第226話 命の恩人、感謝永遠に
避難した馬車の中から戦闘をしっかり見ていたため、興奮した様子のヨーキ達がシルバとレイを取り囲む。
「すげえよシルバ! デーモンを一方的にボコボコにしてたじゃん!」
「一撃、重い。複数、強過ぎ」
「雷、強烈。火傷、乾燥、追い打ち」
「レイちゃんもすごかったね!
『ドヤァ』
シルバと自分が褒められてご機嫌になり、レイは渾身のドヤ顔を披露した。
それから、シルバはデーモンの魔石を回収してレイに与える。
魔石を飲み込んだことで、レイは新たに
『ご主人、これで呪いもどんと来いだよ』
「よしよし。レイは本当に頼りになるな」
『フフン♪』
レイはシルバの力になれることが嬉しくて更にご機嫌になった。
とはいえ、呪われた剣もピンからキリまであり、取得していることで戦況を大きく変えるようなものはちょっとやそっとじゃ解呪できない。
『レ、レイ、もしも熟練度を上げても、アタシ達に
『お試し、厳禁』
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは僅かにでも解呪されてしまうリスクがあるのなら、レイに
ただし、その声はシルバにしか届いていないので、シルバが代わりにレイに注意する。
「レイ、
『わかった~』
『今日ほどシルバが頼もしく思えた日はないわっ』
『命の恩人、感謝永遠に』
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュのシルバに対する忠誠心が強まった。
それ自体は良いことだから、シルバは下手にツッコまないでおくことにした。
食後の休憩が済んでから、シルバ達は今日もディオスに帰る時間が来るまではモンスターの卵の回収ミッションを再開する。
今日もシルバとエイル、アリエルとロウがそれぞれペアを組む。
そこに付いて行くB3-1の学生達は入れ替わることになった。
つまり、シルバとエイルが率いるのはヨーキとロック、メイ、ウォーガンになり、アリエルとロウが率いるのはサテラとソラ、リク、タオということだ。
空を飛べるシルバ達が大樹の探索を担い、アリエル達は引き続き大樹以外の場所の探索をする。
今日は馬車も使って移動することで時間を短縮できる。
遅くとも昼にはディオスに向けて帰還する予定なので、探索時間は2時間半である。
昨日と比べて1時間半も長く探索の時間を取れるのだから、なんとかシルバ達とアリエル達の両方でモンスターの卵を見つけて回収したいところだ。
アリエル達は昨日探した場所とシルバ達が探した場所以外の探索をしていたのだが、探索を任された辺りは草むらであり、少し地面を掘ればモンスターが卵を隠すには条件が整っていると言えよう。
ジェットは少しでもロウの役に立ちたくて、上空から草むらに何か隠れていないか探していた。
その途中で気になるものを見つけたようで、ジェットはロウの肩に止まって鳴く。
「キィ!」
「ん? どうしたジェット? 何か見つけたんだな?」
御者台にいたロウはジェットが見つけたものについて訊ねる。
「キィ、キィ!」
「赤でも黒でも銀でもないアント系モンスターが列を作って歩いてた? マジか。案内してくれ」
「キィ!」
任せろと頷いたジェットがロウの乗る馬車を先導した。
先程よりも速度が上がったため、馬車の中からアリエルがロウに声をかける。
「ロウ先輩、何かいたんですか?」
「虫型モンスターなのは残念だが、色付きじゃないアント系モンスターの群れを見つけたってジェットが言ってる。今はその群れを追跡してるところだ」
「うわぁ、また虫ですかぁ」
「アリエルさんや、虫という時に俺を見て強調するのは止めなされ」
ロウは自然な流れで自分を見て虫という単語を強調するアリエルにツッコんだ。
それに対してアリエルは笑顔で応じる。
「あっ、すみません。イェン会長との会話だとロウ先輩=虫がデフォルトなのでうっかりしてました」
「イェン、そろそろ俺のことを許してくれないかな。俺がいなくても虫って呼ぶのは酷くね?」
