第47話 目がぁぁ〜!
サリーを背負ったシルバは毒消しを作るためにドクドクタケとアオジギソウ、イッチョの根を探して回った。
「シルバ、あそこにドクドクタケ見つけた」
「おぉ、名前に比べて全然毒々しくない見た目だ」
「そうやって油断して食べた者を毒死させるの。しかも、毒死させた死体を菌床にするんだからね?」
「何それ怖い」
「怖いよね。とりあえず、私が回収するからシルバは周りの警戒よろしく」
「了解」
シルバはサリーがドクドクタケを回収している間、自分達に奇襲をかけて来る者がいないか警戒していた。
もっとも、シルバは気配を察知できるから周囲に誰もいないことはわかっているのだが。
「終わったよ」
「わかった。次行くぞ」
「うん」
ドクドクタケを回収したサリーを再び背負い、シルバはその場から離れた。
それから3分後に別のチームがシルバ達のいた場所に辿り着き、ドクドクタケを先に採取されたと気づいて叫ぶ声が聞こえたのは別の話である。
少し進んだ所でシルバは騒がしくなって来たのを感じ取って止まった。
「シルバ?」
「この先で戦闘してるチームがある。慎重に進むぞ」
「どっちかに肩入れして倒さないの?」
「仮に手を組んだとして、敵を倒した後に裏切られたら数的不利だろ?」
「それもそっか」
「だから、最初から全員敵の想定でいく」
「わかった」
戦闘においてシルバと自分のどちらの意見が正しいか考え、サリーはシルバの意見を優先した。
そもそも自分はシルバに背負われているので彼の動きを阻害している。
素人がこれ以上戦闘のプロの邪魔はできないと思ってシルバに従うことにしたのだ。
草木を揺らさないように慎重に進んで行くと、茂みの向こうでは2つのチームが戦闘を繰り広げている。
「狙いは戦闘に参加してない奴だ。戦ってる奴よりも納品に必要な植物を持ってる可能性が高い」
「ヒャッハー! 狩りの時間だぁ!」
「良い学生は降伏する学生だけだぁ!」
戦術コースらしき学生は良いとして、戦闘コースらしき学生2人は何処の世紀末を生きているのだろうか。
「シルバ、戦闘コースってあんなに野蛮なの? ナイフ舐めてるよ?」
「同じ戦闘コースだからって一括りにしないでくれ」
サリーがドン引きしながら訊ねて来たため、シルバはあんな奴等と自分を一緒にしないでほしいと静かに抗議した。
「ごめん。それで、どっちが勝つと思う? 野蛮な方? 攻められてる方?」
「攻められてる方だな」
「どうして?」
「攻められてる方にロックがいるからだ。あいつの<
そう言葉を切ったタイミングでチンピラ風な学生2人が足元のワイヤーに引っかかって転び、そのまま足を取られて木から逆さに吊られてしまう。
「なんで罠を警戒せずに行くんだ馬鹿!」
「君達チョロいね」
攻めていたチームは戦える者がいなくなり、ロックが変えた流れに乗って残り3人も拘束する。
「さてと、サリーはちょっとだけここで待っててくれ」
「うん」
サリーが頷いたのを確認してからシルバは行動に移った。
「參式光の型:仏光陣!」
シルバが技名を唱えた直後、シルバの手の動きに応じて背後に大仏の幻覚が現れた。
大仏の幻覚が急激に光を放って周囲を光で包み込み、ロック達の隙を作ってその隙に彼等に首トンを決めて無力化する。
ついでに拘束されているチームの学生も気絶させてから、シルバはサリーに手招きをした。
「サリー、回収手伝って」
「了解」
攻めていたチームはAチームであり、ミッションリスト以外持っておらず他のチームを奇襲する戦略であることがわかった。
ロック達のチームはCチームでリスト以外にイッチョの根を持っていた。
シルバはクラスメイトの情けとしてCチームからはイッチョの根だけを回収し、Aチームからはミッションリストを回収した。
ミッションリストがなければ合同キャンプのミッションをこなすのは厳しい。
ロック達が目を覚ました時にミッションを再開できるようにシルバは取り計らったのである。
AチームとCチームを放置してシルバとサリーは先へと進む。
ニュクスの森の中で日が当たる場所は3ヶ所しかない。
アオジギソウは日の当たる場所でしか生えていないので、日の当たる場所を抑えてしまえば待ち伏せができる。
