第227話 覗きは駄目! 絶対処刑!

 アリエル達がバイピリカの群れに遭遇した頃、シルバ達はマイルク台地中央にある大樹に到着していた。


「デカい樹だなー」


「大きい鳥型モンスターとかいそうじゃない?」


「虫型モンスターがいるかもよ」


「待て待て。植物型モンスターがいたっておかしくないだろ」


 場所を降りたヨーキ達は、大樹を見上げて各々感想を述べた。


「勝手にちょろちょろ動くなよー」


「子供か!」


「未成年ではあるよね」


 シルバが引率の先生のような発言をすれば、ヨーキが元気にツッコみを入れ、ロックが冷静に事実を述べた。


 ヨーキとロックと話をしているシルバに対し、何かを察知したレイが話しかける。


『ご主人』


「レイ、勿論わかってるよ。大樹から様子を伺ってる複数の気配があるんだろ?」


『気をつけないとヨーキ達が危ない』


「そうだな」


 レイは決してシルバとエイル、マリナが危ないとは言わなかった。


 今感じている気配を考慮すると、ワイバーン特別小隊に所属するシルバ達が遅れを取ることはなさそうだったからだ。


 ところが、踏んだ場数が違うからヨーキ達学生組は奇襲を受けたら、無事で済むかわからない。


 シルバ達が守るとはいえ、普段からずっと一緒に行動していないので咄嗟の動きが予想外な事態を引き起こさないとも限らないのである。


 奇襲しようとしていたが、自分達の存在を気取られていると知り、大樹からいくつもの影が蔓を伸ばしてシルバ達に向かって落ちて来る。


 その外見はウツボカズラによく似ているが、サイズが大人1人を丸呑みできるぐらいだ。


 それがいくつも大樹の枝から蔓を垂らして落ちて来れば、びっくりするのは間違いない。


「弍式光の型:光之太刀」


 シルバは焦ることなく手から光の刃を伸ばし、それを横薙ぎにすることで全ての敵の蔓を切断した。


 蔓から切り離されて地面に落ちてしまうと、袋状の植物型モンスターはみるみるうちに枯れた。


 枯れて萎んだそれは青々としていた時と比べて小さくなっていた。


「シルバ、今のはなんだったんだ?」


「ポットイーターだ。樹上から蔓を伸ばして落ちて来て、獲物を丸呑みにする植物型モンスターだよ」


「ほぇー、そんな奴までいるのか」


 ヨーキは自分の知らないモンスターの存在を知り、少々間抜けな顔を披露した。


「数としては少ないですが、ニュクスの森で発見されたケースもありますよ」


「そうなんですね。勉強不足ですみませんでした」


 エイルに優しく補足され、ヨーキはもっとモンスターについて勉強しようと決めた。


 クラスメイトにやれやれと言われるよりも、知り合いのお姉さんから優しく言われた方がやる気になるのは年頃の男の子だからだろう。


 お勉強の時間が終わってから、シルバ達はポットイーターの解体を済ませた。


 魔石を回収したものの、レイもマリナもポットイーターの魔石は欲しがらなかった。


 強い個体でもレッド級モンスターの領域から出ないからだ。


 魔石の他に使える部位だけ回収したら、シルバは大樹を警戒していたレイに話しかける。


「まだ様子を見てる奴がいるっぽいな」


『うん。やり過ごそうとしてるみたいだよ』


 シルバもレイも大樹に残っている気配を見逃さない。


「チュルル」


「マリナ、大樹にまだ何かいるんですね?」


「チュル」


 マリナも大樹に隠れている存在が発する熱を感知し、警戒を解かずに迎撃体勢である。


 エイルはマリナが一点を見たままだから、マリナが潜んでいる敵の位置を把握しているのだと判断した。


「マリナ、倒せるなら倒してしまっても構いませんよ」


「チュル!」


 マリナはエイルから許可を得たので、敵がいる位置を狙って水槍ウォーターランスを放った。


マリナの攻撃にびっくりしてしまい、隠れていたそれは枝から枝に飛び移った。


「へぇ、ハイドエイプじゃん」


「知ってるのかロック」


「村の近くにある森にもいたんだ。村では出歯亀エイプって呼ばれてたな」


「出歯亀エイプ?」


 ロックがハイドエイプを別称で呼んでいた理由が気になり、ヨーキが首を傾げた。


「村で見た奴はさ、川で女が水浴びすると毎回覗きに来たんだ」


「なるほど。そりゃ立派な出歯亀エイプだわ。そいつはどうなったんだ?」