「ロウ先輩がシルバ君くらい真面目になれば良いんじゃないですか?」
「基準がシルバかぁ。難しいね」
シルバを基準にされてはなかなか真似できないとロウは苦笑した。
「ですよね。ロウ先輩がシルバ君みたいな感じになったら、クレアさんに何か変な薬を盛られたんだろうなって思います」
「・・・否定できねえ。じゃなくて、今はアント系モンスターだ。貴重な種類なら卵を回収する価値がある。いつでも戦える準備をしといてくれ」
「わかりました」
ロウが雑談を切り上げて本題に戻ったため、アリエルの顔つきも真剣なものに変わった。
馬車が進むにつれてロウの目にもアント系モンスターの姿が捉えられるようになった。
見た目だけならば鋼でコーティングされた感じがするが、シルバがこの場にいないのでモンスターに関する情報がない。
ロウは鋼のアント系モンスターが一列になって巣穴に戻っていることを知り、巣穴の位置が分かった時点でジェットにハンドサインを出した。
「キィ!」
ジェットがその群れを巻き込むようにして
空を飛べる訳ではないから、鋼のアント系モンスター達はじたばたしながら地面へと落下していく。
ある程度重くなければ、落下しただけでダメージが入らない恐れがある。
それゆえ、アリエルが
アリエルの攻撃が直撃すると、鋼でコーティングされていても分厚くなかったらしく、あっさりと撃ち抜かれてアント系モンスター達は撃墜された。
地面に落ちた時も落下音は金属が思い切り衝突したようなものではなかったことから、コーディングの下はスカスカだったに違いない。
馬車を停めて戦利品回収を始めたところ、サテラがアント系モンスターの死骸を叩いて気づいた。
「この死骸、私みたいな弓士の防具に使えたら嬉しいかも」
「あぁ、言われてみれば確かにそうですね。軽くて硬い素材で防具を作れれば少しでも安心できます」
サテラの言い分を聞いてタオも頷いた。
どちらも近接戦闘はほとんどせず、遠距離戦闘や支援がメインなので軽くて硬い防具があったら助かるのだ。
その一方、ソラとリクは首を横に振っていた。
「軽過ぎ。物足りない」
「安心感、ない」
この姉弟はある程度の重さがないと硬さに不安を感じるらしい。
実際、硬い素材で軽い物はなかなか存在しないから、近接戦闘メインのソラとリクが満足できる素材ではないだろう。
ちなみに、リトとジェットは鋼のアント系モンスターの魔石を欲しがらなかった。
それが意味することは、少なくともジェットとアリエルが倒したアント系モンスターはレッド級モンスター以下の強さだということだ。
1体あたりの強さがわかってしまえば、アリエルは大して警戒する必要もないと判断して<
卵があるエリアと何かしら貯め込んでいたエリアがあることを察知し、アリエルはそれらを先に地上に移動させた。
「積んであるものって砂金じゃないですか?」
タオがそう告げた後にロウが続く。
「シルバから事前に共有してもらったモンスターの情報を見返してたら、その特徴に該当するモンスターがいた。種族名はバイピリカ。砂金を集める習性があるけど強さはパープル級モンスター程度。鋼のコーティングは防具のコーティングに使うと軽いまま頑丈にできるってさ」
「シルバは本当に色々知ってるわね。知識の底が知れないわ」
サテラが改めてシルバの知識量に感心した。
「だってシルバ君だもの。強さを支えるだけの知識があって当然だよ。それはそれとして、卵も砂金も回収するよ。砂金を回収できるモンスターを使役できれば、この国の財源が増えることになるからね」
アリエル達はバイピリカの卵と砂金を回収した。
その途中でバイピリカの残党が地中から現れて襲い掛かって来たが、アリエル達はあっさりと倒したのでそれらも戦利品になった。
解体と回収に時間が思ったより時間がかかってしまい、アリエル達は探索を切り上げて拠点に戻った。
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