第254話 心の友よぉぉぉ!
ゴールドボアとバジリスクを倒した翌日、ムラマサ城にシルバとアリエルを訊ねて来た者がいた。
「シルバ、遠路はるばる会いに来たわ!」
「公王様、お時間を取っていただき光栄でございます」
「シルバ君、来ちゃいました」
「どゆこと? それと、ヨーキはその喋り方が気持ち悪い」
ムラマサ城にやって来たのはJ&S商会の共同代表の片割れであるジーナに加え、最近までクラスメイトだったヨーキとタオだった。
どういう集まりなのかわからなかったので、シルバは首を傾げつつヨーキにストレートな感想をぶつけた。
「私はJ&S商会のムラマサ支店出店のために来て、ヨーキとタオは護衛として来てもらったの」
「気持ち悪いとはなんだよ。シルバに敬意を示そうと真面目に振舞ったのに」
「ヨーキ君、敬意を示すのに揶揄う気しか感じられない笑みを浮かべたら駄目だと思います」
ジーナがムラマサに来た理由は納得できたので、シルバはヨーキを後回しにしてジーナの話を先に聞くことにした。
「ムラマサはファスト商会、トゥートゥーストア、トライマーケットがシェアを寡占してるけど、J&S商会はそこに介入できるだけの力があるのか?」
「フッフッフ。私は第四勢力としてきた訳じゃないわ。ちゃんと戦う準備をして来たの」
「と言うと?」
「聞いて驚きなさい! トライマーケットを買収したのよ!」
ジーナはドヤ顔で言ってのけた。
ファスト商会とトゥートゥーストア、トライマーケットがそれぞれムラマサの商会シェア1位、2位、3位だ。
その中で3位のトライマーケットをジーナが買収したと聞き、シルバはジーナがそこまでできる経営者だったなんてと素直に驚いた。
そこにアリエルがにっこりと笑みを浮かべながら現れ、そのまま話に加わる。
「ジーナ、隠し事は良くないなぁ。シュヴァルツのお店を条件付きで買い取ったことを言わないと駄目じゃないか」
「うげっ、なんでそこまで知ってるのよ」
「ジーナちゃん、女の子がするべき反応じゃないです。気を付けた方が良いですよ」
ジーナのリアクションが年頃の乙女に相応しくなかったため、タオがやんわりとそれを指摘した。
「だって、アリエルが私よりも先にネタバレするんだもん」
「アリエルさんや、俺が置いてきぼりにされてるから解説頼む」
「あっ、ごめんね。トライマーケットなんだけど、実は副会長がお義姉さんのところのシュヴァルツなんだ。会長はシュヴァルツの言いなりで動くだけで、ぶっちゃけシュヴァルツの店と言っても過言じゃないんだ」
「ロザリーお姉ちゃんの手はそんなところまで届いてたのか」
シルバはロザリーの手腕に戦慄した。
シュヴァルツはロザリーの指示でトライマーケットに入り込み、サタンティヌス王国時代からこの国の情報を集めてロザリーに流していたのだ。
「そこからは私が話すわ。トライマーケットの会長なんだけど、今のままだと優秀なシュヴァルツさんにトライマーケットを乗っ取られると思ったから、ムラサメ公園建国後にシュヴァルツさんを嵌めて失脚させようとしたの。でも、シュヴァルツさんがそれを利用して会長を失脚させたのよ。家族で夜逃げしたところ、不幸な事故に遭って亡くなったらしいわ」
(事故に見せかけて消したのか。徹底してるな)
シルバは口に出さなかったけれど、トライマーケットの会長一家がどうなったのか察した。
それは置いておくとして、シルバは気になったことがあってジーナに訊ねる。
「副会長だったシュヴァルツさんは会長になったんだよな? だったら、わざわざジーナが出て来る必要あるか?」
「そこはロザリー殿下が気を利かせてくれたのよ。私とシルバが軍学校にいた頃から仲良くしてたから、私がシルバに会える口実を作ってくれたの」
ロザリーが自分に優しくしてくれたというエピソードを披露するジーナに対し、アリエルが真実を見抜いてそれを口にする。
「シュヴァルツさんが今度はJ&S商会の名前を盾にして活動するため、トライマーケットをジーナに買収させたんだよね」