現にシルバ達が向かった場所にも待ち伏せできそうな場所が多く、異様なまでに静かだった。
「シルバ、あそこにあるのがアオジギソウだよ」
「やっぱりそうか。誰か来たところを狙う気満々な隠れ方だぞ」
「そうなんだ。でも、アオジギソウを取りに行く時まで草陰から出ないなんてこともできないよね。シルバはどうするつもり?」
「まあ見てて」
得意気に言ったシルバは敢えて堂々とアオジギソウを取りに行く。
そして、屈んでアオジギソウを採る振りをして隠れている学生達を釣り出した。
「參式光の型:仏光陣!」
「「「「「目がぁぁ〜!」」」」」
警戒せずに突撃してしまったため、大仏の幻覚が発光したことで目をやられてその場で5人の学生が蹲った。
アオジギソウを調合に必要な量よりも少し多めに確保してからシルバはサリーの前に戻って来た。
「ピカって光る技は便利だね」
「だろ? 不意を突いたり不用意な戦闘を避けられるからこういう時に重宝してる」
「シルバって戦術コースの学生より頭良さそう」
「学年主席だから賢いのは事実」
「うわぁ、自慢じゃん」
「誇張してない事実だから問題ない。それよりも早く拠点に戻ろう」
無駄話をしている場合じゃないと言外に告げ、シルバはサリーを背負ってアル達の待つ拠点に戻ることにした。
途中で必死になってミッションリストを取り戻そうとするチームをやり過ごしたため、シルバとサリーが拠点に戻るのに時間がかかった。
戻って来た2人は簡易的な要塞と化している拠点を目にして驚く。
「アル、頑張り過ぎじゃね?」
「これって私達も締め出されてない?」
「その辺はどうにかするさ」
それだけ言うと、シルバは助走をつけてサリーを背負ったまま大きく跳躍した。
「うぇぇぇ!?」
「到着」
サリーの叫び声をスルーして拠点の堀を超えたところでアル達がシルバとサリーを出迎えた。
「ただいま。毒消しの材料を回収して来たぞ。ついでにAチームのミッションリストも」
「「おかえり」」
「お、おかえりなさい」
サリーは驚きの余りまだ喋れない様子なのでシルバが代表して別行動の成果を述べた。
そんな中、メリルが自分の下半身をじーっと見つめていることに気づいてシルバが訊ねる。
「メリル、俺の下半身に何か付いてる?」
「違うの! アル君とジーナさんがずっとシルバ君のお尻の話をしたから気になっただけ!」
「「メリル!?」」
間違いではないがそれはシルバに言わないでほしい話だったから、アルもジーナも暴露されて驚いた。
「俺の尻の話? アルもジーナもそんなに俺の尻が気になるのか?」
「「気にしてない!」」
アルとジーナの回答がシンクロした。
シルバはBLの概念を理解できていないので変なアルとジーナだと思ってこの話題を放置した。
「サリー、毒消しの作成は任せて良いか?」
「任せて!」
サリーはここからが自分のターンだと気合十分である。
だが、その気合も変わったアオジギソウを見つけたことで落ち着いてしまう。
「なんだろうこれ? 私の知ってるアオジギソウじゃない」
アオジギソウの中でも2本だけが黄色く変色していたのだ。
それ以外は普通のアオジギソウなのだが2本だけ黄色くなってしまっている。
「持って来る途中で変異した?」
「地面から引っこ抜いてそんな変化が起きるなんてことあるの?」
「私もアオジギソウだけ研究してる訳じゃないからわからないよ。明日先生に提出してみようよ」
「そうだな」
シルバはそう応じつつ、合同キャンプが終わったらポールに呼び出される気がしてならなかった。
その後、サリーが落ち着いた様子で毒消しを作成した。
「これで後は野生動物かはぐれモンスターさえ出て来ればパーフェクト?」
「シルバとサリーのおかげであと1個だけじゃん」
「すごいです」
「明日もあることだし今日は無理に行動しないで体力を維持しよう。サバイバルでは過度の疲れを残すのは良くないから」
「「「「異議なし」」」」
シルバの意見に4人が賛成したため、シルバ達は交代で休憩しつつ夕食の準備を行った。
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