第11章 拳者の弟子、村に潜入する

第111話 先輩、破廉恥です

 年が明けて1月、軍学校では来年度の学生会長選挙が行われた。


 今年は立候補者がメアリーしかいなかったため、信任投票のみが行われてメアリーは89期学生会長に決まった。


 1月から3月は旧学生会と新学生会の引継ぎ期間なのだが、現時点で新学生会に旧学生会以外のメンバーはいない。


 新しい学生会長であるメアリーが組閣した結果、副会長はシルバ、書記はイェン、会計がアルになった。


 庶務は来年度の新1年生が入学してから1人か2人スカウトすることになっている。


 イェンが副会長にならなかった理由だが、それは会長副会長のどちらとも戦闘力がないのを避けてのことだ。


 学生会は軍学校における学生団体を統括しなければならない。


 そんな学生会が全く戦闘力のない会長と副会長に率いられて良いはずがない。


 少なくとも風紀クラブのクラブ長に勝てる実力がなければ、風紀クラブが学生会に協力的ではなくなるだろう。


 そういった事情から、シルバが学生会の副会長になって抑止力になった訳だ。


 例年なら学生会を引退した5年生は帝国軍に口を利いてもらい、希望部署に狩り配置されて見学するのだが、エイルとロウは既にキマイラ中隊第二小隊に入隊済みだ。


 第二小隊での仕事がない限り、エイルとロウは暇になる。


 だからこそ、仕事がない今日のような日は学生会室に来て引継ぎを行っている。


「メアリー、その書類の判子は右上1つと右下に1つです」


「はい!」


「シルバ、副会長は会長が身動き取れない時の権限代行者だ。だから、メアリーちゃんが行うであろうことを一通り教えとくぞ」


「わかりました」


 適当に副会長をやっていたように見えて、意外とロウは副会長としての任を果たしていたようだ。


 アルは庶務のお仕事の合間に会計の知識を身に着けていたから、わからない所はメアリーが手隙のタイミングで質問した。


「引継ぎは順調ですね」


「こっちも順調だ。メアリーちゃんの方はどうだ?」


「問題ありません。アル君が優秀ですから」


 引継ぎ自体は順調だが、シルバ達と今年度も来年度も同じ役職の書記だから引き継ぐまでもない。


「ところでメアリー、来年募集する庶務について人数を減らすかどうか考えてますか?」


「そこが悩みどころなんですよね。今年度はシルバ君もアル君も1年生とは思えないぐらい優秀でしたし」


 エイルはメアリーにある程度引き継いだ後、来年度の庶務を何人にしたいのか訊ねた。


 今年度はシルバをなんとしてもスカウトしたかったから、エイルがシルバと一緒にいたアルを巻き込んでスカウトした。


 来年度もシルバやアルのように優秀な1年生が入学することに期待である。


 今のところメアリーは何も考えられていないさそうだったので、ロウは別の話題を振ることにした。


「そういえば、みんなはヴァーチスさんが言ってたマジフォンのアップデートされた機能を使ったか?」


「写真撮影機能と掲示板への添付機能のことですか?」


「それそれ」


「試しに色々取りましたよ。ほら」


 シルバはロウに自分が撮影した写真を披露した。


「シルバ、お前食べ物ばっか撮ってるな」


「イェン先輩と美味しい料理を紹介し合いながら写真撮影と掲示板への添付を試してたんですよ」


「情報収集と情報交換の練習か。なるほど、実践的な試験運用だ」


 ロウはシルバの話を聞いてなるほどと頷いていたが、しまったという表情をした者が2人いた。


 アルとエイルである。


 彼女達はどうやったらシルバと自然な形で掲示板を使った個人チャットができるか悩んでいた。


 アルの場合、ほとんどいつもシルバと一緒にいるから掲示板で個人チャットをする必要がないので使っていなかった。


 エイルはシルバと何を個人チャットで話せば良いかわからなくて個人チャットをしていなかった。


 理由は違えどどちらもシルバと個人チャットをしておらず、食べ歩きが趣味のイェンに先を越されてしまったのだ。


「ロウ先輩はどんな写真を撮ってるんですか?」


「ん? 結構バラバラだぞ」


 ロウは自分が撮った写真をシルバに披露した。


 風景や武器、エイルが描いたと思われる絵等バラバラだった。


「あれ、1枚だけ違うフォルダに入ってる。あっ・・・」


