第288話 良い呪いってなんだよ

 穴を通ってやって来たのは、筋骨隆々で赤みを帯びた大剣を手にしたデーモンだった。


 そのデーモンは上等な服も身に纏っており、以前二度にわたって戦った個体よりも豪華な身なりをしている。


 (普通のデーモンじゃないよな、こいつ)


 シルバはそのように判断し、マジフォンのモンスター図鑑機能で目の前のデーモンを調べ始める。



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名前:なし 種族:アークデーモン

性別:雄  ランク:レインボー

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HP:S

MP:S

STR:S

VIT:S

DEX:S

AGI:S

INT:S

LUK:S

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スキル:<剣術ソードアーツ><闇魔法ダークマジック><呪炎カースフレイム

    <体力吸収エナジードレイン><恐怖霧フィアーミスト><配下召喚フォロワーサモン

    <全半減ディバインオール><自動再生オートリジェネ

装備:凶暴剣アエーシュマ

状態:歓喜

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 (タルウィとザリチュに質問だ。お仲間っぽい剣をあいつが持ってるけど知ってる?)


 シルバはモンスター図鑑機能で目にした大剣の名前を見て、これは呪われた剣だろうと思って熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに訊ねた。


『初めて見たのよっ。異界産の同族ねっ。すごく野蛮な気配がするわっ』


『未知。大剣、赤い。原因、血痕』


 熱尖拳タルウィも渇尖拳ザリチュも凶暴剣アエーシュマの存在を知らなかった。


 野蛮な気配がして赤みを帯びた原因が血だとわかれば、友好的な決着は望み薄と言えよう。


「耳長共の儀式を利用して世界を移動して正解だった。戦いを楽しめそうな奴がいるじゃねえか」


 アークデーモンは好戦的な笑みを浮かべており、その目はシルバとレイをすっかりロックオンしている。


「出し惜しみはなしだ」


 そう告げたシルバは、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを召喚して装備した。


 シルバが武器を呼び出すのを見て、アークデーモンは嬉々としてシルバに斬りかかる。


「ヒャッハァァァァァッ!」


「弐式火の型:焔裂」


 シルバが火を纏った右腕を振り払って斬撃を飛ばすと、アークデーモンが怯えることなく振り下ろしを斬撃に切り替える。


 その斬撃とシルバの攻撃がぶつかって爆発が起こるが、シルバもアークデーモンも無傷だ。


「まだまだいくぜぇぇぇぇぇ!」


 アークデーモンは斬撃を連続で放ちながら前進する。


「肆式:疾風怒濤」


 属性攻撃ではない斬撃を繰り返しアークデーモンが放つのに対し、シルバも属性なしの基本形で応じた。


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュのおかげでシルバの攻撃にそれらの効果が上乗せされており、凶暴剣アエーシュマによる斬撃を相殺するのではなく打ち消した。


「オイオイオイオイ! 最高だぜぇぇぇぇぇ!」


 武器攻撃だけが戦いではないから、アークデーモンは闇弩ダークバリスタをシルバに向かって発射した。


『やらせないよ!』


 レイが自分を忘れられては困ると反射領域リフレクトフィールドでシルバを守った。


 闇弩ダークバリスタ反射領域リフレクトフィールドを貫けず、そのまま反射してアークデーモンに向かって跳ね返る。


「オラァ!」


 アークデーモンは再び闇弩ダークバリスタを発動し、反射された自身の攻撃を相殺した。


 そして、自分とシルバの戦いを邪魔されたことでレイやエイル達の存在を思い出した。


わりいな! お前等の相手はこいつ等が引き受ける!」


 そう言ってアークデーモンは<配下召喚フォロワーサモン>により、デーモンを10体この場に召喚してみせた。


『邪魔しないでよ!』


 レイは10体のデーモンが召喚された直後を狙い、<属性吐息エレメントブレス>の光のブレスを薙ぎ払うように放った。


 この攻撃でデーモン達は瞬殺され、アークデーモンはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「クハハ、一体どれだけ俺様を楽しませてくれるんだ! もっと楽しませてくれ!」


 アークデーモンがレイの強さをもっと知りたくなったらしく、再び<配下召喚フォロワーサモン>を発動した。


 先程と違うのは、今回召喚したのはその10倍の100体を召喚したことだろう。


「デーモンがたくさん出てきましたね。とりあえず写真を撮りましょう」


『写真だけ見たらびっくりするでしょうね』


 上空ではエイルとマリナがそんな会話をしていた。


 その一方で、アークデーモンはレイがどうやってデーモン100体を倒すか楽しみにしており、レイの次の挙動を楽しみに待っている。


 だがちょっと待ってほしい。


 シルバが自分から意識の逸れたアークデーモンを放置するだろうか。


 勿論放置しないので、シルバは<音速移動ソニックムーブ>で距離を詰めてアークデーモンの懐に潜り込んで技を放つ。


「肆式雷の型:雷塵求」


「ごぼぁ!?」


 余所見なんてしている方が悪いと言わんばかりに、シルバは容赦なく連撃を喰らわせた。


 自身の体が熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュによって穴だらけになり、アークデーモンは血を噴き出した。


