第255話 あれ? 求めてた反応と違う

 ジーナ達と再会した翌日、シルバは執務室で自分で描いた設計図とにらめっこしていた。


 ノックをしても反応が返ってこなかったため、エイルが心配になって入室する。


「シルバ、入りますよ。って、難しそうな顔をして何を見てるんですか?」


「ん? あぁ、ごめん。集中してて気づけなかった。今は例の魔法道具マジックアイテムの設計図を描いてたんだ」


「なるほど。完成すれば大発明なのは間違いなしですが、あまり根を詰め過ぎないようにして下さいね」


「わかってるさ。でも、ちょっと閃いたことがあったから理論的に実現できないか考えてたんだ」


 シルバが考えているのはモンスターを誘導する魔法道具マジックアイテムだ。


 サタンティヌス王国第一王子の部屋を物色したところ、それを割ることでモンスターをおびき寄せる消費型の魔法道具マジックアイテムが見つかった。


 その魔法道具マジックアイテムは魔水晶を使うことにより、壊れない限り効果が永続するタイプも作れることがわかった。


 それとは別に、昨日タオと話をしたことでボッシーフォックスという薬品の存在を思い出した。


 ボッシーフォックスだが、使用した素材よりも位が低いモンスターを寄せ付けない効果を持つ。


 この2つを組み合わせることにより、ムラマサをモンスターに襲撃されないようにする魔法道具マジックアイテムを作る研究が進みそうだと思ったため、シルバはペンを取って設計図を描いては悩むのを繰り返していたのだ。


「今はどんなところで悩んでるんです?」


「描いてて思ったんだけど、どうしても例の魔法道具マジックアイテムをコンパクトにすることができないんだ。今のままだと仮に作れたとしても、制作コストが高くて国庫を圧迫しちゃう。できた魔法道具マジックアイテムは他の街にも設置するにはコストダウンをしなきゃならないんだけど、そうすると今度は効果が薄まっちゃいそうでね。八方塞がりなんだ」


「ちょっと私にも設計図を見せて下さい」


「良いよ。はい、これ」


 シルバは手に持っている設計図をエイルに渡した。


 エイルはシルバと比べれば魔法道具マジックアイテムに関する知識は少ない。


 それでも、少しでもシルバの助けになれればと思って設計図を見せてもらった。


 設計図にある四角い図形を見ている内に、エイルはふと閃いた。


「シルバ、これって絶対にコンパクトにしなくてはいけませんか?」


「何か思いついたって顔だね。詳しく聞かせて」


「無理にコンパクトな魔法道具マジックアイテムを作るならば、ムラマサ全体を魔法道具マジックアイテムにしてはどうかと考えました。設計図にある図とムラマサの形はよく似てます。だったら、いっそのことムラマサを土台とした魔法道具マジックアイテムが作れないかなって思ったんです」