「あってなんだよ。あっ・・・」


 シルバは写真フォルダでこっそり別に避けて作られたフォルダを見つけ、その中に入っている1枚の写真を見て言葉を失った。


 ロウは写真を整理した記憶がなかったので、1枚だけ入っている写真が何かわからずにシルバの手元を覗いた。


 そして、シルバと同様に言葉を失った。


 ただし、シルバと違ってロウは言葉を失うと同時に両手で顔を覆ってしまった。


「何か面白い写真でもあったの?」


「虫をいじれるネタな予感がする」


「なんでしょう? 私も気になります」


「私も見たいです」


 アル達も集まって来てロウのマジフォンに何が写っているか見ようとした。


 その動きに気づいたロウはシルバの手から自分のマジフォンを回収しようと動いた。


 しかし、シルバがしっかりとマジフォンを握っていたため、ロウはシルバからマジフォンを取り返せずにアル達にその写真を見られてしまった。


 ロウがアル達に見られたくなかった写真とは、自分の寝顔とにっこり笑うクレアが鏡に写ったツーショット写真だった。


「へぇ、ロウ先輩もやりますね」


「虫が新手のリア充自慢とかムカつく」


「クレア、貴女は本当にもう仕方がありませんね」


「先輩、破廉恥です」


「いや、これは不可抗力だろ。エイルが言った通りクレアの仕業だ。ほら、マジフォンを持つクレアが鏡に写ってるじゃん。この写真は今初めて気づいたんだ」


 ニヤニヤするアルとイラついているイェン、呆れているエイル、赤面しているメアリーと反応はそれぞれ違った。


 ロウは自分がやった訳ではないから自分は悪くないと主張する。


 今回ばかりはシルバもロウのせいではないだろうと思ったからフォローすることにした。


「まあまあ。マジフォンをうっかりクレア先輩に使われたのはロウ先輩ですけど、ツーショットを撮って別フォルダに保存する細工をしたのはクレア先輩のようです。その辺にしておきましょうよ」


「シルバ、お前は本当に良い奴だ!」


 シルバに言われてこれ以上は止めておくかとアル達がおとなしくなったため、ロウはシルバが自分の味方をしてくれたことに感謝した。


 シルバとロウが自分の撮った写真を見せ合った流れから、アル達も自分の撮った写真を披露することになった。


 アルはクラスの風景を撮った写真が多く、学生らしいフォルダと言えた。


 だが、それはカモフラージュだったりする。


 フォルダの中にはクラスメイトが1人だけで写っている写真もそこそこあり、その中にはシルバだけが写った写真も当然あった。


 アルはシルバだけが写った写真があっても目立たないようにクラスメイトを撮った写真を用意したのだ。


 策士と呼ぶべきはアルである。


 イェンはシルバと同じく食べ物を撮った写真が多く、シルバよりも撮り方に拘りが見えた。


 エイルは学生会の集合写真や友達同士の写真、姉妹で撮った写真等日常を切り取ったようなフォルダだった。


 アルのような計画性があってそうなった訳ではないが、ちゃっかりシルバと一緒に写っている写真もあった。


 メアリーのフォルダには最近話題に出て来る物が一通り写っていた。


 会計コースということもあって流行には敏感なようだ。


「傾向が似てるとかはあっても撮るものは人それぞれなんだな」


「そうですね。うっかり寝てる時にマジフォン使われてる人もいましたけど」


「アル、お前って奴は一言多いな」


「事実を言ったまでです」


 アルにすまし顔で言われたロウはやられたらやり返すという気持ちになる。


「ほう。では俺も事実を言おうか。アル、なんでシルバを撮った写真だけ他のクラスメイトの写真よりも写りが良いんだろうな」


「偶然です」


「アル君・・・、もしかして・・・」


「違いますからね!? メアリー先輩は妄想を止めて下さい!」


 ロウの発言によってメアリーがアルはシルバといけない関係なのではと妄想して顔を赤くした。


 これが狙いかとロウを睨んだ後、アルはメアリーに誤解だと主張した。


 (静止画だけじゃなくて動画も取れたら偵察に便利だ。今度ヴァーチスさんに頼んでみよう)


 シルバはアル達が騒ぐ中、全く違うことを考えていた。

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