第303話 俺の読みは正しかった

 翌日、シルバ達は昨日と同様にムラマサ城の地下空間に集まった。


 今日も異界カリュシエに向かうための実験からスタートする。


 ティファーナが<外界接続アウターコネクト>を発動したら、マリアがすぐに次の工程に移る。


「陸式光の型:流星」


 マリアが光の槍を小さい穴に命中させた後、穴が罅割れてから砕けて人が通れそうなサイズまで広がった。


「じゃあ、行くわね」


 そう言ってマリアは穴を通って異界カリュシエに移動した。


 マリアだけ先に異界カリュシエに行き、周囲にモンスターもカリュシエの民もいないことを確認したら、マジフォンを取り出して掲示板を使ってシルバにチャットを送った。


「届いた」


「どういうこと?」


「エリュシカでしか繋がらないはずじゃ」


 アリエルもエイルもマジフォンが異界カリュシエで通じたことに疑問を抱いた。


 マリアはもしかしたらと思って穴から離れて再びチャットを送ったが、それでもシルバのマジフォンにチャットは届いた。


 何度距離を変えても結果は変わらず、マリアから送ってもシルバから送っても問題なくチャットは届いた。


「すみません、そろそろ維持するのが厳しいです」


「わかった。もう少しだけ頑張ってくれ。マリアが戻って来るから」


 独力で異界カリュシエに通じる穴を開いたまま維持するのは大変だから、あともう少しだけ頑張れとシルバはティファーナを応援した。


 マリアがエリュシカに戻って来たのを確認し、ティファーナは<外界接続アウターコネクト>を解除した。


「マリアお帰り。ティファーナはお疲れ様」


「ただいま」


「シルバ様、頑張ったご褒美にハグを所望します」


 ティファーナが頑張ったのは事実だから、シルバは彼女のリクエストに応じるべく無言で両手を広げた。


 すかさずティファーナはシルバにダイブし、そのままギュッとハグした状態をキープした。


「シルバ、そのままで良いから私の仮説を話させてもらって良いかしら?」


「頼む」


 マリアもティファーナに少し無茶をさせてしまった自覚があったから、ティファーナがシルバに甘えたままで構わないと言外に伝えた。


 シルバもティファーナを無理矢理引き離すのはいかがなものかと思ったため、悪いけどこのままで頼むと頷いた。


「エリュシカと異界カリュシエは同じ世界の可能性があるわ」


「根拠はマジフォンが繋がったことだけ?」


「他にもあるわ。ティファーナの<託宣オラクル>が使えたことよ」


「あぁ、それもあったか」


 マリアの言い分を聞き、シルバは確かにその2つの事実からエリュシカと異界カリュシエが同じ世界だという仮説を否定できなかった。


 そこにアリエルが加わる。


「ちょっと待って下さい。僕は全く同じ世界という訳じゃないと思います」


「根拠も聞かせてくれ」


「勿論だよ。2つあるけど、1つ目は空の色だね。異界カリュシエの空はいつも赤いんだろ? その赤さは夕焼けとも違うって話だから、同じ世界とは思えないな」


 エリュシカの空は青く、異界カリュシエの空は赤い。


 これは教科書に載っている常識であり、シルバ達も実際に自らの目で見ている。


 アリエルの言い分はもっともだと言えよう。


「2つ目の根拠も聞かせてほしい」


「うん。ティファーナやカリュシエの民が使う<外界接続アウターコネクト>ってスキルの名前だよ。同じ世界なら外界アウターなんて言葉が出て来ないんじゃないかな」


「ふむ。アリエルの考え方も筋が通ってるな。そうなると、答えはマリアとアリエルのあいだにあるのかもしれない」


「「「間?」」」


 アリエルとエイル、マリアが首を傾げた。


 シルバの言う間とは何かわからなかったようだ。


「答え合わせに付き合ってくれるかな?」


「良いよ」


「付き合います」


「良いとも!」


 マリアのネタは誰にも伝わらずしーんとなったが、ティファーナがブレない調子で嬉しそうに訊ねる。


「えっ、交際してくれるんですかシルバ様?」


「ティファーナ、都合良く聞き間違えないでくれ。同行するかどうか訊ねたんだ」


「行きます。あっ、空を飛びますか?」


「飛ぶ。でも、比較的低く飛んでも問題ない場所だから安心してくれ」


「わかりました。シルバ様にしがみついて耐えます」


 そこまでして一緒に行きたいのかなんて野暮な質問は誰もしない。


 レイとマリナの背中の上に分かれて乗り、シルバ達はウエスティアの海のずっと西を目指して飛んだ。


 アリエルはティファーナの反対側からシルバに抱き着きながら訊ねる。


「シルバ君、僕達は今どこに向かってるの?」