 その時にはシルバは既にアークデーモンから距離を取っており、血を浴びることはなかった。


「俺様に血を吐かせるとは極上だぁ! URYYY!」


 奇声を上げると同時に、アークデーモンが<呪炎カースフレイム>をシルバに向かって放った。


「參式火の型:忌炎」


 純粋に炎が放射されただけならば、伍式火の型:合炎で吸収すべきだった。


 ところが、呪いが込められた炎を体内に吸収するのは体に悪影響が生じると判断し、シルバは伍式火の型:合炎ではなく參式火の型:忌炎で<呪炎カースフレイム>を受け流した。


 その先にはレイを襲っているデーモン達がおり、呪いの炎が触れた瞬間にデーモンが言葉にならない悲鳴を上げて燃やし尽くした。


 <呪炎カースフレイム>の厄介なところは、炎が消えても呪いがその場に留まるところだ。


『ばっちいのは嫌いだよ!』


 レイは呪いを放置してはいるのは良くないと本能的に察知し、<解呪ディスペル>で呪いを解いた。


『<解呪ディスペル>は危険なのよっ』


『私達、シルバ、同化。悪い呪い、違う。良い呪い』


 (良い呪いってなんだよ)


 シルバは渇尖拳ザリチュの言葉に心の中でツッコんだ。


 良い呪いという言葉の違和感を無視できなかったのである。


「貴様、俺様の天敵か!」


「弐式雷の型:雷剃・舞」


 レイを優先して攻撃する予感がして、シルバはアークデーモンに六連撃を放つ。


 <音速移動ソニックムーブ>で懐に潜り込んでからの攻撃だから、アークデーモンがそれを避けられるだけの時間はなく、シルバの連撃全てが命中した。


 そこに熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの効果が加われば、アークデーモンは火傷と乾燥に苦しむことになる。


「クハハ、俺がここまでダメージを受けるなんてなぁ・・・。ぶっ殺してやる!」


 少し前まで笑っていたはずなのに、一瞬にして激怒したアークデーモンは情緒不安としか言えない。


 そんなアークデーモンは凶暴剣アエーシュマを使って乱舞を発動し、懐に潜り込んでいたシルバを斬り刻もうとするが、シルバはとっくに距離を取っていて乱舞は当たらなかった。


 乱舞が終わる瞬間を狙い、シルバが再び攻撃を仕掛ける。


『肆式火の型:祭花火』


 <音速移動ソニックムーブ>を利用したヒット&アウェイ戦法はすっかり板についており、シルバの乱打がアークデーモンの体を蜂の巣にした。


 追撃の爆発で吹き飛んだ時、偶然にもレイが残るデーモンを一掃しようと光のブレスを放った射線上にアークデーモンが重なった。


 結果として、アークデーモンは光のブレスで上半身と下半身を真っ二つに分断されて力尽きた。


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュにお礼を言って送還し、シルバは<収縮シュリンク>で小さくなったレイのダイブを受け止める。


「よしよし。大活躍だったな」


『エヘヘ。いっぱいデーモン倒したよ』


「それだけじゃない。アークデーモンにもとどめを刺してくれたもんな」


『ドヤァ』


 シルバに褒められて嬉しくなったレイは渾身のドヤ顔を披露した。


 その後、エイルとマリナとも協力して解体と戦利品の回収を行った。


 凶暴剣アエーシュマはマリアに見てもらうべく、レイの<虚空庫ストレージ>にしまった。


 アークデーモンの虹魔石は功労者のレイに与えられ、レイはそれを取り込むことで<全半減ディバインオール>が<全激減デシメーションオール>に上書きされた。


「レイが頑丈に育ってくれて俺は嬉しいぞ」


『レイが元気ならいっぱいご主人を助けられるよ。どんどん頼ってね』


「ありがとう」


 シルバがお礼を言いながらレイの頭を撫でると、レイは目を細めて喜んだ。


 (それにしても、まだ穴が小さくならないってどういうことだ?)


 アークデーモンとの戦いはそこそこ時間がかかったのだが、それでも割災によって生じた異界に通じる穴は消えない。


 シルバがいつになったら今回の割災が終わるんだろうかと溜息をついた途端、穴の向こうが騒がしくなった。

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