第145話 アリエルさんや、周りがドン引きしてるけど良いのかい?

 イェンの後はアリエルの番だ。


「問題です。僕の脅迫手帳の中身はびっしり書き込まれてる。○か×か?」


 アリエルの質問を聞いてシルバ以外がギョッとした。


 アリエルの質問の意図がわからなくてそうなったのだ。


 びっしり書き込まれてるとしたら、それは存在するだけでトラブルを引き起こす代物になるし、まだまだ書き込めるスペースがあるならばこれからも他人の弱みを握っていくという意味合いにも取れる。


「○だと思う人?」


 シルバ以外の全員が手を挙げた。


「シルバ君だけ×なんだね。なんで×なのかな?」


「アリエルが奪われるリスクのある手帳に人の弱みを書き込んでるはずがない。多分、中身は全部記憶してその手帳は見せて他人に言うことを聞かせるのに便利な小道具のはずだ」


「正解。シルバ君は僕のことをちゃんと理解してくれてるね。嬉しいよ」


 (アリエルさんや、周りがドン引きしてるけど良いのかい?)


 89期学生会に加え、このクイズに耳を傾けていたエイルもドン引きしている。


 レイは特になんとも思っていないようで、シルバに頬擦りして撫でてほしそうに甘えていた。


 ドンと構えているあたり、この中で最もブレないのはレイなのかもしれない。


「はい。じゃあ、アリエルの手帳を奪ってもどうしようもないとわかったところでメリルの番だ」


「は、はい。私の趣味は小物作りですが、最近作り終えた編みぐるみは何の編みぐるみでしょう?」


 メリルが噛まずに言えたことはさておき、その質問に対する答えを出すのは難しい。


 二択の選択問題ならまだしも、候補から自分で考えなければならないのだから大変だ。


 最初に手を挙げたのはメアリーだった。


「はい」


「か、会長。どうぞ」


「ずばり、レイちゃんだと思う。この前はレイちゃんのクッションを作ってあげてたし」


「せ、正解です」


「「「「おぉ・・・」」」」


 一発で正解を導き出したメアリーにシルバ達が感嘆の声を漏らした。


 (やっぱり似た者同士だから、会長はメリルの考えを読めるみたいだな)


