第142話 私、頑張ります。シルバ君の隣でいつまでも若々しくありたいですから

 エイルが深呼吸して落ち着きを取り戻した後、シルバとアルはどちらが自分の事情を先に話すかと視線で話し合い、アルから話すことにした。


「まずは話の順番的に僕から話しましょう。先程お伝えした通り、僕は表立っては存在しないサタンティヌス王国の第二王女です。母は王城のメイドであり、生まれてからすぐに継承権争いで面倒なことになるからという理由で王城を追い出されたんです」


「妾の子ならば担ぎ上げようとする者がいるのは理解できますが、サタンティヌス王国には王子2人と王女1人がいましたよね。どうしてアリエルさんが担ぎ出される可能性があるんですか?」


「僕も10歳になるまで知らなかったんですが、サタンティヌスの国王の血を引く者の中で魔法スキルを会得してるのは僕だけらしいんですよ」


「・・・次期国王の全員が魔法スキルを会得してないならば仕方ありませんが、妾の子だとしても魔法スキルを使える子供がいたとしたら注目された結果、担ぎ出されてもおかしくありませんね」


 エイルはサタンティヌス王家の後継者のスキル事情を知り、アルが厄介な立ち位置にいることを理解した。


 アルがサタンティヌス王国を乗っ取ろうという野心を持っていたならば、その野心を嗅ぎ取った連中が現れるかもしれない。


 実際にはアルがそんな野心を持っていなかったが、第二王子が殺されて第一王子と第一王女が国王の座をかけてあらゆる攻防が繰り広げられている。


 ブラック級モンスターの出現で一時的に後継者争いは中断になったが、魔法スキルを使えない第一王子と第一王女以外に担げる神輿があるならば、そちらを優先しようとする者も出て来るだろう。


「そうなんです。母を王城から追放したクソ国王とその国なんてどうなっても構いません。連れ戻されると困るので、男装してディオニシウス帝国に逃げて来ました。当初はシルバ君にも男装してることを隠すつもりだったんですが、ちょっとしたトラブルでバレてしまったんです」


「ちょっとしたトラブルとはなんでしょう?」


「すみません。その部分だけは黙秘権を貫かせていただきます」


 話をそこまで聞いたエイルはシルバの方を向いて何をしでかしたんだという目を向けた。


 アルは男装がバレたきっかけを思い出して顔を真っ赤にしていた。


 元はと言えば、自分がシャワーを浴びるのにバスタオルを持って行くのを忘れたのが悪い。


 あくまでシルバは善意でバスタオルをアルに届けただけだったが、そこに女性用のパンツがあれば話は変わって来る。


 アルが女装好きの変態なのか、実は女子で男子に化ける必要があったのか。


 この2つの内どちらかが真実であり、どちらが真実だとしても事情があるともなればシルバは自分が強力するか否か決めなければならない。


  結局、アルは自分の体にシルバの手を触れさせるという手段を選び、自分が女であるとシルバにわからせた。


 これについては絶対に口を割るつもりがないとアルがかたくなに口を閉じれば、エイルもこれ以上は訊き出せなかった。


 その代わりにエイルはシルバに訊ねる。


「今度はシルバ君の番です。シルバ君は何者なんですか? シルバ君もどこかの国の王族だったりしませんよね?」


「物心ついた時には孤児院にいましたので、よっぽどのことがない限り俺はただの孤児ですよ」


「ですが、銀髪ってこの国じゃ珍しいですよね。実は皇帝陛下の血を引いてるとかありませんよね?」


「「「・・・」」」


 エイルの発言でシルバとアルだけでなく、ジャンヌまでも黙り込んでしまった。


 アルの話を先に訊いたせいでシルバも皇族尊い血の一員なのではとと考えたエイルだが、それ以外のメンバーは今までその発想をしていなかったらしい。


「キュイ?」


「ん? 大丈夫だぞ」


「キュウ」


 突然黙り込んだシルバにレイが大丈夫かと首を傾げて訊ねれば、シルバは笑ってレイの頭を撫でながら返事をした。


「エイルが言い出したことについては私が調べておこう。もしかすると、この国で起きた過去の未解決事件の調査に進展があるかもしれないのでな。それよりも、シルバには別に話しておくことがあるだろう?」


