第63話 どうしてこうなった
帝国軍の見学当日、ロウは基地内にある集合場所の部屋にシルバとアル、エイルがいたこと、兄であるソッドが見学先の担当者としてその場にいたことに驚いた。
「どうしてこうなった」
「ロウ先輩、僕とシルバが同じ見学先になっちゃいましたけどどんな気持ちですか?」
「不幸だ」
「イェン先輩に良い土産話ができました」
「アル、ロウ先輩で遊ぶのはその辺にしような?」
「シルバ、お前もさり気なく酷いぞ?」
アルの精神攻撃もチクチクと痛むが、シルバもアルを止めているようで無意識ながらロウの精神を攻撃している。
自分よりもシルバとアルが見学先で目立って引き抜かれる未来を想像してしまい、ロウは本当になんでこんなことになったのかと兄を睨んだ。
ソッドはシルバ達が何故この場に集められたか疑問に思っていると判断して口を開く。
「見学者全員が揃ったところで4人の見学先を急遽変更することになった理由を説明しよう」
「そうしてくれ。兄貴が担当者としてここにいるのも含めてだけど、昨晩見学先の変更通知が来た時は焦ったんだから」
「悪いねロウ。本当は少し前からロウ達の見学先の変更を知らされてたんだが、私も今日まで口止めされてたんだ。ロウ達に見学してもらう小隊は従来の小隊よりも特殊だからね」
「特殊? まさか、軍の新たな試みだからまだ公にできないみたいな感じか?」
「良い勘してるじゃないか。流石ロウ」
ソッドはロウが僅かな情報から答えを言い当てたことを嬉しく思った。
「ソッドさん、私がここにいるのは衛生コース出身者もその特殊な小隊にいるからでしょうか?」
「エイルさん、正解。その通りだよ。試験段階の特殊な小隊、キマイラ小隊は部門横断的な小隊なんだ。戦闘部門と兵站部門、医療部門、参謀部門の精鋭が集められてるんだ。戦闘部門の私は門番業務をしながら兵站部門の知識学んでたし、それ以外の部門から配属されたメンバーもそこそこ戦えるんだ」
「そんな小隊があったんですね。私達に本日見学させていただけるようになったのは母の差し金ですか?」
「そうだと聞いてるよ。元々、キマイラ小隊はハワード先輩が提案した小隊だ。シルバ君とアル君を見学に参加させると決めてから、準備が間に合うようであればキマイラ小隊を見学させるようにってお達しがあった。校長先生の発言権は軍の中でも強いから、なんとしてでも今日に間に合わせるように仕上げを急いだって訳さ」
「シルバとアルが間接的に軍を動かした・・・だと・・・」
ロウが化け物を見るような目でシルバとロウを見た。
「ロウ先輩、そんなモンスターを見るような目で僕達を見ないでもらえますか?」
「そうだぞロウ。後輩が優秀なのは良いことじゃないか。それを不気味がるのは良くない」
「わかってるけど複雑な気分なんだよ。兄貴と優秀な後輩のおかげでキマイラ小隊なんて特殊小隊の見学ができることは」
「優秀な後輩だなんてそんなことないですよ」
「アル、兄貴がいるからって猫を被らなくて良いんだぞ?」
アルの様子が違和感のあるものだったので、ロウはいつもの腹黒いアルに戻ってくれと言外に告げた。
いつまでもこの部屋にいる訳にも行かないから、ソッドはパンパンと手を叩く。
「はい、雑談はここまでだ。今から小隊のメンバーが待機してる部屋に移動するぞ」
「「「「はい!」」」」
ソッドの雰囲気が変わったため、シルバ達は姿勢を正して返事をした。
ソッドの案内でシルバ達は基地内の一室に移動した。
ドアをノックしてその中に入ると、ソッドよりも体が大きく筋肉質な男性と白衣が似合いそうな女性、眼鏡をかけた秘書と呼んでも良さそうな雰囲気の女性の3人がいた。
「小隊長、やっと来たか」
「待ってましたよー」
「遅かったですね」
「ごめん。簡単な質疑応答をしてたんだ」
(待って。ソッドさんが小隊長なの?)