 シルバはメリルが89期学生会に入るにあたり、面接をした時のことを思い出した。


 あの時からちょくちょくメアリーとメリルには共通点が見受けられたので、メアリーがメリルの良き理解者となってくれることを祈った。


「最後は俺ですね。問題です。俺の腹筋はいくつに割れてるでしょうか。6つか8つのどちらかから選んで下さい」


 自分の腹筋が割れていることを前提に質問を出すとは、ジョセフもなかなか攻めている。


 メアリーがそわそわし始めているけれど、一体何を期待しているのかわからないので誰も触れたりはしない。


「6つだと思う人は挙手をお願いします」


 手を挙げたのはシルバとイェンだった。


「ありがとうございます。8つだと思う人は挙手をお願いします」


 残ったアリエルとメアリーが手を挙げた。


 どちらが正解なのか知らせるべく、ジョセフは自分の着ていたシャツを捲った。


「正解は6つです」


「も、もう、ジョセフ君、いきなり腹筋を見せるなんていけない子ですね」


「会長、手で隠れてないよ。チラチラ見てるのバレバレ」


「ほぇっ!? しょんなことにゃいよ!」


 イェンに指摘されたメアリーは噛み噛みになって応じた。


 明らかに図星で動揺している。


「会長って本当にむっつりですよね。前にシルバ君の腹筋がチラッと見えそうになった時も見てましたし」


「にょあ!?」


「えっ、そうだったの?」


 アリエルの発言によって知られたくないことを知られてしまったメアリーは顔を真っ赤にした。


「か、会長は筋肉が好きなんですか? も、もしかして、筋肉トレーニングクラブに好きな筋肉を持つ人がいたり?」


「それはないよ。ああいう暑苦しい筋肉の塊に興味はないの。私が好きなのは細マッチョって、あっ・・・」


 メリルの質問を受けて急にキリッとした表情で早口になったメアリーを見て、シルバ達は引いていた。


 それに気づいたメアリーはやってしまったと気づいて言葉を詰まらせた。


「会長、やっぱり部屋の中で『歪みねえな』って叫んだんじゃありませんか?」


「叫んでないよ!」


 以前掲示板でアリエルが打ち込んだ内容についてメアリーは否定したけれど、今までの話の流れからして本当かどうか怪しくなって来た。


 その後、2週目と3周目の質問を行ってシルバ達は更にお互いへの理解を深めた。


 3周目の質問が終わった頃には日も暮れて来たので、シルバ達はエイルが下準備をしてくれていた食材を使い、屋上でバーベキューをすることにした。


「エイルさん、準備してくれてありがとう」


「いえいえ。これも私の花嫁修業の一環ですから」


「むぅ。僕も手伝っておけば良かった」


 シルバに感謝されるエイルを見てアリエルは羨ましそうにコメントした。


 89期学生会の一員として、お互いを知るためのクイズに参加しなければならなかったから、エイルの下準備を手伝えなかったのだ。


 串に肉と野菜を交互に突き刺し、それを網の上で焼く。


 エイルはオファニム家のお嬢様だが、料理ができない訳ではない。


 絵が下手だから不器用という訳ではなく、手芸もできるし料理も嗜む程度にはできる。


 焼く時はシルバも手伝っており、シルバの横には串焼きができるのを楽しみに待っているレイの姿があった。


「レイ、できたよ。熱いから気を付けて食べるんだぞ」


「キュウ!」


 串をうっかり呑み込んでしまってはいけないので、シルバが串から外して皿に盛りつけた状態で差し出すとレイはガツガツとそれを食べた。


 あっという間に平らげてしまい、レイは嬉しそうにしている。


「キュイ♪」


「美味いか。良かった」


「キュイキュイ」


「もっと食べたいんだな? 食いしん坊さんめ」


 皿を突いてから自分を見つめる例を見て、シルバは仕方ないなとレイに串焼きを取って串を抜いてあげる。


 レイが嬉しそうに食べているが、これでは自分の分を盛りつけて食べるタイミングがない。


 シルバが全然食べられていないことに気づいたアリエルは、シルバに串を差し出す。


「シルバ君、僕が食べさせてあげるよ。はい、あーん」


「ありがとう」


 特に照れた様子を見せることなく、シルバはアリエルが差し出した串にかぶりつく。


 それを見たエイルは出遅れたと思ったらしく、今度は自分の串を食べてもらうんだと差し出す。


「シルバ君、こっちも食べて下さい。あ~ん」


「ありがとうございます」


 エイルが差し出した分もシルバは躊躇うことなくかぶりついた。


「シルバがエイルさんとアリエルを侍らせてる」


「イェン先輩、人聞きの悪いことを言わないで下さい」


「そう見えるのは事実。モテない男性から僻まれるから注意した方が良い」


「それはまあ、そうかもしれませんね。注意します」


 イェンの言い分を聞いてシルバは納得したから頷いた。


 帝国軍の基地や軍学校を歩いていると、尊敬や注目の眼差しを向けられるだけでなく嫉妬の視線も向けられている。


 ただでさえ悪目立ちしているというのに、美人なエイルや中性的だけど将来は美人確定のアリエルから甲斐甲斐しく世話をされているところを見れば、余計なトラブルが起きても仕方ない。


 力天使級ヴァーチャーに昇格したことによって重婚が可能になった。


 女性の数の方が多いディオニシウス帝国だが、それでも結婚できない男性は一定数いる。


 そういった者達から僻まれるのは面倒だから、シルバはイェンの言い分に納得したのだ。


 屋上でのバーベキューだが、食べた量はレイとシルバ、ジョセフの次が実はイェンだったりする。


 スレンダーな体のどこに食べた者が消えているのか、アリエル達は不思議なものを見る目で見ていた。


 洗い物を含む片付けはシルバとジョセフが行い、女性陣は順番に風呂に入っている。


 湯舟が大きめに作られており、2人までなら一緒に入れるようになっているので将来的にシルバ達が混浴するかもしれない。


「シルバ先輩、この後にちょっとだけ腹ごなしに付き合ってもらえませんか?」


「良いよ。屋上でやろうか」


 片付けを済ませた後、シルバとジョセフは軽く模擬戦を行った。


 屋上とはいえ街中なので、大声を出したりスキルを使うのは禁止として純粋な肉弾戦だけでの手合わせである。


 若干食べ過ぎな感じがしていたため、シルバもジョセフも模擬戦のおかげで丁度良い感じで腹がこなれたようだ。


 汗を風呂で流した後、寝るまでにはまだ時間があったので色々とおしゃべりをしてから就寝した。


 新居で客人用のベッドも布団もない子とはわかっていたため、メアリー達は持参した寝袋で寝たのは仕方のないことである。

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