第286話 質問を質問で返すなあーっ!!

 5日後、シルバはエイルと一緒にそれぞれの従魔に乗ってモンスターファームに向かっていた。


 マジフォン割災予報機能によって警報が鳴り、割災発生地点の予想としてモンスターファームが出たからだ。


 アリエルも普段ならばシルバに同行するのだが、オロチ=フジがムラサメ公国に流れ着いても居付けないようにマリアと共に対策を練っている。


 マリアが警戒する程の危険人物だからその対策は疎かにできないし、今もできる対策から随時実行しているところだ。


『今日はレインボー級モンスターが現れるかな?』


「どうだろうな。レイ的には現れてほしいの?」


『レインボー級モンスター本体じゃなくて虹魔石に興味があるの。でも、現れたらちゃんと戦って倒すよ。強くなりたいもん』


「レイならエリュシカと異界をひっくるめて最強のモンスターを目指せるかもしれない。狙おうか、最強の座を」


『うん!』


 レイはシルバの発言を受けてやる気になった。


 その一方、エイルとマリナはモンスターファームの心配をしていた。


「割災予報機能によれば、飼育してるモンスターのいない地点で割災が起きるようですが、飼えるようなモンスターが来るでしょうか?」


『どうでしょうね。ただ、私とレイがいればシルバー級モンスターだけの集団ならおとなしくなるはずです。ゴールド級以上のモンスターが率いてるのなら話は別ですが』


「できれば管理しやすい種類のモンスターが良いですね。もしくは、貴重な薬品の素材になるモンスターでもありです」


 エイルが腕を組んで考えながらそう言うと、マリナが目を細めてしまう。


『・・・エイルも段々アリエルの影響を受けて来ましたねぇ』


「え? 今の発言って黒かったですか?」


『野生のモンスターを資源のように考えてる物言いでしたよ。エイルも精神的にタフになったものです』


「気を付けます」


 精神的に逞しくなったと言われ、それがいき過ぎたらデーモンよりもデーモンらしいと言われてしまうと思ったのか、エイルは自分の発言や思考を見直そうと思った。


 もしもこの場にアリエルがいれば、それはどういうことだろうかと目の笑っていない笑みでエイルのことを小一時間程詰めるに違いない。


 そんな風に雑談しながら移動をしている内に、シルバ達は目的地の荒野に到着した。


 割災が起きるまで30分以上余裕はあるのだが、シルバは荒野の大岩に見慣れない横穴を見つけた。


 (前に来た時はこんな穴がなかったはず。自然に空いたとは思えない。ということは・・・)


 シルバの脳裏に嫌な予想が浮かんだその時、シルバ達のやって来た音を聞きつけて横穴から赤い道着を着たスキンヘッドの偉丈夫が現れた。


「おいおい、なんだってんだぁ? ドラゴンが2体たぁ豪勢じゃねえか」


のオロチ=フジだな?」


「おい、不二流を知ってるたぁ、どういうことだ?」


「質問を質問で返すな」


「クハハ、その通りだ! ならば名乗ろう! 俺は不二流免許皆伝、不二遠呂智である!」


 オロチは正々堂々と名乗りを上げてスッキリしていた。


 名乗られたら名乗り返すのが礼儀だから、シルバはレイの背中から飛び降りてから名乗り返す。


「ムラサメ公国の公王、シルバ=ムラサメだ」


「ムラサメ・・・。そうか、お前が【村雨流格闘術】を使う公王様か。その流派、一体どこで習った?」


「知ってどうする?」


「質問を質問で返すなあーっ!!」


 シルバは自分のセリフをオロチに返された。


 オロチも自分が論破された分、論破し返してやろうという気持ちがあったようで声のボリュームが大きくなった。


 オロチのような偉丈夫に叫ばれれば、並の者なら委縮して言う通りにしてしまうだろう。


 しかし、シルバはそうならずに平然とした様子で応じる。


「弟子が不審者から師匠を遠ざけようとするのは当然だろう? 名乗ったとはいえ、お前は依然としてアルケス共和国とスロネ王国で指名手配されてるんだから」


「フン、弟子が師匠を守るか。これだから村雨流はなんだ」


 シルバは自分の流派を軟弱と馬鹿にされて頭に来た。


 それでも、オロチの発言が自分を挑発するものだとわかっているから、手を出さずに情報収集に徹する。


「不二流は軟弱じゃないとでも?」


「おうともさ」


「何故軟弱じゃないと言い切れる?」


「不二流は技を習うのは一度限りでな。それで体得できなければ即破門なんだ。師弟の模擬戦も含めていかなる試合では負けても破門のくせに、いつ戦いを挑まれても逃げることは許されない掟なんだよ。どうだ? これでも軟弱だと言うか?」