シルバは隊員同士のやり取りを聞いてソッドがキマイラ小隊の小隊長だと知った。
それはアル達も同じようで目を丸くしている。
ソッドは割と最近まで帝都の警備がメインの仕事だったから、そこからいきなりキマイラ小隊の小隊長になったと知れば驚かないはずがない。
「そうでしたか。では、時間は有限ですし自己紹介から始めましょう。私はエレン。
「俺はマルクス。同じく
「私はアリアでーす。私も
「みんな知ってるだろうけど念のため。私が小隊長のソッドだ。以上4人がキマイラ小隊なんだ。この件については内密に頼むよ」
ソッドに言われてシルバ達は首を縦に振った。
キマイラ小隊の自己紹介が終われば今度はシルバ達の番だ。
学生会長のエイルから順番に名乗る。
「こちらも自己紹介しますね。学生会長のエイル=オファニムです。H5-1に在籍する
「学生会副会長のロウです。B5-1に在籍する<
(ロウ先輩、丁寧な口調でも喋れたんですね。違和感バリバリです)
思わずそんな感想を抱いたシルバだったが、次は自分の番だったのですぐに名乗る。
「学生会庶務のシルバです。B1-1に在籍する<
「学生会庶務のアルです。B1-1に在籍する<
「あー、この2人がそうなんだー」
シルバとアルが名乗った直後にアリアがポンと手を打った。
2人はアリアに面識がないので首を傾げた。
「アリア、何がそうなんだ?」
マルクスは2人の気持ちを代弁するようにアリアに訊ねた。
「私の妹がねー、合同キャンプですごい人達と組んでミッションコンプリートできたって手紙をくれたのー。クッキーを分けてくれた男の子がカッコ良かったとも書いてあったねー」
その発言にピンと来たシルバはアリアに確認する。
「もしかして、アリアさんはメリルのお姉さんですか?」
「ピンポーン。メリルちゃんってば引っ込み思案なところがあるから心配してたんだけどねー。籤運が良かったみたいでお姉ちゃんホッとしましたー」
(言われてみれば似てなくもない?)
喋り方も雰囲気も全然違うけれど、姉妹だと言われればアリアとメリルの顔の形は似てなくもない。
2人の違いを比べているとアルがシルバの隣に立ってこっそり抓る。
「シルバ君? じろじろ見るのは失礼じゃないかな?」
「そうだな。失礼しました」
「全然平気だよー。そんなことよりクッキー持ってないかなー?」
アリアはメリルの手紙に書かれていたクッキーが気になるようだ。
エレンが溜息をつきながらアリアの耳を引っ張る。
「アリア、学生から集るんじゃありません」
「痛いよー。耳は引っ張らないでー」
「学生に集らないって約束できたら止めます」
「約束するからー」
「・・・良いでしょう」
これ以上アリアとじゃれているのも良くないと判断し、エレンはアリアの耳から手を放した。
微妙な空気になるのは避けたいところなので、ソッドが話題を変えようと口を開く。
「お互いの自己紹介も済んだことだし、見学を始めよう。早速だけど、僕達と模擬戦しようか」
「「「え?」」」
「兄貴ぃ・・・」
ソッドの発言にシルバとアル、エイルが固まり、ロウは自分の兄ならばそうなるよなと額に手をやった。
戦うのが好きというのもあるが、戦ってみれば相手の人となりがわかるというのがソッドの持論である。
この発言に対してエレンがどうするかと言えば・・・。
「そうですね。拳者様は百聞は一見に如かずと仰ったと記録されてます。私達が戦えるかどうかわかってもらうには模擬戦が手っ取り早いですね」
止めるのではなく賛成した。
もっとも、エレンの場合は戦うのが好きだからではなく、戦ってみた方が自分達の戦力を実感できるはずだと効率を優先してのことだ。
「良いんじゃねえの? タラタラ説明すんのも性に合わんし」
「私も賛成だよー」
キマイラ小隊は全員ソッドの意見に賛同した。
(ソッドさんが俺から目を離してくれない。戦う気満々ですね、わかります)
ソッドがすっかり自分と戦う気になっていると知り、シルバも覚悟を決めた。
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