第199話 アリエルがリズムに乗って駄目出ししてる

 翌日、初めての師弟制度の授業が始まり、シルバとアリエル、レイはグラウンドにジョセフとセフィリアを呼び出していた。


「シルバさん、今日はよろしくお願いします!」


「よろしく」


 ジョセフがシルバに対して気持ち良い挨拶をするのに対し、セフィリアは自分に対して黙礼しただけだったのでアリエルは訊ねる。


「セフィリア、挨拶は?」


「よろしくお願いします」


「声が小さくない?」


「よろしくお願いします!」


 セフィリアはアリエルが不機嫌になったため、大きな声で挨拶した。


「できるなら最初からしなよ。感じ悪いね」


「申し訳ございませんでした!」


 アリエルの言う通り、しっかり挨拶できるのにしないのは感じが悪い。


 強制的に弟子にされたとはいえ、無駄な抵抗でアリエルの機嫌を損ねるとはセフィリアは頭の回転がよろしくないらしい。


「はい、という訳で今日はシルバ君と僕が合同で君達を鍛えるよ。今日は2人に連係を学んでもらおうと思う。協力してシルバ君に一撃を入れるのが今日の目標ね」


「全力を尽くします」


「えっ、いや、頑張ります」


 シルバに一撃を入れるなんて無理じゃないかと訴えたかったセフィリアだが、アリエルの目がつべこべ言わずやれと言うのでおとなしく従った。


 シルバはアリエルから説明を引き継ぐ。


「いきなり組んで連係しろって言っても難しいだろうから、事前に打ち合わせする時間を5分間用意する。実戦において毎回準備する時間が貰える訳じゃないが、今回は最初だから与えよう。早速打ち合わせを始めてくれ」


 シルバはその打ち合わせを聞かないように離れた位置に移動し、自分もウォーミングアップを始めた。


 限られた時間を有効利用するべく、ジョセフとセフィリアは早々に打ち合わせを始める。


「お互いに何ができるか共有しよう。俺は<格闘術マーシャルアーツ>と<付与術エンチャント>を用いた我流の肉弾戦がメインだ」


「私は<土魔法アースマジック>が使えます。近接戦闘は苦手ですが、作戦立案は勉強してます」


「わかった。だったら基本的には俺がシルバさんと戦ってる間、その隙を狙ってセフィリアが攻撃することにしよう。セフィリアは後ろから見ててできることをなるべくチャレンジしてほしい」


「フレンドリーファイアはありですか?」


 セフィリアが真面目な顔でそんなことを訊くものだから、ジョセフは一瞬キョトンとしてしまった。


 連係して戦えと言われているのにフレンドリーファイアを含む選択を検討していることを知り、ジョセフはセフィリアに背中を預けて良いのだろうかと段々不安になって来た。


「できればなしの方向で頼む」


「わかりました。でも、そうなるとシルバさんに渡しの狙いが見破られる可能性が増すんですよね」


「と言うと?」


「罠を仕掛けたり狙い撃ちするとして、シルバさんなら私の狙いなんてすぐに見破られると思うんですよ。でも、ジョセフさんごと攻撃して良いなら選択肢が増えるのでシルバさんが私の狙いに気づくまで時間が稼げます」


「狙いを隠し通せるとは言わないんだな」


「当たり前です。だってシルバさんですよ? 3年生なのに主天使級ドミニオンになったシルバさんに私如きの作戦を隠し通せるだなんて自惚れが過ぎます」


 セフィリアが慢心せず自己評価ができていることにジョセフは感心した。


 それでも自分ごと攻撃しようとするヤバい奴というレッテルを外すつもりはないのだが。


「わかった。必要とあらばフレンドリーファイアになっても構わない。ただし、被害が最小限になるよう尽力してくれ」


「わかりました」


 シルバは5分が経過したからジョセフとセフィリアの前に戻って来た。


「さて、時間だ。どこからでもかかっておいで」


「深き穴よ、我が敵を落とせ! 落穴ピットフォール!」


「ふーん。開幕落とし穴か。アリエルの弟子に相応しいな」


 シルバは跳躍してそのまま空中を蹴ることで留まり、落とし穴に落ちるのを回避した。


「初手落とし穴はやって当然♪ 詠唱するとか普通に減点♪」


 (アリエルがリズムに乗って駄目出ししてる)


