第14章 拳者の弟子、自宅で合宿を開く

第141話 なんですって!? 男装してシルバ君と同棲してたんですか!?

 8月、シルバは2回目の夏休みを迎えた。


 その初日、期末テストを終えたシルバとアルはジャンヌにオファニム家の別荘に招待された。


 レイはシルバを運べるぐらいの力を持っているが、アルも運ぶにはまだ力が足りないので今はオファニム家の馬車に乗せてもらっている。


 卵から孵ったばかりの頃は馬車に乗ると外を見て目を輝かせていたのだが、今となってはシルバの膝を枕にして気持ち良さそうに寝ている。


「ぐぬぬ、またしてもシルバ君に期末テストで負けた」


「俺が1位でアルが2位。これはもう卒業まで変わらないかな」


「シルバ君は今回もアル君にテストで勝ったんですね。今回は何点差だったんですか?」


「1点差です。僕が1点問題を落としちゃいました」


 エイルの質問にアルは悔しそうに答えた。


 エイルはアルがシルバと張り合う姿を見て寂しそうに笑う。


「テストを受けなくて寂しいと思ってしまうなんて、私もまだ軍学校に未練があるようです」


「ロウ先輩ならテストがなくて大喜びだと思いますけど」


「そうですね。この前もテストという拷問から解放されて俺は自由の翼を得たとか変なことを言ってました」


 シルバはロウがエイルと違ってテストを受けずに済んで大喜びだろうと思っていたが、その予想は当たっていた。


「ところで、今日は僕とシルバ君が校長先生に呼ばれたんですよね? どんな用事があるんでしょうか?」


「私も教えてもらってないのでわかりません。訊いてもシルバ君達が来た時に話すとしか行ってくれませんでしたから」


「そうなんですね。クレアさんは別荘にいるんですか?」


「いえ、今日はクレアがロウと新居を探す予定ですから、別荘には私達だけになりますね」


「ロウ先輩が着々とリア充ロードを進んでますね」


「あはは、リア充ロードですか・・・」


 アルが新しい言葉を創り出すが、エイルはその意味をなんとなく理解したので苦笑した。


 ロウが能天使級パワーに昇進した後、クレアは早くロウと結婚しなければという気持ちになった。


 キマイラ中隊第二小隊はブラック級モンスターを2日間で4体も倒しているから、帝国軍や軍学校で注目の的になっている。


 ロウとクレアは婚約しているが、それでも結婚までは至っていない。


 婚約しているからと気を抜いていたら、ロウをどこぞのハイエナ女子に奪われるかもしれない。


 それゆえ、クレアは軍学校1年から付き合って来たロウを奪われたくないので、一緒に新居を探している様子をアピールしてロウに手を出させないようにしている。


 そんなことをせずとも、さっさと籍を入れてしまえば良いのではと思うかもしれないが、ロウがソッドに気を遣って入籍は待ってほしいと頼んでいるのだ。


 ソッドは今、参謀部門のマチルダと同じ小隊で自分を補佐するエレンの2人から求婚されている。


 皇帝フリードリヒ力天使級ヴァーチャー以上の軍人なら重婚して良いと宣言したことにより、マチルダとエレンが和解して手を組んだのである。


 鈍感なソッドといえども、魅力的な女性2人から求婚されれば流石に彼女達の好意に気づかないはずがない。


 すぐに結婚しようと思ったのだが、マチルダの祖父が亡くなってしまったため、今年は喪に服して結婚を来年に延ばした。


 義理の姉とはいえ、そこで自分は関係ないと言ってクレアと先に結婚するのはロウの昇進を好ましく思わない誰かに攻撃材料を与えかねない。


 そのような経緯があり、来年ソッド達が結婚するまでクレアに結婚するのは待ってほしいとロウはお願いしている。


 とは言いつつも、入籍をしていないだけで今はロウと2人でアパート暮らしをしているし、新居も結婚前に確保することになっているからアルがリア充ロードなんて口にした訳だ。