 ジャンヌがそう言ってシルバの血筋について話を終わらせたので、シルバは孤児院に預けられてからの話をすることにした。


「そうでしたね。と言っても、孤児院にいた時の話は面白くありませんので簡単に話します。いつも飢えてたので腹いっぱい食べたかった。それだけです。あの日も食べ物を探してたんですが、俺は割災に巻き込まれて異界に飛ばされてしまいました」


「シルバ君は異界にいたんですか?」


「6歳から軍学校の入学試験の2日前まで異界にいました。戻って来た日もたまたま割災があってこっちに帰って来れたんです」


「強い強いとは思っていましたが、シルバ君の強さは異界を生き抜いて身に着けたものだったんですね」


 エイルはシルバの強さが異界で生き残ったことによるものだったのかと納得したが、それでは50点の回答である。


「エイルさん、6歳で孤児院では特に何も学べてなかったひょろひょろの子供が異界に迷い込んだ後、何者の助けも借りずに生き残れると思いますか?」


「それは・・・。無理でしょうね。シルバ君を異界で鍛えてくれた存在がいた訳ですか。あぁ、シルバ君の師匠がここで登場するってことですね! 何者なんですか!?」


 シルバに師匠がいたことはエイルも聞いている。


 まさか、その師匠と出会ったのが異界だったとは思いもしなかっただろうが、エイルはまた一歩正解に近づいた。


「ヒントをお出ししましょう。俺の使う流派と家名はなんでしょうか?」


「流派は【村雨流格闘術】ですよね。いただいた家名はムラサメ・・・。もしかして、拳者様に所縁のある方ですか?」


「惜しいですね。師匠の名前はマリア=ムラサメです。この世界では拳者と知られてる本人です」


「えぇっ!?」


 自分の予想でも十分すごいことになっていたのに、それを上回る回答がシルバの口から飛び出したものだからエイルが驚かないはずがなかった。


「キュア~」


「なんでレイがドヤ顔してるの?」


「キュイ?」


 驚いたエイルを見て急にドヤ顔を披露するレイに対し、アルはレイに訊ねてみたけどいまいちレイが言いたいことを理解できなかった。


 そんなアルにシルバが助け舟を出す。


「レイは俺が師匠から鍛えられてすごいんぞって自慢してたんだ」


「そっか。拳者様がすごいって話はよく聞くもんね。シルバ君がすごい人の教えを受けたからすごいんだって言いたかったんだね」


「キュウ」


 アルの言葉にレイは正解だと頷いた。


 レイがアルと喋っている間にエイルは我に返って再び口を開く。


「拳者様ってかなり高齢ですよね。それなのにどうやってシルバ君を鍛えることができるんでしょうか?」


「<完全体パーフェクトボディ>ってスキルのおかげで、師匠は今でも全盛期の外見と肉体を保ってるんです」


「シルバ君!」


「・・・なんでしょう?」


 突然エイルが自分との距離を詰めて来たので、なんとなくその次に出て来るであろう言葉を予測しながらシルバは応じた。


「<完全体パーフェクトボディ>の取得方法を教えて下さい!」


 (うん、知ってた。その展開になるのは三度目だし)


 言うまでもないが、一度目はジャンヌで二度目はアルだ。


 シルバの師匠が全盛期の体を維持したマリアだと聞いた女性は必ずセットで同じ質問をするのである。


「詳細はわかりかねますが、師匠は毎日休むことなくルーティンを続けて来たことによって<完全体パーフェクトボディ>を会得したそうです。スキル獲得後に決めたルーティンを続ける限りは全盛期の体を維持できるそうです」


「私、頑張ります。シルバ君の隣でいつまでも若々しくありたいですから」


「僕だって頑張るよ。シルバ君と結婚するんだもの」


「という訳だ。シルバ、お前は学生寮を出て軍学校の外に家を借りるか買え。アルが実は女だったと公表するとしても、このまま学生寮で2人が同じ部屋で暮らすのは認められない。軍が補助を出してくれるから安く済むはずだ」


「あの、まだ俺は未成年なんですが」


 自分の意思に関係なく進んで行きそうなので、シルバがジャンヌに待ったをかけるがジャンヌは止まらない。


「私の娘とアリエル王女との結婚、いや、現段階では婚約になるか。それは不満か?」


「「・・・」」


 エイルとアルが不満だなんて言わないでと目で訴えながら自分の手を握るから、シルバは首を横に振るしかなかった。


「不満はありません。アルとエイルさんと婚約します」


「やったぁ!」


「やりました!」


 シルバにも遂に年貢の納め時が来てしまったようだ。 

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