 シルバは耳が良いから離れた所にいるアリエルの声が聞こえていた。


「やっぱり通じませんよね。ジョセフさん、それじゃお願いします」


「わかった。行きますよ、シルバさん!」


 ジョセフは風付与ウインドエンチャントを両足に発動し、大きく跳躍してシルバにアッパーを放つ。


「空を駆けられないのにその跳躍は下策じゃないか?」


 あっさりと躱してシルバは苦笑した。


「大丈夫です。ちゃんと考えてあります」


「岩の槍よ、我が敵を穿て! 岩槍ロックランス!」


 ジョセフは自分とシルバが同一直線上に並んだ状態で放たれた岩の槍の接近を察し、それを足場にしてシルバに攻撃を仕掛ける。


正拳乱打ガトリングストレート


「參式光の型:仏光陣」


「うっ、目が!?」


 シルバが光に包まれ、その光が大仏を模ればジョセフは眩しくて目を開けていられなくなる。


 バランスを崩して墜落するジョセフをキャッチし、地上に降りようとしたところでセフィリアが攻撃する。


「岩の弾丸よ、我が敵を蜂の巣にせよ! 岩弾乱射ロックガトリング!」


「おいおい、マジかよ」


 自分が万が一落ちればジョセフも危ないのだが、それでも平然と攻撃を仕掛けるセフィリアに容赦ないなとシルバは苦笑した。


 仕方がないので地上に降りた瞬間にジョセフを近くに放り出し、瞬く間にセフィリアの目の前に拳を構えた。


 急にセフィリアの前で止まったものだから、セフィリアはシルバが発生させた突風によってバランスを崩して後ろに転んだ。


「痛たたた」


「そこまで。シルバ君の勝ち」


 アリエルが模擬戦の勝敗を宣言したことでシルバは拳を下した。


 模擬戦が終わってすぐにシルバはアリエルにジト目を向けた。


「アリエル、セフィリアに入れ知恵した?」


「してないよ。全部セフィリアが考えてやったことさ。まだまだ温いけど、鍛えれば使い物になりそうだよね」


「あれで温いとかアリエルは容赦ないな。下手したらジョセフを巻き込んでたのに」


「それはシルバ君なら絶対に避けるって信頼でしょ。いや、倒そうとしてるのに避けるって信じてるのも変な話だけどさ」


「ちなみに、アリエルだったらどう戦った?」


「僕なら初手無詠唱での落穴ピットフォールからの火弾乱射ファイアガトリングだね。岩みたいな実体系で攻めればシルバ君に足場にされちゃうから」


 初手で落とし穴を掘るのは師匠も弟子も同じだった。


 違いを挙げるならば、アリエルは無詠唱でそれができてもセフィリアは詠唱しなければならないことだろう。


 続いて、対空戦では足場にできない火を使った攻撃をチョイスするところも違った。


 こればっかりは適性の問題だから仕方ないが、シルバを相手に<土魔法アースマジック>の飛び道具では利用されるであろうことを予測しての判断である。


「付け加えて言うならば、シルバ君が着地する直前で鋼棘メタルソーンで足を攻撃したね。それぐらいやらなきゃシルバ君にダメージを負わせられないだろうから」


「これがデーモンよりもデーモンらしいと呼ばれるアリエル先輩ですか。鬼畜ですね」


「ほう、それじゃ弟子の指導もみっちりしてあげないとね」


「あっ、しまった!?」


 口は災いの元であると何故学ばないのだろうか。


 セフィリアはあっさりと岩の十字架に括りつけられ、大きな羽根を制服のポケットから取り出したアリエルによって擽られる。


「あひゃひゃ! 止め、止めて! しょ、しょこは駄目ぇぇぇ!」


「シルバさん、セフィリアがアリエルさんに余計なことを言ったんですか?」


「その通りだ。ジョセフも思い切ったな。セフィリアにフレンドリーファイアを許可するだなんて」


「そうでもしないと一撃入れるなんて無理そうだったので。実際にはフレンドリーファイアがあっても駄目でしたが」


 ジョセフの思い切りの良い考えにシルバは苦笑した。


『ジョセフ、自分の体はもっと大事にした方が良いよ? ご主人が困ってる』


「そうですね。今回の模擬戦でフレンドリーファイアは無意味だってわかりましたから、今後はそれなしで挑みます。というよりも、セフィリアに背中を預けるのが怖いので必要に迫られない限り組みたくないです」


「アリエルはなんだかんだで味方を傷つける方法なんてしないからな。そういう意味ではセフィリアは危険だな。まあ、そのあたりはアリエルがきっちり指導すると思うぞ」


 そう言ってシルバがアリエルの方を見ると、ジョセフはセフィリアがもう少し味方に優しくなってくれることを祈った。


 その時、アリエルが左手で抱える卵が揺れて罅が入り、殻を破ってその中にいたモンスターがアリエルを見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る