第257話 背中の傷は剣士の恥じゃなかったっけ?

 ムラマサの南西5km地点に移動すると、シルバ達はレイの背中の上から色に埋め尽くされた地上を見下ろした。


「シルバーローカストアーミーって話じゃなかった? どう見てもゴールドローカストアーミーだよね」


「シルバーローカストアーミーから進化したんでしょうか?」


「だろうな。ここに誘導されたモンスター達を全て食い尽くし、シルバーローカストアーミーがゴールドローカストアーミーになったと考えるべきだ」


 アリエルとエイルの発言を受け、シルバはやれやれと言わんばかりに首を横に振った。


 ゴールドローカストアーミーのせいで地面が見えないから、シルバ達は地表がどうなっているのかわからない。


 本当にぺんぺん草も生えなくなっているかもしれない。


『ご主人、空から攻撃しようよ。降りたら危険だと思う』


「そうだな。着陸したらどうなるかわかったもんじゃない。レイ、頼めるか?」


『任せて!』


 シルバに任されてご機嫌なレイは、<属性吐息エレメントブレス>で風のブレスを地上に放った。


 蹴散らすつもりで放ったこともあり、ゴールドローカストアーミーはレイのブレスに命中した個体から吹き飛ばされ、後ろの個体とぶつかってドミノ倒しになっていく。


『私も戦いましょう』


 マリナは水牢獄ウォータープリズンで巨大な水の牢獄を創り出し、その中に吹き飛ばされたゴールドローカストアーミーの3分の1を閉じ込める。


 水牢ウォータージェイルよりも広範囲にわたって敵を閉じ込められるから、魔力はそれなりに消費するけれど、マリナは水牢獄ウォータープリズンを選んで発動した。


 ただ閉じ込めて水責めで力尽きるのを待つのは時間がかかるので、シルバが追撃を仕掛ける。


「水で閉じ込めたなら雷で追撃だろ。壱式雷の型:紫電拳」


 シルバの追撃が決まり、巨大な水の牢獄に閉じ込められていた者達は力尽きた。


 マリナは死体をずっと閉じ込めておくのも魔力が勿体ないから、水牢獄ウォータープリズンを解除した。


 その瞬間、シルバ達にとって予想外な展開が起きた。


 驚くべきことに、起き上がった残りのゴールドローカストアーミー達が死んだ個体を食べ始めたことである。


「敵も味方も関係ないのか」


「まさに弱肉強食だね」


「もう一度進化するとかないですよね?」


 エイルの疑問を否定できる根拠がなかったため、アリエルがすぐに動き出す。


「リト、食べてる奴等を石化させて」


「ピヨ!」


 リトに<石化眼ペトリファイドアイ>で生き残った個体の強化を阻止するよう指示を出しつつ、アリエルは大地棘ガイアソーンで無差別に攻撃した。


 その直後、何体かはあっさりと串刺しになったが、攻撃を察した個体は空に飛びあがった。


 それでも、上空にはシルバ達という強力な敵がいるから、近づき過ぎない程度の高度で密集して金色の球体へと変化した。


 そのまま落下したが、針の筵ならぬ棘の筵に着地しても棘が突き刺さることはなかった。


 じっくり観察してみたところ、棘の先端が触れているのはいずれもゴールドローカストアーミーの個体の背中であり、腹部を守るように背中を外側に向けている。


「背中の傷は剣士の恥じゃなかったっけ?」


「シルバ君、こいつ等は剣士じゃなくてただの虫だよ」


 シルバは背中がひっかき傷だらけになりそうな敵の作戦に気づき、師匠マリアから教えてもらった言葉を口にした。


 それに対し、アリエルはシルバがボケるなんて珍しいという表情でツッコんだ。


「シルバもアリエルも喋ってる場合ではありませんよ。早く有害なゴールドローカストアーミーを討伐しましょう」


「そうだな」


「はーい」


 エイルに注意され、シルバとアリエルが気持ちを切り替えた。


 その間にも棘に触れている個体は球体から顔を出し、棘が刺さって力尽きた個体や石化して動かない個体を食べていた。


 どんな時でも食欲の優先順位が高いことは、ゴールドローカストアーミーの習性のようだ。


「最後の1体になるまで共食いさせたら、ゴールド級の上に到達したりしてな」


「シルバ君、それは倒せる自信がない限り会いたくないな」


「シルバ、強い個体と戦いたいとか思って変な実験をしないで下さいね?」


「わかってるって。そんなリスクは負わないよ」


 エイルにジト目を向けられれば、シルバはわざとゴールドローカストアーミーを強化するまで待つなんて選択肢を選んだりしない。


「弐式火の型:焔炸」


