第256話 良い知らせと悪い知らせがございます。どちらからお伝えしましょうか?

 ムラマサを土台として完成した巨大な魔法道具マジックアイテムは、シティバリアと名付けられた。


 街を丸ごと覆えるぐらいの魔力結界が展開されるから、シティバリアという名前はぴったりだろう。


 シティバリアを起動した次の日、ムラマサの北西と北東、南西、南東5kmの位置にモンスターが集まっていたことが確認できたため、シルバ達と第一騎士団が手分けして集まったモンスター達を討伐した。


 集まったモンスターの種類は多種多様であり、それらのどの個体も決してムラマサには近寄ろうとしなかったから、シティバリアは正しく機能していると言えよう。


 シティバリアは国や街を預かる者ならば、喉から手が出る程欲しいものだ。


 それゆえ、J&S商会ムラサメ支店長のシュヴァルツ経由でシティバリアの存在を知り、ロザリーとアルケイデスからシルバに対してディオニシウス帝国にも技術を提供してくれと連絡が入った。


 シルバはムラサメ公国が全体的に疲弊しており、その防衛力に不安を感じていることから、自国での設置と効果測定が終わってからでも良ければ身内価格でシティバリアの設計図を提供すると回答した。


 ロザリーもアルケイデスも、シルバがちゃんと公王らしくまずは自国を最優先に考えられるように成長したことを嬉しく思うと同時に、今後はムラサメ公国が自分達に思いつかないような発展をするかもしれないとも思った。


 ちなみに、スロネ王国の分もお願いしますとユリが言って来たのは言うまでもない。


「やれやれ。やっと5ヶ所終わったね」


「公国内の街はあと3つです。蜂蜜飴をあげますから頑張って下さい」


「頑張るー」


 アリエルはムラサメを含めて5ヶ所目のシティバリアを設置した後、溜息をついた。


 エイルはアリエルが魔術回路のための溝を掘る負担を考慮し、ムラマサで売られていた蜂蜜飴を取り出してアリエルに1粒渡した。


 口の中にそれを放り込み、糖分を補給したアリエルが間延びした声で返事をした。


 そうしている間に、シティバリアの作動確認を終えたシルバがレイの背中に乗って戻って来る。


「この街の周辺にいたモンスター達も、他の街の時と同様に俺達の狙い通りの地点に逃げてったぞ」


『今回はサービスで逃げたモンスターの半分は倒してあげたの』


 シルバがアリエル達に報告すると、レイが戦果を<虚空庫ストレージ>から取り出しながら補足した。


「う~ん、帝国よりもこの国はモンスターの数が多いね」


「戦争と内戦に時間を取られ、割災によってこちらに紛れ込んだモンスターの討伐を後回しにしたからでしょうね」


 アリエルが一目でわかる事実を述べれば、エイルが事実から導き出した推測を口にした。


 実際のところ、エイルの推測は正しい。


 ディオニシウス帝国は基本的にサタンティヌス王国とトスハリ教国の戦争に干渉せず、国内に紛れ込んだモンスターを順調に片付けていたので、他国に比べて国内に潜むモンスターの数が少ない。


 シルバはムラサメ公国の公都ムラマサを起点として、西に位置して海に面するウェスティア、南の山に囲まれるサウスティア、東の森を越えた先にあるイースティア、北の湖が近くにあるノースティアに順番にシティバリアを設置した。


 今はノースティアにシティバリアを設置し終えたところで、残りはサウスティアとイースティアから等距離にある火山近くのフーチマン、ディオニシウス帝国との国境に最も近いジブコス、トスハリ教国との国境に最も近いアズラスの3つだ。


 余談だが、第一騎士団以外の騎士団は以下の通りに配置されている。


 第二騎士団はウェスティア。


 第三騎士団はサウスティア。


 第四騎士団はイースティア。


 第五騎士団はノースティア。


 第六騎士団はフーチマン。


 第七騎士団はジブコス。


 第八騎士団はアズラス。


 トスハリ教国との戦争や内戦により、地理的な問題もあって第七騎士団以外は団員が多く減ってしまった。


 それを考慮し、残る3つの街を回る順番では騎士団の数が少ない順でアズラス、フーチマン、ジブコスとなる。


「ピヨピヨ?」


 リトが難しい話はおいといて、黒魔石を貰っても良いかと言いたげにアリエルを見た。


 魔石を取り込むことで体は着実に大きくなっているが、どういう訳か雛から成体にならないリトとしては、レイとマリナが進化して自分が進化していない現状は早急にどうにかしたいようだ。


