第144話 ・・・融けてしまいそう
シルバ達が家を買って数日後の昼、89期学生会のメンバーがその家に招待された。
「「「「お邪魔します」」」」
「「「いらっしゃいませ」」」
「キュイ!」
シルバ達がメアリー達を迎え入れた後、レイは軽いノリで挨拶するように左の翼を上げた。
女性用の服を着ているアルを見て、メアリーはピタッと止まった。
「アル君って本当に女の子だったんだね」
「掲示板でお伝えした通りです。厄介な敵に追われてたので男装してシルバ君に守ってもらってましたが、その敵が消えたと報告が入りました。だから、これからはアリエルとして生きることにしました」
「それじゃアリエルちゃんって呼ばなきゃ駄目ですね」
「そうですね。なので、僕がシルバ君のお尻を狙ってるという同性愛疑惑はもう晴れたってことで良いですよね?」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
(流石はアリエル。容赦なく会長のメンタルを攻撃するね)
とびっきりの笑顔でメアリーに声にならない悲鳴を上げさせるあたり、アリエルが性別を偽らなくなったとしても素の性格は変わらないらしい。
イェンはメアリーを放置してエイルの方を向いた。
「会長は置いといて新妻感が出てるエイルさんの方が気になります」
「新妻っぽいですか? そう見えますか?」
「ええ。どこからどう見ても新妻です」
シルバがアリエルとエイルと婚約して同棲を始めたことは、89期学生会のメンバーとキマイラ中隊のメンバーに知らされている。
それゆえ、シルバと一緒に暮らし始めたことで新妻らしさが途端に現れたエイルにイェンは静かに驚いていた。
ちなみに、イェンがエイルに新妻らしさを感じ取ったのは自分達の着席したところに飲み物を持って来た点である。
夫の仕事仲間が家に来た時の絵にするだろう描いたような妻の対応を見て、イェンがそのように感じるのは無理もない。
「お、大きい家ですね。た、高かったんじゃないですか?」
「高かったよ。軍からの補助込みで2,500万エリカで買った訳だし」
「き、金貨のいる買い物だなんて・・・」
自分には縁がない桁の金額で買い物が行われたと知り、メリルがアワアワしているけれどこればかりはこういうものだと受け入れるしかあるまい。
「レイさんも一緒に住める家ってすごいですね」
「キュウ♪」
「だよな。俺も驚いてる。良い買い物をしたよ」
ジョセフはシルバに甘えるレイを見てこの家は普通とは違うと感心していた。
レイが自慢の家なんだとご機嫌に応じると、シルバはレイの頭を優しく撫でながらジョセフの言葉に応じた。
89期学生会のメンバーがシルバ達の家に呼び出されたのは学生会の合宿をここで行うためだ。
昨年まではエイルが学生会に所属していたから、オファニム家の別荘で合宿をしていたけれど、エイルが卒業してしまった今、オファニム家の別荘を合宿の会場にすることは難しい。
だからこそ、新しく買ったシルバ達の家で合宿がやれると知ってメアリーはシルバ達に感謝した。
「シルバ、これはお土産。美味しそうだから買って来た」
「イェンさんセレクトですか。ありがとうございます。美味しそうなクッキーですね」
食べ歩きのプロであるイェンが合宿に来る前に手土産を用意して来たので、シルバは期待した様子でクッキーを受け取った。
エイルがそれを率先して受け取り、大皿に入れてキッチンから戻って来る姿はイェンではないが新妻感が出ていると言えよう。
クッキーが大皿に入れられて提供された後、89期学生会の合宿が始まった。
「まずは元気なうちに写真を撮りましょうか」
「私が撮ってあげますね」
「よろしくお願いします」
メアリーが先に写真を撮ろうと言い出すと、この場で唯一89期の学生会に属さないエイルがカメラマン役を引き受けた。
エイルが写真を撮ってメアリーに個人の掲示板に送った後、本格的に合宿のプログラムに移る。
「まずは例年同様、夕食までにお互いをもっと知るために自分にまつわるクイズを出し合いましょう。皆さん、クイズを3問ずつ用意してきましたか?」
「「「「「はい」」」」」
「キュ」
「レイちゃんも考えてくれたんですね。ありがとうございます」
「キュイ」
自分の問いかけにレイも返事をしてくれたため、メアリーはほっこりした気分になった。
「それでは、言い出しっぺの私からシルバ君、イェン、アリエルちゃんと役職順でクイズを出し、メリルちゃんとジョセフ君は階級も同じなので学年順でメリルちゃんを先にさせてもらいますのでそのつもりでお願いします」
エイルの説明を聞いて再びメンバー全員が頷いた。
誰からも反論がないのを確認してからメアリーは質問を出し始める。
「第一問。私の実家は雑貨屋と服屋のどっちだ? そうだと思う方に手を挙げてね。雑貨屋だと思う人?」
ジョセフ以外全員の手が挙がった。
「なるほど。ジョセフ君以外全員雑貨屋なんだ。ジョセフ君、なんで私の実家が服やだと思ったのかな?」
「今日の会長の服装がお洒落だからです」
「・・・融けてしまいそう」
「会長が恋に落ちた音がした」
(何それ? そんな音があるの?)
