第143話 レイ的にはこの家はポイント高いんだね
3日後、シルバとアル、エイル、レイは新居探しのために帝国軍と懇意にしている不動産屋に赴いた。
「ここがマイホーム商会か」
「ハワード先生もここで家を買ったって言ってたね」
「ロウとクレアも新居探しでこの商会を利用したと聞いてます」
「キュウ」
レイが心配そうな目をして自分に声をかけて来たので、シルバはレイを安心させるべくその頭を優しく撫でる。
「そうだね。ちゃんとレイも一緒に住めるところにしないとな」
「キュウ!」
レイの心配とは自分も一緒に住める家を探してくれるかという点に尽きる。
シルバがその点を忘れずに注文してくれると確信してレイはホッとしたようだ。
マイホーム商会にシルバ達が入った途端、店内にいた店員全員が立ち上がって頭を下げた。
「「「・・・「「いらっしゃいませ!」」・・・」」」
全員が元気な声で挨拶するあたり、マイホーム商会の店員に対する教育は行き届いているのだろう。
最も近くにいた女性の店員がシルバ達を席へと案内した。
「ようこそおいで下さいました。私は担当させていただくタリアと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「タリアさん、新居の購入を検討してます。3人と1体が入れる家はありますか?」
店員に対応するのはエイルだ。
シルバは
シルバ達の中でエイルだけが成人であり、
「いくつかございますが、予算はおいくらでしょうか?」
「3,000万エリカです」
「それだけあれば十分ですよ。今だと3件空き家がございます。これからお時間があるようでしたら、そのままお連れしますがいかがでしょうか?」
「お願いします」
「かしこまりました」
タリアに連れられてシルバ達は早速内見することになった。
最初に案内された物件は住宅街にある似たような一戸建ての家が並ぶ場所にあった。
「1件目の物件はこちらの右から2番目の家です。前にお住まいだった方は賃貸契約でしたが、7月に別の基地に異動になって空き家になりました」
「タリアさん、前の人はどれぐらい住んでましたか?」
質問したのはアルだった。
学生寮に入った時もそうだったが、アルは住居選びにおいて拘りを持っている。
今の質問もアルが内見する物件に対してどれぐらい期待できるかを推し量るためのものだ。
「前の入居者の方は4年と3ヶ月こちらの物件に住まわれておりました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
(アル的に前の居住者がその期間いたのはOKらしいな)
シルバはアルの表情を見て最初の物件がアルの基準をクリアしていることを悟った。
軍学校に入学して以来、ずっと同じ部屋で過ごして来たことでアルが期待している時の癖に気づいたからである。
その癖とは頬がピクッと動くことだ。
アルは感情を敢えてオープンにする時もあるけれど、基本的に感情を表に出さないようにして相手に自分が何を考えているか読み取らせないようにしている。
ただし、まだ彼女のポーカーフェイスは完全ではないから、期待できると思った時にニヤリと笑ってしまい、それを押し殺そうとして頬がピクッと動くのだ。
頬の動きはぼーっとしていれば見落としてしまう程度だったが、シルバはアルの変化に気づいていた訳である。
「では、鍵を開けますので入ってみましょう」
この家のドアの大きさならば、まだレイもドアを通って入れた。
シルバが抱っこするには大きくなり過ぎてしまったが、それでもまだ小さいのでワイバーンのレイであっても通ることができた。
3LDKのこの物件は床がフローリングになっており、掃除も比較的しやすい家だった。
「キュウ」
「そうだな。レイも一緒に入れるサイズの部屋で良かったよ」
「キュウ♪」
シルバと一緒の部屋に泊まれると聞いてレイは嬉しくなったらしい。
各々の部屋を見て回った後、エイルがタリアに訊ねる。
「この物件はおいくらですか?」
「購入だと2,380万エリカですね」
最初の物件は払える金額だとわかってシルバ達はキープしたまま2件目へと移る。
2つ目の物件は最初の物件から徒歩5分圏内にあるらしく、すぐに目的地に到着した。
