第287話 戦略的撤退だ! 俺はまだ負けてねえ!
オロチは歩幅を細かく変えることでスピードを変え、シルバの攻撃が届くようになるタイミングを掴ませない。
「伸腕拳・
先程の伸腕拳とは異なり、拳は握り締めず蛇の口を模るように人差し指から小指をくっつけて上顎に、親指は下顎に見立てた状態で繰り出す。
蛇の噛みつきを模った伸腕拳・咬は攻撃が触れた状態のインパクトに加え、攻撃が命中した瞬間に拳を握ることで握り潰すことも視野に入れている。
そんな二段構えの攻撃だったとしても、シルバはその攻撃の意図を先読みして冷静に対処する。
「參式雷の型:雷反射」
「ぬぁっ!?」
シルバは雷を纏った腕でオロチの攻撃を捌く。
それと同時にオロチはシルバの腕が纏う雷にやられ、繰り出した拳が痺れて動かせなくなる。
地球であれば防ぐのは難しいオロチの技でも、エリュシカならば防いで反撃できる手段はあるのだ。
繰り出した拳が伸び切った状態なんて隙だらけだから、シルバは当たり前のように追撃する。
「壱式火の型:蒼炎拳」
「がぁ!? 腕がぁぁぁぁぁ!」
右腕を酷い火傷にさせられてしまい、オロチはその痛みに叫んだ。
それでも動かなければただの的だから、オロチはバックステップでシルバと距離を取る。
自分を警戒して後退ったオロチに対し、シルバは口撃も欠かさない。
「イキッてる癖にその程度かよ。師匠に会わせる価値は0だ。むしろ、この程度なら偽者だって言われて怒られそうだ」
「ド畜生がぁぁぁぁぁ!」
オロチがそう叫んだ直後、その全身が一回り大きくなるように膨張した。
右腕は火傷してるせいで黒くなっているが、それ以外は赤銅色に変質した。
「図体ばかり大きくなったって仕方ないぞ」
「
「オーガみたいになってるじゃん」
「この技をよぉ・・・・、見た奴はみんな死んじまったんだぁ・・・」
「お前が殺したってだけだろ?」
「その通りぃぃぃぃぃ!」
駆け出したオロチのスピードは、図体が大きくなったくせに速くなっていた。
「伸脚撃!」
自分の胴体と頭を守るボクシングスタイルを取りながら、オロチは左脚を前に全力で押し込んだ。
目測よりも脚が伸びるだけでなく、その衝撃波がシルバを襲う。
「參式氷の型:凍壊波」
シルバは冷気を纏わせた腕を使ってそれを受け流しつつ、オロチの攻撃の威力を活かしてカウンターをかました。
それがオロチの左脚を凍らせるのだが、羅刹降誕の影響で彼の痛覚は麻痺しているらしく、まったく怯まずに次の攻撃を繰り出す。
「
左脚を軸足として跳び上がり、今度は右脚でシルバに踵落としを放ったのだ。
「肆式火の型:祭花火」
オロチの振り下ろした右脚に対し、シルバが火を纏った両腕でラッシュを繰り出した。
一発であれば、体が大きい分だけオロチの攻撃の威力には敵わないかもしれないが、そこは数でカバーしている。
更に言えば、肆式火の型:祭花火は攻撃した後に追撃として爆発する効果がある。
右腕に続けて右脚まで火傷してしまえば、オロチは満足に動くことができない。
だというのに、羅刹降誕のせいで痛覚が麻痺しているのでオロチは立ち上がって反撃を仕掛ける。
「三衝!」
「肆式光の型:過癒壊戒」
オロチの攻撃は頭と左肩、左肘を同時にぶつけるタックルだった。
右腕も右脚も満足に使えない今、オロチは左半身を駆使して戦うしかないからシルバに三衝で攻撃した訳だ。
その一方、シルバはオロチの動きに惑わされる要素がなかったため、冷静にオロチの全身のツボを突いた。
オロチの右腕と右脚がそれによって自己治癒力を高められて治ったが、治るのを通り越して過剰に回復したせいで血管が切れて血が出た。
黒光りして膨張していた体はツボを突かれたことでしぼんでしまい、羅刹降誕の発動終了に伴う副作用でオロチの体は鉛のように重くなってしまった。