異界カリュシエがあるかもしれない場所だよ」


「海の向こうが?」


「今まで海の向こうまで行こうとした者はいなかった。俺の考えが正しいなら、海の向こうに何かある」


 そう言った直後、レイとマリナがゆっくりと減速してやがて止まった。


「どうしたレイ?」


『ご主人、この先にはいけないみたい』


 レイは嵐刃ストームエッジで前方に攻撃したところ、透明な壁に攻撃が弾かれてしまった。


「透明な壁があったか。こりゃ世界の途切れ目に相応しいじゃないか」


 シルバがニヤリと笑うと、マリアもシルバの言いたいことを理解した。


「なるほど。透明な壁の向こうに異界カリュシエがあると考えたのね。それなら同じ世界だから<託宣オラクル>が使えるし、マジフォンも使えるわ。空の色も壁に遮られてたらわからないし、壁の外って意味で外界アウターなら筋が通るわね」


「そういうこと。じゃあ、やってみますか。ティファーナ、ちょっと離れてて」


「わかりました」


 シルバが何かやるとわかったため、ティファーナはシルバから離れた。


「弐式光の型:光之太刀・斬」


 マリアが以前使った技をシルバも会得しており、見事な抜刀術を披露して透明な壁を切断した。


 その瞬間、透明の壁がバターのように切れて向こう側には赤い空と海が広がっていた。


「俺の読みは正しかった」


『ドヤァ』


 シルバが得意気に言った後に続き、レイがドヤ顔を披露した。


 だが、それからすぐに驚くべき事態が起こる。


「壁が修復してる」


「生き物みたいですね」


「不気味だわ」


「あっ・・・」


 アリエルとエイル、マリアが顔を引き攣らせている一方、ティファーナは違う反応をしていた。


 シルバはティファーナに話しかけても良さそうだとわかり次第、彼女に声をかけた。


「ティファーナ、<託宣オラクル>が発動したんだよな?」


「はい。シルバ様とマリアさんの攻撃だと壁が壊れてしまうから、あの壁を攻撃するのは止めるようにとのことです。その代わりにお二方が壁に近づいた時には穴が勝手に開くそうです。壁の向こうは異界カリュシエで間違いないらしいですよ」


「何その仕様。でも、これでエリュシカと異界カリュシエが繋がっていると証明された」


「壊すより都合が良いわね。ティファーナに負荷をかけなくて済むし」


 シルバとマリアは<託宣オラクル>でティファーナに語り掛ける存在から危険人物と判定されたらしい。


 それでもティファーナに負担をかけずに異界カリュシエに行ける方法もあるとわかったため、シルバもマリアも良しとした。


 とりあえず、シルバ達は折角ここまできたので西の海の端から異界カリュシエに入ってみた。


 空は赤くて海の色は空の赤に影響して赤くなっている。


 シルバ達が完全に異界カリュシエに入ったため、壁がドアのように閉まった。


 その直後にシルバ達の気配を察し、周辺の海にいたモンスターが水飛沫を上げて急いで逃げ始めた。


 この場に残って見つかったら殺されてしまうと思ったのだろう。


 我先にと逃げ出す各種モンスターは必死だった。


 そんな中でも逃げ出さずにシルバ達に襲い掛かって来る水棲型モンスターもいた。


「フライングジョー! フカヒレ置いてけ!」


 マリアは技名を口にせずに壱式:拳砲を放ち、大口を開けて襲い掛かって来たフライングジョーを倒した。


 その攻撃は絶妙な手加減がされているおかげで、素材を駄目にすることはなく<無限収納インベントリ>に回収された。


 フライングジョーがあっさりと仕留められたせいなのか、更にモンスター達の逃げ出す速度が上がった。


 この海では暴れん坊なフライングジョーがワンパンで倒されたならば、自分達に未来はないとわかったのだろう。


 ただし、マリアはこの状況で逃げるモンスター全てを狩ろうなんて考えていないから、必死に逃げなくても平気だったりする。


「レイ、陸地を目指して飛んでみてくれ」


『は~い』


 レイはシルバに言われた通りに陸地を探して飛んだ。


 そして、サウスティアを出てから壁を見つけるまでにかかったのと同じぐらいの時間が経ち、シルバ達は陸地に到着した。


 (まさか、地形が鏡みたいに反転してる?)


 まだ確証はなかったので、シルバは自分の思い付きを口に出さなかった。


 異界カリュシエ探索はこれから始めるのだから、その仮説が正しいかどうかは調べて確かめれば良いのだ。


 とにかく、ティファーナが陸に足が着いてホッとしていたのはそっとしておこう。

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