第28話 良い! 実に良い!

 シルバの優勝が決まった後、校長ジャンヌが教員席から立ち上がって拍手した。


「シルバ、よくやった。ペアの部と続いての優勝おめでとう。アルもシルバを相手に十分健闘した」


「「ありがとうございます」」


 ジャンヌが労いの言葉をかけて来るだろうことはシルバも予想していたが、その後の展開は全く予想していなかった。


「シルバ、もしも余力があるなら自分の実力がどこまで通じるか試してみたくはないか?」


「はい?」


 (なんだ? この後まだ誰かと戦えってことか?)


 シルバは周囲を見渡して自分と戦うために呼ばれていたであろう人物を見つけた。


 シルバがその人物を見つけたのと同時にジャンヌもその人物の名前を呼んだ。


「ソッド、舞台に上がれ」


「はっ!」


 その人物とはディオスの門番ソッドだった。


 教員席にゲストとして座っていたソッドは新人戦個人の部の優勝者と戦うために呼ばれていたのだろう。


 アルが舞台から移動するのと入れ替わりでソッドが舞台に上がった。


「学生諸君、紹介しよう。ディオスの門番ソッドだ。彼は先日のゴブリンの集落壊滅戦での功績で権天使級プリンシパリティから能天使級パワーに昇進した帝国軍若手のホープである。シルバにはそんな彼とエキシビションマッチを擦る権利があるがどうする?」


 (どうするも何もやらなきゃ駄目な雰囲気じゃん)


 ジャンヌの質問は実質やると答えるしかないものだった。


 ここで断れば臆病者扱いされてしまう状況でシルバにやらないという選択肢はない。


 横暴なやり方ではあるもののシルバが迷惑がっているかといえばそうではない。


 入学試験では5分逃げ切ることが課されていたため、無理に攻めるような真似はしなかったがシルバだってソッドともっと戦いたいと思っていた。


「戦いましょう」


「そうこなくてはな。では、両者共準備が整い次第エキシビションマッチを開始するぞ」


「いつでもOKです」


「同じくです」


「エキシビションマッチ、始め!」


「壱式光の型:光線拳こうせんけん!」


「おぉ!?」


 シルバが自分にとって初見の型を見せたものだからソッドは驚いた。


 初めて拳から光線が放たれるのを見れば驚くのは当然だろう。


  (一番発生までのスピードが速い技だったんだけど避けられたか)


 シルバはソッドに初見の技を回避されて苦笑するしかなかった。


 個人の部の決勝戦ですら温存していた技を回避されればそうなるのも仕方ない。


「次は私の番だ!」


 ソッドは訓練用の刃引きされた剣を高速で振るっていくつもの斬撃を飛ばした。


 当たり前のことだが木剣よりも刃引きされた剣から放たれる斬撃の方が鋭い。


 その上、入学試験の時よりも放った斬撃の数が多い。


「參式水の型:流水掌りゅうすいしょう!」


 シルバはそれらの斬撃のコースを見極め、足捌きだけで躱し切れない斬撃のみ水を纏わせた掌で受け流してみせた。


「やはり良い! 君は実に良いぞ!」


「弐式氷の型:氷結刃ひょうけつじん!」


「多彩だな! それ!」


 シルバの放った冷気を纏う斬撃とソッドの放った斬撃がぶつかり合い、会場全体に金属音を響き渡らせた。


「手刀の斬撃で鳴る音じゃねえ!」


「ソッドさんとやり合ってるってマジか!?」


「ホントにとんでもねえ1年が入ったもんだ!」


 観客席ではシルバがソッドと今のところ互角に戦えていることに衝撃が走っていた。


「今度は近接戦といこうじゃないか」


 そう言った直後にはソッドがシルバと距離を詰めて刺突を放っていた。


「參式雷の型:雷反射らいはんしゃ!」


 シルバは全身に雷を纏わせ、ソッドの刺突に供えて構える。


 シルバの目はソッドの剣を完全に捕捉しており、ソッドはそれに気づいたから刺突を横薙ぎに変更した。


 横薙ぎへの変更がスムーズで違和感のないものだったため、ソッドの目にはシルバの反応が遅れたように見えた。


 だが、それはフェイクだった。


「弐式雷の型:雷剃かみそり!」


 シルバは右脚を振り上げて至近距離から帯電した斬撃をソッドの顔に向けて放った。


「お見事!」


 ソッドはあと僅かで攻撃が命中しそうなところを紙一重で躱し、そのままバックステップでシルバから距離を取った。


「すごいな! シルバ君は脚からも斬撃を放てるのか!」


「あれを躱されたのはショックです。至近距離で躱されたのは師匠以来ですよ」


「それは嬉しいね! 嬉しいついでにもっと力を解放してあげよう!」


 (やっぱりまだ上があるよなぁ)