メアリーが顔を赤くするのを見てアリエルが隣でボソッと呟いたが、シルバはそれに心の中でツッコんだ。
声に出してツッコんだら女心がわかっていないねと言われそうだと判断したのだから、それだけでもほんの少し成長したのかもしれない。
「オホン、ジョセフ君のコメントは嬉しいんだけど、クイズとしては雑貨屋が正解だよ。もし良かったら、リード商会をご贔屓にね。次はシルバ君よろしく」
まだ顔が赤いメアリーは早口でそう言ってシルバにバトンタッチした。
気持ちを落ち着かせるためには自分に注目が集まらないようにしたかったのだろう。
「では第一問。俺とレイが最近始めた毎日やってることはなんでしょう?」
「添い寝」
「それは毎日ですがレイが生まれてからずっとです」
イェンが真っ先に答えたが、最近という条件にヒットしなかったので不正解だった。
「はい」
「ジョセフ」
「散歩です」
「正解。レイと一緒に空の散歩をしてます」
「俺、それ見たことあります。シルバ先輩が空を走ってるのを見てびっくりしました」
(早朝か夜にしかやってないのに見られてたのか)
日中にレイと一緒に空を散歩していたら騒ぎになると思い、早朝か夜になってからしかやっていなかったのだが、ジョセフは偶々目撃していたらしい。
シルバの出題が終わったら次はイェンの番だ。
「私が学食で毎週火曜日に食べてたのはじゃがいものガレットとトルティーヤのどちらでしょう?」
イェンの質問を聞いたシルバは火曜日にイェンと遭遇した時のことを思い出した。。
「じゃがいものガレットだと思う人?」
この問いに手を挙げたのはシルバとアリエル、メアリーだった。
「トルティーヤだと思う人?」
残る2人はこちらに手を挙げた。
「正解はじゃがいものガレット。会長、なんで私が火曜日はいつもこれを食べてると思いますか?」
「えっと・・・。ごめん、わからない」
「シルバは?」
「火曜日に毎回食べると食堂のおばちゃんに認知させることで、できたてだったりちょっと大きいガレットを貰うためですかね?」
「満点の回答。流石シルバ。わかってるね」
「ありがとうございます」
シルバが自分のやり方をよく理解しているとわかり、イェンの機嫌が良くなった。
「「ギルティ」」
そんなイェンとシルバのやり取りを見て、目の笑っていない笑みを浮かべたアリエルがシルバの腕に抱き着いた。
(やべっ、やっちまった)
アリエルに嫉妬させてしまったと判断したシルバは慌ててフォローする。
「いや、偶然だからね? 俺も似たようなこと考えて食堂で注文するからそう言っただけだからね?」
「シルバと私は食事という点で共通点が多い」
「イェン先輩? なんでそこで火に油を注いじゃうんですか?」
「つい」
ついで済んだら衛兵や軍人は要らないのだが、今はそんなツッコミを入れている場合ではない。
隣のアリエルもそうだが、実はキッチンにいるエイルも先程からジト目をシルバに向けている。
その視線に気づいているからこそ、イェンの余計な発言にシルバは困った。
「アリエル、落ち着こう? アリエルとエイルさんはイェンさんが揶揄ってることぐらいわかるよな?」
「シルバ君がそこまで言うなら信じるよ。イェン先輩、次やったら僕の脅迫手帳の力を思い知ってもらいます」
「・・・以後、気を付ける」
何人もの軍人や学生を怖がらせてきた脅迫手帳が出て来れば、イェンもこれ以上ふざけてはいられない。
藪をつついて蛇を出すなんてことは御免だからだ。
その場が収まったことでシルバはホッと一息ついた。
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