第302話 BLTって言ったらバハムートレタストマトだ

 3日後、シルバ達はムラマサ城の地下空間に集まっていた。


「ティファーナ、始めてちょうだい」


「わかりました」


 マリアに言われてティファーナが<外界接続アウターコネクト>を発動した。


 本来は10人以上が同時発動することで成立する儀式スキルだから、巫女を務めるティファーナと言えどピンポン玉ぐらいの穴を開通させるのがやっとだった。


「陸式光の型:流星」


 マリアが光の槍をピンポン玉サイズの穴に命中させた途端、穴が罅割れてから砕けて人が通れそうなサイズまで広がった。


「うわぁ、流石拳者様。こりゃすごいや」


「殴って儀式スキルを成立させるなんて驚きです」


 アリエルとエイルはマリアが【村雨流格闘術】で異界カリュシエに繋がる穴を広げたことに驚いた。


 (マリア、異界を行き来する方法ってこれかよ・・・)


 シルバも言葉には出さなかったが、マリアの常識外れな行動に驚いていた。


 それでも、マリアに頼まれていた自分の役目を果たすことを忘れていない。


 シルバはマリアの指示により、マジフォンの地図機能を使った状態で穴にマジフォンを突っ込んだ。


 そうすることで、地図機能に異界カリュシエの地図が加わるのである。


 本来の地図機能に異界カリュシエの地図を取り込み、いざという時の地図作ろうという魂胆だ。


 地図機能の画面が変わり、異界カリュシエの情報が穴に突き出したマジフォンにどんどん読み込まれていく。


『読込が完了しました』


 機械音声が作業の終了を知らせたので、シルバはマジフォンを穴の中から取り出した。


 それを見てティファーナが<外界接続アウターコネクト>を解除し、異界カリュシエに通じる穴は閉じられた。


 ティファーナはマリアにサポートしてもらったものの、1人で<外界接続アウターコネクト>を維持していたのでシルバが労う。


「ティファーナ、お疲れ様」


「シルバ様、これで私と結婚して下さいますか?」


「なんでもかんでも結婚に結び付けるのは止めよう?」


「こういうのは繰り返しお願いすることで効くものだと思ってます。それに、私は貴方のような強い殿方と結婚がしたいと本気で思っております。夜の営みもウェルカムです。私だけ除け者にするのは良くないです」


 ティファーナはここぞとばかりに攻め立てる。


 ティファーナがこっちに来てから1ヶ月弱はシルバのことを公王様と呼んだが、それでは一向に精神的な距離が縮まらないので名前呼びするようになった。


 アリエルとエイル、マリアはティファーナと関係が良好であり、あと1人公妃が増えたところで自分達の扱いが変わるとは思っていないし、ティファーナを第四公妃に向かえるメリットを理解しているから拒否したりしない。


 だから、ティファーナが第四公妃になるかどうかはシルバの気持ち次第なのだ。


 シルバはティファーナのどこを第四皇妃に迎えるのに悩んでいるかと言えば、そのメリットがあるからである。


 <託宣オラクル>もそうだが、カリュシエの民との交渉を優位にできる点を重視してティファーナと結婚すると思われたくない。


 容姿も性格も好ましく思っており、それが理由で結婚したくないなんて微塵も思っていないのだ。


 これがシルバの気持ちである。


「除け者にしてるつもりはないんだけどな」


「いいえ、除け者です。扱いこそ丁寧で気を遣っていただいてるのはわかりますが、私はシルバ様ともっと仲良くしたいのです。せめてこれから一緒にお出かけする権利を要求します」


「・・・わかった」


 最初に受け入れてもらえないだろうお願いをして、そこから落としどころとして受け入れてもらえそうなお願いをかますドアインザフェイスを使うあたり、ティファーナはかなり強かである。