 (不二流の掟はマリアに聞いた通りだ。後は技がマリアの知ってるものとどこまでズレてるかでオロチ=フジの脅威度を正確に測れる)


 シルバはマリアの事前情報とオロチの話を擦り合わせ、オロチが今の自分にとってどれだけの脅威か判断する材料を集めていた。


 会話で集められる情報には限りがある。


 外見を見て体のつくりは大体わかるから、オロチが実力者であることはよくわかった。


 長く考え込んでいれば、オロチが図に乗って自分を苛立たせるだろうからシルバは返事をする。


「軟弱ではないな。シビアな流派だ」


「フン、わかれば良いんだ。逆に訊こう。お前の使う村雨流、いや、【村雨流格闘術】は軟弱じゃないと言えるか?」


「さてね。俺個人としては弟子が師匠を想うことも、師匠が弟子を想うことも軟弱とは考えてない。不二流は対人戦を極めたのだろうが、【村雨流格闘術】なら対人戦でも対モンスター戦でもいける。そう答えるとしよう」


「チッ、仲良しこよしかよ。反吐が出るぜ」


 オロチは自分の師匠との思い出なんて常に破門するかさせるかの戦いだけだったから、シルバの考え方が心底気に食わなかった。


 言った後に唾を吐き捨てるあたり、オロチはシルバと仲良くする気は皆無のようだ。


「ならば俺の国から出ていけ。無理していてほしいなんて誰も頼んでないんだからな」


「フン、俺の居場所は俺が決める。お前に勝ったら俺はここを俺の領土にしてやるさ」


『お前の居場所なんてない!』


「ぬぐぅ!?」


 先程からシルバとオロチの話を聞いていたため、レイはオロチが自分にとって大変不愉快な存在であると認識した。


 敵対するのが明らかだと判断したので、<竜威圧ドラゴンプレッシャー>をオロチに浴びせてやった。


 レインボー級モンスターであるレイの殺気は、オロチの人生において師匠の殺気よりも強く感じるものだった。


 体が鉛のように重くなって呼吸がいつも通りにできない。


 これにはオロチも悔しさを顔に滲ませた。


「なんだ。人に軟弱だなんだと言ってるくせにその程度で動けなくなるのか」


「あ゛?」


「今お前が受けてるレイの<竜威圧ドラゴンプレッシャー>はまだ序の口だ。俺はこれを受けながら筋トレするのが最近の日課だぞ。どちらが軟弱かわかったな」


「く・・・そ・・・が・・・」


 エリュシカに来てからというもの、自分よりも弱い者としか戦わずに生き残る強さを手に入れたと錯覚していたため、オロチは格上レイの殺気で自分の方が劣っていると理解させられて悔しがった。


 ここで心を折れれば儲けものと考え、シルバはレイの殺気に耐えるので必死なオロチに対して話を続ける。


「そもそも、俺達はお前を見つけるためにここに来たんじゃない。あと30分ぐらいでここに大きな穴が出現し、そこから現れるだろうモンスターに対処するために来たんだ。お前の方がおまけなんだよ」


「おまけ、だと?」


「おまけが嫌ならついでだ」


「この俺がついでだとぉぉぉぉぉ!?」


 キレたオロチは怒りのパワーでレイの<竜威圧ドラゴンプレッシャー>を押し返した。


 本気ではないにしても、レイの<竜威圧ドラゴンプレッシャー>を押し返す存在は限られていたので、シルバはオロチの脅威度を上方修正した。


「公王様よぉ、死合おうぜ・・・。久々にキレちまったよ」


「お前と遊んでる暇はないんだがな」


「逃げんじゃねえよ! 常在戦場! 不二流免許皆伝、不二遠呂智参る!」


 オロチはすっかりる気スイッチが入ってしまったようで、シルバと距離を詰めるべく駆け出す。


「伸腕拳!」


 オロチが突き出した拳は相手の目測を誤らせて避けさせない攻撃だが、シルバはそれを避けるつもりなんてなかった。


「壱式:拳砲」


 シルバの拳から放たれた衝撃がオロチの拳に触れ、オロチの攻撃の威力が削がれてシルバに届かないと判断したオロチはバックステップで距離を取る。


 それを見てシルバはニヤッと笑みを浮かべた。


「どうしたよ。そんなもんか?」


「上等だゴラァ! 瞬殺されんじゃねえぞ!」


 オロチはシルバの挑発に乗り、先程よりも速くシルバに接近した。

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