 今までの戦いでソッドはまだ流している印象があった。


 だからこそ、シルバはソッドの発言にですよねと苦笑せざるを得なかった。


「ここからしばらくは私の攻撃が続く! しっかり耐え切ってくれよな!」


 そう言った途端、ソッドが剣を持ってない方の手を前に出して雷の矢をシルバに向かって連射した。


 ソッドは<雷魔法サンダーマジック>を会得していたのだ。


 <剣術ソードアーツ>だけでなく<雷魔法サンダーマジック>も使える魔法剣士ともなれば、帝国軍若手のホープとジャンヌに呼ばれるのも頷ける。


「參式雷の型:雷反射らいはんしゃ!」


 シルバはソッドの雷の矢に対して自身の体から雷を放出して相殺した。


 MPの消耗は普通にこの技を使う時よりも激しいが、こうでもしないとソッドの攻撃を防げないのだからそうするしかない。


「まだまだ!」


 ソッドは雷の矢ではなく雷の槍を連射する。


 シルバはMPの消耗を抑えるべく、フットワークだけでソッドの攻撃を躱し始めた。


 ただ左右に躱すのではなく、徐々にソッドと接近しているのだから大したものだ。


「良い! 実に良い!」


 ソッドは<雷魔法サンダーマジック>を雷の矢に戻しながら片手で剣を握ったまま刺突を放つ。


 これならば近づけば近づく程シルバの逃げ場所がなくなる。


「參式光の型:仏光陣ぶっこうじん!」


 シルバが技名を唱えた直後、シルバの手の動きに応じて背後に大仏の幻覚が現れた。


 大仏の幻覚が急激に光を放って周囲を光で包み込んだ。


 この技はそれ自体に敵の攻撃を回避する効果はなく、発光によって敵の隙を作ってその隙に回避もしくは反撃に繋げるものである。


 シルバはソッドがあまりの眩しさのせいで目を瞑った隙にソッドの背後まで駆け抜けた。


 光が収まった瞬間にシルバはソッドの首筋に向けて手刀を繰り出していた。


「甘い!」


 ソッドは頭の後ろに目でも付いているのではないかと疑いたくなるぐらい正確に回転斬りでシルバの腕を切断しようとする。


「弐式雷の型:雷剃かみそり!」


 咄嗟にシルバが手刀を繰り出した腕で技を発動したことにより、ソッドの剣はシルバの攻撃を防ぐために軌道を変えざるを得なかった。


 シルバは攻撃の直後にソッドと距離を取っていたのでソッドの攻撃は当たっていない。


 勝負がこれ以上長引けばシルバとソッドだけでなく、観戦している学生まで危険な目に遭うかもしれないと判断してジャンヌが口を開いた。


「そこまで! ソッドもシルバも見事であった! エキシビションマッチは以上とする!」


 (やっと終わったか)


 シルバはやれやれと心の中で溜息をついた。


 その一方でソッドは嬉しさと名残惜しさが半々といった表情だった。


 それでもシルバの戦いぶりに敬意を表して手を差し伸べた。


「良い試合だった。またやろう」


「わかりました。もっと強くなってから挑ませていただきます」


「楽しみにしておくよ。勿論その時には私も強くなってるからシルバ君も楽しみにしててくれ」


 ソッドはニッコリと笑って舞台から教員席の方へと戻った。


 その後、ポールがジャンヌから新人戦の進行を引き継いだ。


「んじゃ、今のエキシビションマッチをもって新人戦を終了する。最後に連絡事項を伝える。1年生は体を休めるために明日は休みだ。今日まで無理をしてきた奴もいるだろうからちゃんと体を休めろ。以上。各自自分の使った席だけ片付けたら帰って良いぞ」


 ポールは怠そうではあるがこの場で言っておくべきこと全てを伝えて新人戦を終了させた。


 シルバはB1-1のクラスメイトが集まっている控え席に戻ると一瞬で囲まれた。


「シルバ君すごい! ソッドさんと互角だったじゃん!」


「すげえな! ソッドさんマジ強いのに大したもんだ!」


「どうやったらそんなに強くなれるのかしら? 教えてちょうだい!」


「私も知りたい!」


「同じく!」


 クラスメイトの期待する目に申し訳なく思ったものの、ソッドと戦ったことによる疲れが溜まっていたのでシルバは困ったように笑った。


「あー、すまん。流石に疲れたからまた今度な。結構無理して戦ったんだ」


「大丈夫? 肩貸そうか?」


「そこまでじゃない。でも、この後もう一戦しろって言われたらしんどいかも」


「無理って言わないシルバ君の底なしの体力には脱帽だよ」


 シルバの発言にアルが戦慄するのも無理もない。


 なにはともあれシルバの新人戦は完全制覇で幕を閉じた。

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