「それだ! すごいやエイル!」


 シルバはエイルの発見に感激し、珍しいレベルのハイテンションでエイルに抱き着いた。


 これにはエイルも顔を真っ赤にしてしまう。


「シ、シルバ、そんな、激しいですよ! い、いえ、私としてはウェルカムなんですけど!」


 一応補足するが、エイルはシルバに抱き着かれて満更でもない様子である。


 そこにシルバとエイルを探してアリエルがレイ達従魔組を連れてやって来た。


「シルバ君とエイル、何やってるのって狡いよエイル!」


 アリエルはエイルがシルバに抱き着かれているのを見て、自分だってシルバから抱き着いてほしいんだと主張した。


 レイはアリエルと違って言葉でアピールせず、シルバの頭の上にぴったりと止まり、無言で自分も構ってくれとアピールした。


 流石にアリエルとレイからアピールされれば、興奮していたシルバも正気に戻って落ち着いた。


「あぁ、すまん。つい嬉しくって抱き着いちゃった」


「良いんですよ。私もシルバにいつも抱き締めてほしいと思ってますから」


 エイルはこういう時じゃないとアピールできないので、恥ずかしさを振り切って今の内にアピールした。


 アリエルは今後の参考として、シルバが思わず興奮して抱き着いて来るシチュエーションを知るべく訊ねる。


「シルバ君、一体何があったの? 魔法道具マジックアイテムの研究をしてたんだよね?」


「その通り。実は、エイルのおかげでその魔法道具マジックアイテムを作成できそうだってわかってね。それが嬉しくってエイルに抱き着いちゃったんだ」


「つまり、シルバ君から抱き着いてもらうにはシルバ君が悩んでるところで閃かせれば良いんだね?」


「あれ? 求めてた反応と違う」


 シルバの話を聞いたアリエルの反応が、魔法道具マジックアイテムの研究の進展を喜ぶものではなく、どうやってシルバから自分に抱き着かせるかという点だけに注目していた。


 それはシルバの求めている反応ではなかったため、シルバはどうしてそんな結論になったんだと首を傾げた。


 その一方、レイはシルバがエイルから離れたのを確認し、自分がシルバに抱っこしてもらった上で話しかける。


『ご主人、次から考え事をする時はレイを抱っこしてね。悩んだら好きなだけ撫でてくれてOKだよ』


「これも違うんだよなぁ。好きなだけ撫でて良いのは嬉しいけど」


 シルバはレイを撫でることが好きだけれど、今求めている反応ではなかったから苦笑した。


 アリエルはシルバがどんな反応を求めているかわかっていたので、笑いながら謝る。


「ごめんね。今度こそちゃんと聞くから。魔法道具マジックアイテムはどんな風にすれば良いの?」


「ムラマサを土台とした魔法道具マジックアイテムにすれば、ムラマサにモンスターが来なくなる。しかも、そこから少し離れた所にモンスターをおびき寄せられる」


「・・・そういうことか。ムラマサの道に魔力回路を刻み、ムラマサ全体を魔法道具マジックアイテムにできそうだね。確かにこれはすごい発見だよ」


 そう言う割にはアリエルが冷静だが、これはエイルにこの発見を先にされてしまったことが悔しかったからである。


 自分で発見していたならば、もっとテンションが上がっていたことだろう。


「だろ? とりあえず、現時点で城に蓄えられてる緑魔石を使えば、ムラマサ全体にかかる魔力回路を刻むぐらいはできるはず。赤魔石と黒魔石もかなり潤沢にあるから、赤魔水晶と黒魔水晶を使ってムラマサ全体を魔法道具マジックアイテムにできそうだ」


「工事中に関係者以外を立ち入り禁止にさせれば、ムラマサ全体を魔法道具マジックアイテムにするのに2日もあれば十分じゃないかな」


「俺もそう思う。アリエルの<土魔法アースマジック>があれば、2日で魔法道具マジックアイテムを起動させられるところまでいくはずだ」


 人力で魔力回路に使う穴をムラマサ全体に掘るならば、その倍の日数はかかるだろうから、<土魔法アースマジック>は偉大である。


「とりあえず、これからすぐに調整して設計図を完成させるから、今日の午後からアリエルに頑張ってもらおうかな」


「頑張るのは良いんだけど、僕もシルバ君に抱き着いてもらいたいな。シルバ君から抱き着いてくれるなら、作業時間を半日まで短縮できそう」


「俺が抱き着くだけで効率が上がるなら、リクエストに応じるさ」


「言ったね? じゃあ、早速抱き着いてもらおうか」


 アリエルはこのチャンスを逃してはいけないと思い、すぐにシルバに抱き着いてくれと頼んだ。


 前払いで報酬を貰ったアリエルだが、昼食後に作業を始めて日が暮れる頃には魔力回路の枠になる溝を掘り終えた。


 どうやら本当にシルバに抱き着かれたことで、パフォーマンスが上がったらしい。


 アリエルが掘った溝にシルバ達が砕いた魔石を撒けば、魔力回路はほとんど完成だ。


 残る作業は魔力回路の中心になるムラマサ城に黒魔水晶を設置し、ムラマサの北西と北東、南西、南東の端のそれぞれに赤魔水晶を設置するだけだ。


 ムラマサの地形は正方形であり、頂点の部分に赤魔水晶を設置することでムラマサ全体が効果範囲になる。


 魔水晶の設置作業は飛べるレイとマリナがいるから、レイの背中にシルバが乗り、マリナの背中にエイルが乗って分担することで時間を短縮できた。


 日が沈んだ頃にムラマサ城の頂上に黒魔水晶を設置することで、魔法道具マジックアイテムが起動する。


 ブゥンと短く鳴った後、ムラサメを覆う魔力の結界がピラミッドを模るようにして出現した。


 これにより、モンスターが結界に近づけば近づく程落ち着かなくなり、結果として野生のモンスターはムラマサに入らなくなる訳だ。


 その代わりに、ムラマサの北西と北東、南西、南東5kmの位置はモンスターが集まりやすくなっているから、定期的に第一騎士団が狩りに行く必要がある。


 ちなみに、野生のモンスターと表現した理由だが、テイムされた従魔は主人と一緒にして精神が安定しているので、結界の中にいてもソワソワしない。


 結界から離れたがるのは、心の拠り所がない野生のモンスターだけということだ。


 (これで割災の生じる位置もずらせれば完璧だったんだけど、世の中そう上手くはいかないか)


 あくまで今回の結界は既にエリュシカにいるモンスターに対して効果があるのであり、割災によって発生する穴をずらす効果はない。


 まだまだ改良の余地はあるけれど、ひとまずシルバ達がディオニシウス帝国で魔石研究室を立ち上げた時から作りたかったものが完成した。

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