが出て来て観客に挨拶をする。観客達は二匹の名前を叫んで歓迎した。シマリスの二匹は世界各国でも有名なドリームランドのテーマソング「大きな世界」を歌ったり、トークをしたり、二匹で小芝居をしたりして観客を楽しませた。
いよいよ握手会の時が来たが、事前情報通り係員が誘導してくれて実にスムーズに終わった。二匹の着ぐるみは中身も外人さんなのだろうか?サインはとてもきれいだった。
「次はヒツジとニワトリですね。この四匹は午後から園内をうろついているらしいですよ」
「じゃあまた聞き込みする?」
聞き込みの結果、私達は二時間で四匹のサインをゲットすることができた。居場所が特定出来ないドリームキャラを探すには聞き込み戦法が一番有効な気がする。
私はふと空を見上げて呟いた。
「暗くなってきましたね……」
当たり前だ。時刻はもう七時五十分なんだから。
「そうだね。あとはゾウだけど、メタリックマウンテンにいるみたいだね」
店長は瀬川君メモと園内のマップを広げながら言う。店長は私と話す時に下ばっかり見てるから空の暗さに気づいていないんだ。私は店長と話す時上ばっかり見てるから気づく。店長は今空を見上げたら予想外の暗さにびっくりするだろう。
「店長、八時からパレードがあるらしいですよ」
「あ、そうなんだ。だからゾウには隠れキャラって書いてあるんだね」
パレードの時間は八時。ゾウがメタリックマウンテンに現れる時間も八時。もともとゾウのセロンとグリニスはいたずら好きの兄妹という設定だ。だからわざと同じ開始時間にしてあるのだろう。パレードに行く人はランドール兄妹に会えないように。
「何?もしかしてパレード見たいの?」
「そりゃまぁ見たいですよ」
「でもゾウも八時からなんだけど」
「わかってますよ」
でも、ゾウの後に急いでパレードのコースを目指せば、最後の数分間は見られるかもしれない。
「どうしても見たいの?」
「やっぱりここまで来たからには見なきゃ損ですよ」
店長はふぅと息を吐くと、「わかった」と言って私の手からサイン帳を取り上げた。
「ゾウのところには僕が行ってくるから雅美ちゃんパレード見に行きなよ。僕も後から行くから」
「えっ。ダメですよはぐれますって」
「何とかなるって」
「絶対見つけられませんよ。パレードってすごい人混みなんですよ?」
「雅美ちゃん僕のこと見つけられるって言ってたじゃん」
「さっきとは規模が違いますよ」
しかし店長は腕時計を見ると、「そろそろ行ってくる」と言って去ってしまった。周りを見回してみたが、明らかに少し前より人が少なかった。たぶんほとんどのお客さんがパレードの席取りをしに行ったのだろう。
こういうのって一人で見ても楽しくないんじゃないかな……と思いながら、私はパレードが通る大通りを目指した。
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