第225話 シルバがどんどん強くなってくれるおかげで俺は楽ができる。良いことだ
シルバ達がピアレイと交戦していた頃、アリエル達は見える距離にある木を調べようとそこに向かっていた。
ところが、木に向かっていく途中で地面のあちこちに穴が空いてるのを見つけて立ち止まる。
「リト、穴にモンスターがいると思う?」
「ピヨ」
アリエルに訊ねられたリトは頷き、シャドーボクシングの真似をした。
この反応を見て、アリエルは穴の中にモンスターがいる前提でロウに質問する。
「ロウ先輩、穴の中に何がいると思います?」
「パッと見て足跡みたいなわかりやすい痕跡がないからなぁ。穴の大きさからみて、モール系のモンスターとかワームじゃない。それと、穴の数が多いからアント系のモンスターでもないだろう。多分、虫型モンスターだろうぜ」
「そうですか。じゃあ、試しに攻撃してみましょうか」
虫型モンスターに慈悲はないと言わんばかりの表情を浮かべ、アリエルは手前の穴の中に
数秒後、穴の中から火傷したモンスターの幼虫だった。
その幼虫は蛹になりかけだったものの、大きくなったら何になるかアリエル達には判断が付かなかった。
「ピヨ♪」
リトは美味しそうと弾んだ声で鳴き、幼虫を突いてとどめを刺した。
それだけでなく、幼虫をぺろりと食べてしまった。
リトは従魔だからアリエルと一緒に食事をするけれど、まだ残っていた野生の本能がモンスターの幼虫を餌であるとリトに気づかせたらしい。
「美味しかったの?」
「ピヨ。ピヨピヨ」
「もっと食べたいから穴から飛び出すようにしてくれって?」
「ピヨ」
「しょうがないな」
リトにもっと幼虫が欲しいと甘えられ、アリエルは自分に近い穴から順番に
次々に火傷したモンスターの幼虫が飛び出し、リトはテンポ良く食べていく。
ジェットはモンスターの幼虫に興味がなかったらしく、魔石を含めてリトに全部譲っている。
「リトって可愛い見た目だけどちゃんとコカトリスなんだな」
「狩猟本能を忘れてないよね」
「おやつ感覚で平らげちゃったね」
「従魔がいると戦利品回収も楽になるのか」
ヨーキ達はリトがモンスターの幼虫を食べる姿を見て、各々の感想を口にした。
自分がヨーキ達に褒められたことは理解しているので、リトはモンスターの幼虫を間食した後にご機嫌そうに鳴いた。
モンスターの幼虫達が潜伏していた穴があるゾーンを越え、アリエル達は木の下まで辿り着いた。
葉が生い茂っていることから、木の枝に隠れているモンスターがいるのではないかと注意深く観察していると、木の周りをグルグル飛び回るジェットを恐れて足を滑らせたのかレッドカメレオンが木の枝から落ちて来た。
「次は俺の番だ」
ロウは籠手から鋼線を射出してレッドカメレオンを拘束し、上空に放り投げた。
レッドカメレオンは空中では何もできないから、ジェットの
レッドカメレオンの魔石だとジェットは興味を示さなかったため、ロウは魔石も含めてディオスに戻った時に軍に提出することを決めた。
残念ながら、事前に決めていた探索時間が終わりに近づいていたので、アリエル達はポールの待っている拠点に戻った。
無事に全員が揃ったから、シルバ達は探索の結果を共有する。
回収できた卵がウォーターリーパーの卵で1つだけだったけれど、ポールは目を丸くしていた。
「へぇ、驚いた。日の入りも間近の1時間でモンスターの卵を1つ見つけて来るか。大したもんだな」
「ピアレイを見つけましたので、その付近に水場があるのはわかりました。水場に卵を産み付けるモンスターもいますから、今回はその習性通りだったのでしょう」
「シルバ君達は良いなぁ。こっちなんて見つけたのは卵生のモンスターだったけど、卵から孵った状態だったり成体だったもん」
「まあまあ。また明日頑張ろうぜ」
アリエルが羨ましそうに言うものだから、シルバはアリエルを励ますように言った。
その後、拠点を設営する前に倒したレッドブル2頭を使った料理で腹を満たし、シルバ達は順番に見張りをしながら眠った。
野営では基本的に誰かが見張りをするようにシフトを組む。
それはB3-1の学生達も理解しているし、遠征のフィールドワークでは実際に経験しているから慣れたものだった。
夜襲がなかったことで気の緩んでいた朝、シルバ達が食事を取り終えた頃に上空から気配を感じ取り、シルバがその気配を感じた方向を向く。
西の空から飛んで来たそれは、シルバ達が過去に遭遇して一度倒したモンスターだった。
「みんな、落ち着いて聞いてくれ。西の空からデーモンがこっちに向かって来てる」
