第62話 悔しいって何を言わせるんですか!
シルバとアルは校長室を出た後に学生会室にやって来た。
今日は元々、学生会のメンバーが集まって業務を行う日だったのだが、ジャンヌに呼び出されていたためそちらを優先していたのだ。
「「おはようございます」」
シルバとアルが学生会室の中に入るとロウが真っ先に2人のバッジが変わったことに気づいた。
「おぉ、やっぱりシルバとアルが昇格してらぁ」
「シルバ君、アル君、おめでとうございます」
「おめでとう!」
「めでたい」
エイル達は拍手してシルバとアルを迎え入れた。
「「ありがとうございます」」
「エイル、シルバに追い抜かれた今の気持ちをどうぞ」
「悔しいって何を言わせるんですか!」
「先輩最低です」
「これだから虫は虫なんだ」
ロウがエイルを揶揄うとメアリーとイェンがジト目を向けた。
相変わらずロウは余計な一言が多い。
メアリーとイェンの言葉はロウにいまいち効いていないようだから、ここはアルの出番だろう。
「ロウ先輩」
「な、なんだ?」
ロウはアルが学生会に入ってから今日までの間の数か月、アルの言葉のナイフによってグサグサ刺されていたこともあって警戒している。
「お兄さんの政敵をシルバ君の働きで脱落させた功績で昇格したと思ったら、シルバ君がモンスターをバンバン倒して同格になりましたね。今どんな気持ちですか?」
「ぐっ」
「追い抜かされそうでブルってるんですか?」
「うぐっ」
「あっ、もうモンスターの討伐数で追い抜かれてましたっけ? すみませんでした」
「ぐはっ」
ロウは今日も鋭いアルの言葉のナイフによって膝から崩れ落ちた。
「流石アル君! 私達に言えないことを平然と言ってのける!」
「そこにシビれる! あこがれるゥ!」
(イェン先輩が大きな声を出すなんて珍しい)
メアリーはいじられていると声が大きくなる。
リアクションが大きいからロウもクレアもメアリーをいじりたくなってしまうのだ。
その一方、イェンはクールだから大きな声を出すことが滅多にない。
それなのにメアリーと同じぐらいのテンションで声を出したからシルバは珍しがった訳である。
ロウ達4人がじゃれている間にエイルはシルバに訊ねる。
「ところで、母とは他に何か話をしましたか?」
「3日後に5年生の軍の見学があると思うんですが、特別に俺とアルも参加して良いと言われました」
「うぇっ、マジで!?」
アルとメアリー、イェンと言い合いをしていたロウだけれど、エイルとシルバの話に耳を傾けていたらしい。
シルバとアルが帝国軍の見学に参加すると聞いてエイルよりも先に驚いていた。
「ロウ先輩、マジです。僕達よりも目立たないとコネが作れないんじゃないですか?」
「シルバとアルは絶対に俺と同じ所を見学するなよ?」
アルの発言から自分よりも2人が見学先で目立って引き抜かれる未来を想像してしまい、ロウは絶対に自分と同じ所には来ないでくれと頼んだ。
シルバには意図的にロウの邪魔をするつもりはないが、そもそも帝国軍の見学について何を見学できるのかわかっていない。
だからこそ、シルバはエイルに訊ねることにした。
「会長、軍の見学について詳細を教えて下さい。校長先生から詳細は会長に訊くようにと言われました」
「わかりました。説明しましょう」
エイルは
見学できる部門は大きく分けて戦闘部門と兵站部門、医療部門、参謀部門の4つだ。
戦闘部門は近接戦闘が得意な部隊と斥候が得意な部隊、魔法スキルが得意な部隊の3つに分かれる。
その部隊も見学する先は小隊単位で分かれており、戦闘コースの学生はほとんどがいずれかの小隊を見学する。
兵站部門は見学できるのが経理部と補給部の2つだけであり、会計コースの学生は経理部を見学して支援コースの学生は補給部の見学を行う。
医療部門は外科と内科、調薬科の3つを確認できて衛生コースの学生しか見学しない。
見学するには専門的な知識を要するので、仕方のないことだと言えよう。
参謀部門には戦術コースの学生が見学を希望する戦術課がある。
5年生は事前に見学したいコースを先に選んでアンケート用紙に記入して提出しており、定員よりも見学希望者の数が多い所だけ抽選が行われた。