「クソ、なんで村雨流如きにここまで追い詰められなきゃならねえんだ! 不二流が最強のはずだろうが!」
「現実を見ろよ。
「クソがクソがクソがクソがクソがぁ!」
「煩い。壱式水の型:散水拳・
シルバは水を纏った右腕で政権を放ち、拳がオロチの体に触れる瞬間にデコピンに形式を変える。
その結果、水があちこちに弾け飛ぶのと一緒にオロチの体が後ろに吹き飛ばされて背中から倒れた。
異界にいた時はマリアのデコピンを何度も受けて来たから、シルバにとってデコピンは強力な攻撃という認識だ。
それが壱式水の型:散水拳を新しい形に昇華させたのだから、シルバの中でマリアのデコピンに対する恐怖は相当なのだろう。
デコピンのことはさておき、シルバは倒れて起き上がれないオロチを見下ろして訊ねる。
「どこからどう見てもお前は敗北者な訳だけど、不二流は敗者が破門なんだっけ? オロチ、お前は破門決定だな」
「・・・」
「軟弱じゃないんだろ? ほら、男らしさを見せて自分の破門を宣言しろよ」
「クソッ」
オロチは自分が偉そうに言ったことで自分の首を絞められ、悪態をつくことしかできない。
今までの戦闘では対人戦で負けることがなく、それはエリュシカに召喚されてからも同じだった。
モンスターとも戦ったが負けることはなく、なんなら自分を恐れて逃げ出す者までいたというのに自分が誰かに負けるとは夢にも思っていなかったのだろう。
その時、シルバ達がいる辺りが大きく揺れて異界に繋がる穴が現れた。
そこからモンスターが現れたのを見た瞬間、オロチはシルバの注意がその穴に向いていると気づいて力を振り絞って立ち上がり、そのまま穴に駆け込んでいく。
「戦略的撤退だ! 俺はまだ負けてねえ!」
「負けて言い訳とか軟弱だろ」
シルバのリアクションにオロチは踵を返して殴りかかろうかと思ったが、今はどう挑んでも勝てるビジョンが見えなかったから、グッと堪えてそのまま逃げ去った。
シルバがムラサメ公国の公王じゃなければ、穴を経由してオロチに攻撃することも考えたのだが、今は穴を通って来てしまったモンスター集団への対処の方が優先順位が高い。
仕方なくシルバはオロチへの追撃を諦め、やって来たモンスター集団に完全に意識を向ける。
それはプラチナに輝く巨大蟹率いる銀色の巨大蟹の群れだった。
すぐにマジフォンのモンスター図鑑機能で調べ、先頭にいる蟹がカルキノスで後ろにいるのはシルバークラブの群れだとわかった。
『ここはレイ達に任せて!』
上空にいたレイがそう言って
カルキノスも先程までより動きが鈍っており、レイと同じく上空で待機していたマリナが追撃する。
『私も参戦します』
マリナは
ところが、カルキノスの甲殻が硬くて傷をつけるのがやっとであり、思っていた程のダメージは与えられなかった。
『大丈夫! レイがやるから!』
レイは<
細いレーザーに貫かれ、カルキノスの体は活動停止に近づいていく。
『凍っちゃえ!』
再びレイが
カルキノス率いるシルバークラブの群れの討伐が完了し、シルバ達は未だに消えぬ異界に通じる穴を警戒しながらそれらを解体した。
カルキノスの金魔石はマリナが譲り受け、それを取り込んだことでマリナもレイと同様に<
「良かったですね、マリナ」
『はい。これで火力不足の問題を解決できます』
水のブレスは限界まで高圧にした状態での放水だし、光のブレスはレーザービームだ。
<
マリナは自身の火力不足を解決できるスキルを会得できたので、これでもっとエイルの役に立てると喜んだ。
マリナがパワーアップを終えた頃、穴の向こうは騒がしくなっていた。
時々聞こえる叫び声は羅刹降誕を発動したオロチの声である。
(
シルバがオロチの状況を予想していると、次のモンスターが穴を通ってエリュシカにやって来た。
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