「「「デーモン?」」」
ロウとヨーキ、メイがチラッと自分の方を見たため、アリエルが目の笑っていない笑みを浮かべる。
「よし、わかった。騒乱剣サルワの錆になりたいんだね?」
「「「すいませんでした」」」
大声を出せない状況だったので、ロウ達は静かにだが頭を腰の位置まで下げた。
呪われた剣で斬るぞと脅されれば謝るのは当然だろう。
いや、正確にはアリエルを本気で怒らせて敵対することを恐れていると言った方が良い。
アリエルと敵対すれば、社会的に殺されることもあり得るし、魔法系スキルによって嵌め殺しされる可能性もある。
悲惨な最期を迎えたくないのなら、アリエルを揶揄わない方が賢明である。
デーモンはシルバ達に気づいているらしく、どんどん距離を詰めて来ていた。
シルバはポールに目で合図して、B3-1の学生達を馬車の中に隠れさせた。
『アタシ達の出番なのよっ』
『出番、到来。敵、武器、所持』
シルバのベルトから熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュが話し出した。
デーモンはシルバの目で見ても確かに武器を持っていた。
それは槍であり、何かの骨を削って作ったようだった。
「俺が正面から戦うから、アリエルは援護を頼む。エイルとロウ先輩は周辺から他の敵が接近してこないか警戒するように」
「「「了解」」」
「レイ、行くよ」
『うん!』
シルバが声をかければ、レイは元気に返事をして元のサイズに戻ってシルバを乗せて飛翔した。
同じ高度になり、シルバ達と向き合ったデーモンはニヤリと笑みを浮かべる。
「強者の気配を頼りにここまで来たが、どうやら正解だったらしい」
「誰も呼んでないから帰ってくれ」
「そんな冷たいこと言うなよ! お前に会いたくてはるばる来たんだぜ!」
デーモンは槍を構えて刺突を放ち、その刺突の衝撃でシルバの乗るレイを攻撃した。
しかし、デーモンの攻撃したレイは
「ん? 手ごたえがねえな?」
「肆式雷の型:雷塵求」
デーモンが付き刺した幻影の向こうから、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを装備したシルバが空を駆けて飛び出し、雷を纏った状態でラッシュを繰り出した。
その結果、反応が遅れたデーモンは次々に繰り出される攻撃を受けてしまい、その体にいくつもの穴が開いた。
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュの効果により、デーモンの体は火傷と乾燥によって水分を一気に失ってカラカラになった。
技が終わった時にはデーモンは力尽きており、レイがキャッチしなければデーモンも槍も地面に墜落していただろう。
特に援護することもなく戦闘が終わってしまったため、シルバとレイが地上に戻って来るとアリエルが若干不満そうだった。
「シルバ君とレイが倒しちゃうから、僕とリトの出番がなかった」
「ごめん。前に戦った時の印象が残ってたから、苦戦するかもしれないって思って援護を頼んだんだけどあっさり倒せちゃった」
シルバとアリエルが話しているところにポールが加わる。
「アルケイデス先輩から西に現れたデーモンが東にすごい速度で向かって来てるって報告を受けたんだが、それってこいつだよな?」
「他にデーモンがいるって報告は聞いてないですから、多分この倒した個体だと思います。西に現れたデーモンって何かの骨でできた槍を持ってたかわかりますか?」
他にデーモンがいたならば、危機は去っていないことになるからシルバはポールにたった今倒したデーモンと西に現れたデーモンが一致するか訊ねた。
「ちょっと待ってろ。今、シルバが倒したって伝えてから訊いてみる。・・・確定だな。槍を持ってたってよ」
「今回はそんな予定じゃなかったんですけど、またこの国の危機を阻止しちゃいましたね」
「シルバがどんどん強くなってくれるおかげで俺は楽ができる。良いことだ」
『エッヘン。ご主人は強いんだよ。レイと一緒ならもっと強いよ。デーモンもあっさり倒せるんだもん』
ポールが楽できてラッキーと言うのに対し、レイはシルバと自分が一緒ならもっと頼りになるんだぞと胸を張った。
シルバがレイの頭を撫でていると、もう安全だと判断してヨーキ達が馬車から出て来てシルバとレイに駆け寄った。
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