そこは1件目と比べて老朽化が若干進んでいる見た目をしていた。
「タリアさん、こちらはおいくらになりますか?」
「購入ですと1,560万エリカです。前の入居者の方はこの家を賃貸契約で2年で異動されましたね」
(また異動か。軍人って大変だよなぁ)
しみじみと思うシルバの様子が少しだけ変だったので、レイはシルバに甘えて頬擦りした。
「よしよし。ありがとう、レイ」
「キュウ」
元気が出て良かったとレイはシルバに頬擦りするのを止めた。
全体的に経年劣化で色褪せたり修理したであろう痕が見受けられ、購入する場合は最初の物件よりも安くなることが明らかだった。
しかし、レイと一緒に屋内で過ごすにはスペースが足りない気がしたため、シルバ的には2件目の物件は駄目だった。
「ムラサメ様とレイ様がご納得いただけなかったようですね。それでは、次が最後の物件です」
最後の物件は前の2件の位置から少し離れており、10分程馬車で移動する必要があった。
そこにあったのは2階建ての家であり、とてもではないが予算の3,000万エリカでは収まりそうになかった。
場所は大通りから1本外れたところにあるが、それでも前の2件と比べて軍学校や軍の基地、帝城に近い位置にある。
エイルはなんでタリアがこの物件を紹介しようと思ったのか気になり、それを訊ねることにした。
「タリアさん、この物件が3,000万エリカで収まるとは思えないのですが、紹介する物件を間違ってませんか?」
「いえ、こちらで合っております。実は、この物件は外見こそ普通の見た目ですが中は一般的なデザインではないんです。その結果、何人かお試しで借りていたお客様達も長く借りることはなく、購入する場合は値下げして2,540万エリカになりました」
(一般的なデザインとは違うってどういうことだろう。さっぱりわからん)
特に建築物の一般的なデザインに明るい訳ではないから、シルバは早く中に入って内装を確かめてみたくなった。
タリアがカギを開けてシルバ達を中に入れると、そこにはデザイナーズハウスと呼ぶべき空間が広がっていた。
玄関からしてお洒落なのはさておき、リビングの中心に柱と螺旋状のストリップ階段がある。
1階の天井がリビングのある家の中心部だけ2階と一緒になっており、リビングダイニングキッチンは使い勝手と広さを意識したものになっていた。
その他には1階に浴室があり、寝室は2階に3つある。
2階に上ってみると、1階に落ちないように手すりが設置されているだけでなく、端の方に屋上に繋がるストリップ階段があった。
屋上はシルバが日課のトレーニングをするには丁度良い広さだったし、1階で作った料理を屋上で食べるなんてこともできそうだった。
「キュイ!」
「レイ的にはこの家はポイント高いんだね」
「キュウ♪」
1階が広く感じられるだけでなく、レイの体が大きくなってもリビングの窓をスライドさせればそこから入って来れると思ったらしい。
レイもちゃんと大きくなった時のことを考えているようだ。
シルバはマリアが異界に建てた家もデザイナーズハウスに近かったため、受け入れるのに対して時間はかからなかった。
「俺もここが良いなって思うんだけど、アルとエイルさんはどうかな?」
「僕は全然ありだと思うよ。こういう家も面白いと思うし」
「私も構いませんよ。全体的にお洒落ですし、レイちゃんも一緒に暮らせそうですから」
シルバ達がこの物件を買ってくれるとわかるとタリアはとても良い笑顔になった。
「こちらに決めていただけるんですね?」
「ええ。みんな気に入ったようですのでここにします」
「オファニム様、ありがとうございます。そうしましたら、またしても売れ残る危機を回避したということで、特別サービス価格の2,500万エリカで提供いたします!」
タリアが是非とも買ってほしいからと最後の値下げを行った。
彼女にはそれをするだけの権限が与えられており、マイホーム商会としては早く売ってしまいたい家を買ってもらえるのだからと最後の一手を売ったのである。
シルバとアル、エイルの貯金に加えて帝国軍の補助もあり、即金で支払ったことでこの家はシルバ達の家になった。
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