 それはそれとして、実はシルバが軍学校の中で人気になっている。


 2年生で力天使級ヴァーチャーまで昇進し、ブラック級モンスターも無傷で倒せるシルバには彼女も婚約者もいない。


 であるならば、女性陣はシルバという可能性の塊のパートナーというポジションを掴み取ろうとシルバにアピールするようになった。


 そのほとんどはアルの脅迫手帳でおとなしくなったけれど、それでも隙あらばシルバにアタックしようとする女子学生は絶えない。


 アルの方はと言えば、脅迫手帳の存在や戦い方から女子学生達に畏れられており、シルバとは対照的に誰からも言い寄られることはなかった。


 もっとも、アルは性別を偽って軍学校に入学しているので、女子学生から告白されても断るしかないのだが。


「レイ、別荘が見えて来たぞ。そろそろ起きて」


「キュ~?」


 若干寝惚けた感じが残る声でもう着いたのかと訊ねるレイを見て、シルバは良い子だから起きなさいとその頭を優しく撫でる。


 そうしている内にレイの頭も覚醒して来たようで、馬車が停まった時にはレイの頭はしっかり働いていた。


「キュイ!」


「大きいよな。俺も始めて来た時はびっくりした」


 普段は学生寮の部屋と教室、第二小隊の部屋しか入らないので、別荘という独立した建物にレイは興味深々のようだ。


「「「・・・「「お嬢様とシルバ様、アル様、レイ様、ようこそお越し下さいました」」・・・」」」


「出迎えありがとう。母はもう着いてますか?」


「はい。奥様は書斎にいらっしゃいます。お嬢様方が到着されたら応接室に通すように申し付けられております」


 メイド長がそのように伝えてから、シルバ達は応接室に案内された。


 シルバ達が応接室に通されてから数分後には校長ジャンヌが応接室にやって来た。


 立ち上がろうとしたシルバとアルだったが、ジャンヌに手で制されたので座ったままにした。


「よく来たな。今日はシルバとアル、そしてエイルにとって大事な話をするために来てもらった」


「俺達に大事な話とは特別なミッションですか?」


「・・・シルバ、お前は真面目で力もあって頼りになるが、もう少しプライベートな部分にも頭を回せ。これならアルがわざわざ守らなくとも篭絡されることはなかったな」


「篭絡? なんのことです?」


 シルバはジャンヌが何を言いたいのかわからなかったが、この手の話ではシルバよりも賢いアルは今日この場に自分達だけが集められた理由を察して真剣な表情になった。


 エイルもアル程ではないが、この場に集められた理由に心当たりがあったのか真面目な表情になっている。


「アルもエイルも気づいてるというのに、シルバはまだ気づかんか。これ以上回り道するのも時間の無駄だから率直に言おう。シルバ、エイルを嫁に貰ってくれないか?」


「え? エイルさんを嫁に?」


「そして、アルも嫁に貰ってしまえ」


「・・・どういうことですか母様? アル君は男の子でしょう?」


 母親ジャンヌがとんでもないことを言い出すものだから、それまで黙っていたエイルが口を開いた。


「アル、いや、、本気でシルバと結婚したいならここでエイルに真実を話してもらいたい」


 そこまで言われてしまえばアルに逃げ場はないから、アルは覚悟を決めるしかなかった。


「母様、アリエル王女ってアル君はどこかの国の王族なんですか?」


「それは本人から話してもらうべきだ」


 エイルはジャンヌにアルから聞けと言われてアルの方を見た。


「エイルさん、僕は校長先生の言う通り王女です。とは言っても、表立っては存在しないサタンティヌス王国の第二王女ですが」


「なんですって!? 男装してシルバ君と同棲してたんですか!?」


 (驚くのそこなの?)


 エイルの反応がシルバの予想と違ったものだったため、心の中でシルバはツッコんだ。


「エイルさん、僕が王族ってことには驚かないんですね」


「アル君の政治に関する知識やマナー等を見れば、どこかの国でそれなり以上の地位がある方の子供であることは察せます。そんなことよりもシルバ君と同棲してたんですか?」


「エイル、落ち着け」


「いいえ、落ち着いていられません。母様は真実を知ってて学生寮でシルバ君とアリエルさんを同棲させてたんですか?」


 エイルからは普段感じられない圧が放たれていた。


 これには母親のジャンヌも驚いてしまい、次の言葉を口にするまで少しの間ができてしまった。


 しかし、対応を間違えてはいけないのでそれも仕方のないことだろう。


「すまない。シルバはアリエル王女の出自を知ってたからな。サタンティヌス王国の者がアリエル王女を奪還しようと仕掛けてくる可能性を考慮し、護衛として同室で過ごすことを許可した」


「では、シルバ君もサタンティヌス王国の出身なんでしょうか?」


「それは違います。エイルさん、俺も自分のことを話しますから落ち着いていただけませんか? レイも怖がってますし」


「・・・失礼しました」


 シルバにそう言われてエイルがレイの方を見てみると、レイが自分を見て怯えているのがわかった。


 レイを怖がらせるぐらい怒っていたと知り、エイルは深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

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