「もう! それは言わないでよ! それを言ったらおしまいでしょ!」
ジーナも学生ながらJ&S商会をディオスで流行らせるぐらいにはやり手だ。
ロザリーの狙いに気づかないはずがない。
だが、それを口にすれば自分が都合の良い駒にされたと感じてしまうから、現実を見ないで良い話として説明した。
もっとも、それはアリエルによって失敗してしまい、ジーナは現実を直視させられるのだが。
「ということで、ジーナはトライマーケットを買収してJ&S商会ムラサメ支店にしたけど、支店長はシュヴァルツさんだね。しかも、J&S商会の商品も販売できるようになったから、トゥートゥーマーケットとシェア2位の座を競って、遠くない内に勝つと思うよ」
「それ、
「そこは僕も考えてるから安心して。ただね、いつまでも旧王国時代のやり方で胡坐をかかれたら困るから、今回みたいな荒療治でファスト商会とトゥートゥーマーケットにはもっと気合を入れてもらうんだ。そうじゃないと、いつまで経ってもこの国が経済的に強くなれないから」
「スパルタね。でも、嫌いじゃないわ」
アリエルの考えを聞いてジーナはニヤリと笑った。
追い込んで結果を出させる方法は、一定の効果をもたらすと彼女も考えているからである。
「とりあえず、ジーナがここに来た理由はわかった。ヨーキとタオが護衛になったのはミッションだよな? ここと帝国の往復に加え、ここでの滞在中の護衛ってなると所要日数が普通のミッションとは比べ物にならない。軍学校は方針を変えたのか?」
「変わった。シルバとアリエルのおかげでな」
「俺達のおかげ?」
ヨーキが自分とアリエルのおかげで軍学校の方針が変わったと言うので、それがどんなふうに変わったのかシルバは詳細を話すよう促した。
「おう。
「ちなみに、私はロザリー殿下から勅命を受けた扱いでここにいるから、F3-1でも特殊なケースだからね」
ジーナはヨーキの説明を聞き、質問される前に自ら補足した。
「なるほど。同期が出世するのは嬉しいことだから、是非とも頑張ってくれ。ところで、ジーナの護衛がヨーキとタオになった理由は何? 多分、他のクラスメイトもこのミッションを受けたかったんじゃないの?」
「ミッション中に割災が起きた時、生存率が高い組み合わせってことで俺とタオが選ばれた。俺が接近戦担当で、タオが後方支援担当だな」
「つまり、タオは薬品を使って色んな支援ができるから選ばれて、前衛で現在トップの実力のヨーキが肉壁として選ばれたんだね?」
「アリエル、俺の扱い酷くね?」
ヨーキの話を聞いてシルバが反応するよりも先に、アリエルがヨーキを揶揄うような反応をした。
「だって、前衛で最強はシルバ君だもん。そこは譲れないよ」
「そりゃ否定しないしできないけどさ、もうちょっとアリエルには優しさを知ってほしい」
「僕は優しいと思うよ。今の発言、録画してたものを証拠として公開したらヨーキは不敬罪だからね?」
「・・・命だけはお許し下さい」
喋っている内にクラスメイトだった頃の感覚に戻って会話をしていたが、今のアリエルはムラサメ公国の第一公妃だ。
もしも公の場でヨーキがアリエルに優しさを知るべきだなんて言えば、不敬罪になるのは間違いない。
ヨーキも指摘されて顔が青くなった後、直角まで頭を下げた。
それを見てシルバが止めに入る。
「アリエル、そこまでにしなって。ヨーキも頭を上げてくれ。アリエルも久し振りにクラスメイトに会えてはしゃいでるみたいだ。公の場じゃなければ今まで通りで良いから、そこだけは気を付けてくれよな」
「心の友よぉぉぉ!」
「落ち着けヨーキ」
シルバが偉くなっても時と場合さえ選べば今まで通りで良いと言ったため、ヨーキはそれが嬉しくってシルバに抱き着いた。
この後も時間が許す限り話をして、シルバとアリエルにとってはリフレッシュする良い機会だった。
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