 シルバが放った手刀に火を纏わせると、ゴールドローカストアーミーが形成する金色の球に命中した。


 虫型モンスターは火に弱い傾向にあるので、シルバの攻撃を受けてゴールドローカストアーミー達が形成する金色の球は形を保てなくなる。


 火が燃え移った個体を斬り捨て、それすらも食べ始めるゴールドローカストアーミーの業の深さを思い知る。


「マリナ、もう一度お願いします」


『任されました』


 マリナは再び水牢獄ウォータープリズンを発動し、生き残っているゴールドローカストアーミーの半分を巨大な水の牢獄に閉じ込める。


「次は俺の番か。壱式雷の型:紫電拳」


 巨大な水の牢獄に紫の電流が走り、その中にいた者達をあっという間に倒した。


 (そして、死骸になった個体は餌になるのか)


  シルバが心の中で思った通り、またしても生き残ったゴールドローカストアーミーは自分以外を食い散らかす勢いだった。


 ゴールドローカストアーミーの個体の残りは10体まで減っており、通常の個体よりも感じられる力が強かった。


 伊達に倒れた味方までも食っているだけはあるようで、それぞれの個体から放たれるオーラは確かに強くなっている。


 生き残った10体だけで金色の球を作り直し、それがだんだんと弾みをつけてシルバ達目掛けてジャンプし始める。


 レイと同じ高さまでジャンプして届くとは恐るべしである。


「燃えれば良いよ」


 アリエルは最初から奇襲を仕掛けようとしたが、10体のゴールドローカストアーミーの集まり方が通常とは異なり、先程よりも小さいがテクニックはありそうだ。


 火弾乱射ファイアガトリングで集中砲火すれば、10体で構成されていた金色の球体に綻びが生じる。


 引火した2体が球体を離れていき、地面に落ちた時には球体を形成していた個体がムシャムシャ食べ始める。


 残り8体になると球体を作るのも難しくなり、食事をすぐに済ませて一斉に空を飛び始めた。


 今までは空を飛ぶ気配がしなかったが、けれど今はも飛べるようになったから、ゴールドローカスト達が空を飛んで驚いた。


『こっち来ないで!』


 レイが竜巻トルネードを発動すれば、竜巻が現れてその中に2体が吸い込まれていく。


 これで残り6体だが、先程の竜巻トルネードで倒れた2体を食べようとする個体が現れ、そのまま地上へ向かって飛んで行った。


「ピヨ!」


 リトが<石化眼ペトリファイズアイ>でその個体を墜落させれば、残るゴールドローカストアーミーは5体だ。


 死んだ3体を食べられるのは早い者勝ちであり、今のままではシルバ達に勝てないと判断したからか、残る5体はシルバ達を攻撃するよりも死体を食べに行く個体ばかりだ。


「マリナ、今です」


『勿論です』


 エイルの指示を受け、マリナが本日参度目の水牢獄ウォータープリズンを発動した。


 今も残っている5体ぐらいならば、あっさりと巨大な水の牢獄に囚われてしまう。


「でかしたマリナ。壱式雷の型:紫電拳」


 鉄板の組み合わせにより、ゴールドローカストアーミーは1体残らず力尽きた。


 周囲に後続の敵影がないことを確認すると、シルバ達は地上の様子を見て顔を引き攣らせる。


「マジで何も残ってない」


「食欲旺盛過ぎでしょ」


「この辺りに緑は再生するんでしょうか?」


 エイルが言った通り、禿げてしまった土地にこれから植物が育つのかシルバ達は心配になった。


 そうだとしても、もっと対処が遅れてしまえばムラマサ周辺まで不毛地帯になってしまうから、この程度の被害で収まったのは不幸中の幸いと言えよう。


 さて、戦利品の魔石だが、ローカストアーミー系のような群体はそれぞれに極小の魔石が存在する。


 リトに金魔石は早いから、レイとマリナが山分けしてローカストアーミーの魔石を貰った。


 粒が小さかったけれど、そこに秘められた力は確かに魔石そのものだった。


 だからこそ、レイもマリナも小さい金魔石をたくさん貰えて嬉しそうにした。


『ご主人、いっぱい金魔石をくれてありがとう!』


『マリナ、金魔石をこんなに貰えたことを感謝します』


 素直に喜ぶレイとマリナは大きくとも可愛いので、シルバもエイルも自分の従魔の頭を優しく撫でた。


 それからムラマサ城に帰ろうとした時、突然空間が揺れて罅割れが生じる。


 (このタイミングで割災? どれだけ俺達を働かせるつもりだよ?)


 割災が起きてシルバがうんざりするのは当然のことだった。

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