「村一番の怪力で知られる女の子の投石で倒された。眉間に一発当てられたんだ。でも、力尽きたそいつの顔はどこか満ち足りた感じだったっけ」


「悔いはないってか。出歯亀エイプのくせに生意気だ」


 そんなロックとヨーキの話を聞き、メイがムッとした様子で背負った戦槌ウォーハンマーで大樹を殴る。


「覗きは駄目! 絶対処刑!」


 ドシンと音が響くぐらい大きな衝撃が生じ、枝に掴まっていたハイドエイプはそのせいで枝から手が滑って落ちた。


「ウキッ?」


「チュル!」


 マリナが水槍ウォーターランスから水刃ウォーターエッジに技を切り替えて放てば、空中で身動きの取れないハイドエイプの頭と胴体が離れ離れになった。


 ハイドエイプの死体を見て、メイはやり遂げた表情になった。


「悪は滅びた」


「あいつも覗き魔だとは限らないんだけどなぁ」


「なんか悪いことをしたかも」


「従魔にできない以上、倒すしかないんだから別に良いだろ」


 メイの発言に対してヨーキとロックは同情的だったけれど、ウォーガンはバッサリと切り捨てた。


 その横でエイルはマリナの頭を撫で、それからハイドエイプの魔石を与える。


「マリナは良い子ですね。女の敵を排除してくれたんですから。魔石をあげましょうね」


「チュルン♪」


 エイルに褒められたことで、マリナはご機嫌な様子で魔石を飲み込んだ。


 どうやら、メイとマリナが力を合わせて倒した個体の魔石はギリギリブラック級モンスターと同等だったらしい。


 (強い奴の方が敵の力量を見分けられるもんな)


 シルバはそのように考えていたから、ハイドエイプの魔石がマリナを強化するだけの価値があったと理解できた。


「エイルとマリナ、悪いけどヨーキ達を見ててくれ。直感だけど、上の方に何かがある気がする」


「わかりました。地上のことは任せて下さい」


「ありがとう。行こう、レイ」


『うん!』


 レイはシルバを乗せられるサイズになってから、彼を乗せて大樹の上部に連れて行った。


 その結果、大樹の上部にはシルバの直感が当たってお目当ての物があった。


 鳥型モンスターの巣と卵である。


『流石ご主人! 卵だよ!』


「偶然だよ。親は不在らしいな。それと、卵の種類が違うのはなんでだ?」


『ご主人でも理由はわからないの?』


「俺だってなんでもは知らないのさ」


 レイの中でシルバは至高の主人だ。


 そんなシルバに知らないことはないんじゃと思うのはレイが期待し過ぎと言えよう。


 シルバは苦笑しながらレイの頭を撫でつつ、卵の親であろう鳥型モンスターについて頭を回転させていた。


 卵の種類が2種類だけだったなら、通常種と希少種であると考えられた。


 しかし、実際には3種類の卵があった。


 これにはシルバが困ってしまうのも無理もない。


 とりあえず、卵は回収しようと思ったその時、シルバとレイは接近して来る気配に気づいた。


「ガァァァァァ!」


 自分の巣に何してくれたんじゃワレェと言わんばかりに鳴くそれは、銀色に輝く巨大なカラスだった。


「シルバーレイヴンか。また別の卵を巣に持ち帰って来てるってことは、あちこち飛び回って卵を盗んでるらしいな」


『泥棒にキレられる理由はないよ!』


 レイはムッとして光弾ライトバレットを放った。


 その速度は想定以上だったらしく、シルバーレイヴンは慌てて射線から身を捻って躱す。


 シルバはその隙を見逃さず、レイの背中から跳躍して空を駆け、シルバーレイヴンと一気に距離を詰める。


「壱式雷の型:紫電拳」


「ガァァ!?」


 シルバの雷を纏った拳がシルバーレイヴンの胴体に決まった。


 痺れと殴られた痛みのダブルパンチにより、シルバーレイヴンは地面に向かって落下する。


『落とさせないよ!』


 レイが足でしっかりとキャッチしたため、シルバーレイヴンが盗んで来た卵は無事だった。


 落下するシルバーレイヴンはシルバが空を駆けて掴み、落下の衝撃を極力殺してから地面に置いた。


「マジかよ。シルバーレイヴンすらあっさり倒しちまった」


「「「さすシルさすレイ!」」」


 ヨーキ達は既に力尽きているシルバーレイヴンを見て、シルバとレイの強さを改めて思い知った。


 それから、シルバとレイが協力してシルバーレイヴンの巣にあった卵全てを回収した。

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