だが、シルバとアルはそもそも参加する予定ではなかったのでそんなアンケートに答えていない。
「シルバ君とアル君は母から何処を見学するようになんて指示は受けてないですよね?」
「「はい」」
「そうなると定員オーバーではない所を紹介し、2人にはそこを選んでもらいます」
そこまでの説明を聞いていた時、ロウがエイルの補足をするように口を開く。
「ちなみに、見学希望の取りまとめと抽選を行うのは学生会の仕事だった訳だ。つまり、どこが見学できる定員を正確に把握できるってことさ」
「「おぉ」」
日々の業務がここに繋がっていたのかとシルバとアルは感心した声を漏らした。
「シルバ君とアル君は戦闘部門の見学で構いませんか?」
「俺は構いません」
「僕もそれで大丈夫です」
シルバ達の回答を聞いてエイルは戦闘部門の見学枠の空いている小隊を探す。
「ありました。近接戦闘が得意な小隊が2つと魔法スキルが得意な小隊が1つです。アル君が見学する小隊は残念ながら1つしか残ってないのでそこですね」
「わかりました」
シルバと別れて見学するのは嫌だと思っていても、アルが近接戦闘が得意な小隊を見学して学べることは魔法スキルが得意な小隊を見学して学べることよりも少ない。
それゆえ、アルは内心では渋々だが魔法スキルが得意な小隊の見学をすることにしたのだ。
残るシルバは2つの小隊のどちらかを選んで見学することになった。
「会長、残った2つの小隊の特徴はわかりますか?」
「どうなんでしょう? 私よりもロウの方が詳しいと思うのですが」
エイルがロウに視線を向けて説明を変わるように促すと、ロウが分かったと頷いて2つの小隊に関する内容をサラッと読んだ。
「1つ目の小隊は筋肉トレーニングクラブのOBが集まった小隊だ」
「2つ目の小隊はどんな小隊ですか?」
「考える余地なしかよ。2つ目はバランスの良い小隊だ。徒手空拳で戦う人もいるらしい」
「2つ目の小隊を見学します」
ロウはシルバが1つ目の小隊を選ばないだろうと予想していたので苦笑する。
「言うと思った。そんなに筋肉トレーニングクラブは苦手かい?」
「移動中も戦闘中も筋肉のことしか考えてなさそうですから、話を聞いていてもあんまり参考にならなそうです」
「だろうな。実際、見学を希望してるのは筋肉トレーニングクラブの連中だけだ」
シルバの考えは戦闘コースの5年生の多数派とおなじだったらしい。
「彼等に会うと常に筋肉の話をされますから疲れるんですよね。俺は筋肉を賛美したいぐらい好きって訳ではありませんから」
「その気持ちはわかる。筋肉はある程度大事だ。でも、筋肉を愛でて変な掛け声をするぐらい好きじゃねえんだよな」
ロウはシルバの言い分に確かにそうだと頷いた。
これ以上筋肉の話をしていても仕方がないので、シルバは話題を変えようと別の質問をする。
「軍の見学は2日間と聞いてますけど泊まりですか?」
「泊まりではありません。1日目も2日目も集合時刻に間に合うように軍の施設に来て下さい」
エイルの回答を聞いてアルはホッとしていた。
シルバと別れて見学するだけでなく、泊りがけの見学ともなれば自分の性別が誰かにバレてしまうリスクがあった。
そのリスクがないとわかればアルがホッとするのも無理もない。
「続けて質問です。持ち物の指定はありますか?」
「特にありませんよ。強いて言うなら筆記用具があった方がメモできて良いかもしれませんが」
戦闘部門はさておき、それ以外の部門ではメモを用意していた方が良いだろう。
何故なら、兵站部門も医療部門も参謀部門も頭を使うことが多いからだ。
全部が全部メモせず覚えてはいられないだろうから、自然とメモを取ることになるに違いない。
その後もシルバとアルは軍の見学について納得がいくまで質問してから、シルバ達は学生会の業務に着手した。
シルバ達の夏休みはまだまだ始まったばかりなのに2つ目の濃密な経験が始まろうとしている。
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