「では、早速行きましょう。私、モンスターファームに行きたいです」


 ティファーナがムラマサをぶらぶらしたいと言わないのは、シルバに気を遣ってのことだ。


 自分はカリュシエの民で国賓待遇ではあるけれど、同族が割災でエリュシカの住民を長年怖がらせていたのは事実だ。


 人間に感情がある限り、国賓だからと言って絶対に手を出されないとも限らない。


 そんな心配をシルバにさせないで済むし、レイは自分とシルバが仲良くなる邪魔をしないから、ティファーナはモンスターファームに行きたいと告げた。


「良いよ。ごめん、それじゃ俺とレイ、ティファーナはこれから出かけるから後のことはよろしく」


「「「いってらっしゃい」」」


 アリエル達はシルバの外出を嫌な顔一つせず笑顔で見送った。


 彼女達は口には出さないけれど、ティファーナに頑張れと心の中でエールを送った。


 さて、レイの背中に乗ってモンスターファームに向かうシルバとティファーナだが、ティファーナはシルバにギュッと抱き着いている。


 それは色仕掛けを狙ってのことではなく、高所恐怖症だからだ。


 一直線で移動できる高度をキープしてるけれど、ティファーナが高所恐怖症であることを考慮していつもよりは低く飛んでいる。


「ティファーナ、大丈夫だよ。レイが落ちたりするはずないんだから」


「わかってます。わかってますよ。でも、怖いものは怖いんです」


 ずっと軟禁状態だったとか関係なく、空の旅を体験できる者なんてエリュシカでも異界カリュシエでもほとんどいないだろう。


 それならば、ティファーナが地面に足を突いていないと怖く感じるのも仕方のないことだ。


 高所恐怖症のティファーナを馬鹿にするなんてことはあり得ないので、シルバは優しく声をかける。


「怖くなくなるまで俺にしっかり捕まってて良いからな」


「はい。ありがとうございます」


 シルバの好意に甘えてティファーナは先程よりもギュッと力を入れてシルバに抱き着いた。


 雑談をしながら移動すれば、空の旅でもかなり気が紛れたらしく、ティファーナの顔色は飛び始めた時よりもマシになっていた。


「やっと着きましたね!」


「よしよし。よく頑張ったな」


「・・・もっと頭を撫でて下さい」


「はいはい」


 地上に降りたってすぐにシルバがティファーナの頭を撫でると、それが嬉しかったので彼女は長めに頭を撫でるように甘えた。


 ティファーナが満足した後、シルバ達はシルバーブル、畑、シルバーシープ、マジシャンゴート、ボアの区画と順番に見たところで昼になった。


 敷物を敷いてレイが<無限収納インベントリ>から出来立ての料理を取り出せば、ピクニック気分の味わえる昼食がスタートする。


 各種ハンバーガーとスープ、サラダ、デザートにドライフルーツのバーというラインナップに、シルバもレイもご機嫌だ。


 それを見てティファーナは優しく微笑む。


「シルバ様もレイちゃんも良い食べっぷりですね」


「美味い物を食べられるって幸せなことだからな」


『うん。美味しい物がいっぱい食べられてレイは幸せだよ』


「そうですか。実は、今シルバ様が手に持ってるハンバーガーは私が作ったのです」


 ティファーナにそう言われ、シルバは彼女と自分の手に持つハンバーガーを交互に見た。


「これはティファーナが作ったのか。レタスやトマトの水切り具合とか丁寧に作られてるとは思ったけど、ティファーナが作ったとはねぇ・・・」


「美味しくございませんでしたか?」


「あぁ、すまん。美味いぞ。ティファーナが作ったってことにびっくりしたんだ。見違えるほど上達したじゃん」


「ありがとうございます!」


 エリュシカに来たばかりの頃はメシマズだったティファーナだが、見えないところで練習を重ねて普通に美味しいハンバーガーを作れたのだから、シルバは感動してしまったのだ。


「俺もティファーナのハンバーガーを食べたことだし、ティファーナには俺が作ったBLTバーガーを食べてもらおうかな。はい、これ」


「ありがとうございます。あれ、BLTとはベーコンレタストマトではありませんでしたか?」


「BLTって言ったらバハムートレタストマトだ」


 どこの世界の常識だとティファーナはツッコんだりしなかった。


 レタスはシャイニーレタスという植物型モンスターを使い、トマトもクフトマトを使っているから、バンズ以外モンスター食材だけで作られたBLTバーガーだ。


「そうだったんですね。では、ありがたくいただきます」


 (どうしよう。冗談を冗談としてわかってもらえない)


 BLTは基本的にベーコンレタストマトだから、ティファーナの言い分が正しいとシルバ自身も思っている。


 だが、昨日手に入れたバハムートの肉があるならば、それを使って期間限定のおふざけBLTバーガーを作ったため、冗談のつもりでこれぞBLTバーガーだと言ってしまったのだ。


 軟禁生活が長かったことに加え、まだまだエリュシカのことを知らないティファーナに冗談は通じなかった。


「シルバ様、美味しいです。お互いに作ったハンバーガーを交換できて嬉しいです。これも夫婦になるための共同作業ステップですよね」


「前向きだな。というかブレない」


 ティファーナが満足してくれたのは嬉しかったが、あらゆることを自分と彼女の結婚に結び付けるティファーナをすごいと思うシルバだった。


 午後は新設したエリアを見回った後、レイにゆっくりと低空で飛んでもらったおかげでティファーナは行き寄りも怯えずに帰宅できた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る