 シティバリアによって逃げ出したモンスターの多くはブラック級モンスターだったから、シルバとレイは黒魔石を多く手に入れていた。


 リトはまだ黒魔石で満足しているため、シルバの見立てでは進化までの道のりは遠いと見ている。


 その根拠はレイとマリナである。


 レイもマリナも進化した時は金魔石を欲しがった。


 リトも強い種族に進化するのならば、少なくとも銀魔石を欲しがるようになり、それでも物足りなくなってからじゃないと進化しないと判断した訳だ。


「食べて良いよ」


「ピヨ♪」


 アリエルから許可を得て、リトは嬉しそうに黒魔石をどんどん飲み込んでいく。


 体は少しずつだが着実に大きくなり、今の強化でバランスボールぐらいのサイズまで成長した。


 リトから感じられる力も強まっているので、リトもそれを理解しているらしく喜んでいる。


 それでも、少し物足りないようにも見受けられるから、リトにもそろそろ銀魔石を与える頃合いかもしれない。


「シルバ君とエイル、これから先はリトに銀魔石を与えたいんだ。だから、シルバー級モンスターの魔石を優先して貰っても良い?」


「俺は構わないぞ。レイは銀魔石を欲しがらなくなったし」


「私も構いませんよ。マリナもレイちゃんと同じ状況ですから」


「ありがとう。リト、2人に感謝しないとね」


「ピヨ」


 リトはシルバとエイルに向かってペコリと頭を下げた。


 素直に感謝できるのは良いことである。


 その後、第五騎士団がシルバとレイの残したモンスターを討伐したと報告を受けてから、シルバ達はムラマサ城に帰還した。


 シルバ達がムラマサ城の執務室に戻ると、ドアをノックしてサイモンが入室した。


「サイモン、マジフォンで連絡して来なかったけど何かあったか?」


「はい。陛下がレイ様に乗ってお戻りになられたのが見えましたので、直接報告させていただきたく参りました」


「聞かせてもらおう」


「良い知らせと悪い知らせがございます。どちらからお伝えしましょうか?」


 サイモンがわざわざ直接知らせに来たことから、ちょっとしたことではないのだろうと判断し、シルバ達は視線を交わしてから頷き合う。


「悪い知らせから聞こう。悪い知らせはさっさと聞いて片付けるに限る」


「かしこまりました。悪い知らせとはムラマサ南西5kmの地点でシルバーローカストアーミーの出現を確認したことです」


「シルバー級か。そいつは面倒だな」


 ローカストアーミー系モンスターは名前の通り群れ全体を1つの軍として扱うモンスターであり、放置すればバッタが引き起こす蝗害とは比べ物にならない程の被害が出る。


 シティバリアがあるからムラマサは安全かもしれないが、シルバーローカストアーミーがムラマサ南西5kmの地点で暴れたらぺんぺん草も生えなくなる。


 そんなシルバーローカストアーミーの出現が確認されたことは、悪い知らせと表現するに相応しいだろう。


 アリエルがシルバに変わって訊ねる。


「サイモン、良い知らせを聞かせてよ」


「かしこまりました。良い知らせとはムラマサ南西5kmの地点でモンスターが現れましたが、共食いをして1種類のみだけになったことです。倒すべき敵の数が減ったのは良いことかと存じます」


「手間が省けたのは良いことだけど、残ったのってシルバーローカストアーミーのことだよね?」


「おっしゃる通りです。それゆえ、良い知らせでもあり、悪い知らせでもある訳でございます」


 サイモンの知らせを聞き終えたところで、シルバがどうするか結論を出す。


「シルバー級ともなれば、鉄ですら齧って喰らう奴等だ。ここは俺達が向かうことにする。第一騎士団を向かわせたとして、勝てても武器や防具を壊されては困るからな」


「お力になれず申し訳ございません」


「今は無駄に実戦で戦力を減らす時じゃないんだ。仕方あるまい。レイ、悪いけどもう一狩り行くから乗せてってくれ」


『任せて!』


 シルバ達は帰って来て休む暇もなく、ムラマサの南西で移動した。

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