第228話 手負いの敵を放置して苦しめる趣味はない

 回収作業が終わった後、シルバはシルバーレイヴンの魔石をレイに与える。


「レイ、魔石だぞ」


『いただきま~す』


 レイはパクッと魔石を一飲みにした。


 自分の体から力が漲るのを感じ、それによってレイは新たなスキルを会得できたことを知る。


『ご主人、<道具箱アイテムボックス>を会得したよ!』


「<道具箱アイテムボックス>? どんな効果なんだ?」


『実演するね』


 そう言ってレイは得意気に回収した4つの卵を亜空間にしまってみせた。


「マジか。持ち運びが便利になるじゃん。すごいぞレイ」


『エヘヘ。生物以外なら亜空間にしまい込めるよ。卵は生物判定されなかったから入れられたの』


「そうなのか。でも、亜空間の中で卵が孵ったらどうなるんだ? 生物はしまえないから、亜空間から締め出されるのか?」


『亜空間の中は時間の流れが止まってるから大丈夫なんだよ』


「何それすごい」


『ドヤァ』


 実際、レイがドヤ顔になるだけの効果はある。


 何故なら、暑い日のためにキンキンに冷えた飲み物を亜空間に入れておいてもらえば、レイがいる限りどこでも冷えた状態の飲み物を飲める。


 出来立ての料理をミッション中に食べたい時も、レイがいれば携帯食料に頼らずに済む。


 収納できる量にもよるけれど、この隙るさえあれば身軽に行動できるのは間違いない。


 <道具箱アイテムボックス>は常識を変えるすごいものだと言えよう。


「チュルル・・・」


「大丈夫ですよ。マリナはいつも私を助けてくれてます。そんなに落ち込まないで下さい。マリナにはマリナの良さがあるんですから」


 マリナはレイがまたとんでもないスキルを手に入れたため、どうしてこんなに差が広がるんだと落ち込んでしまった。


 エイルはマリナのおかげで守りの面で助かっていると思っているから、その気持ちを込めてマリナの頭を優しく撫でた。


 その時、南の空から怒り狂った鳴き声が聞こえる。


「ガァァァァァァァァァァ!」


「まさか、さっき倒した奴のつがいですか?」


「だろうな。ここで解体したから血の跡も残ってる。間違いなく俺達を狙ってるぞ」


 現れたのは激昂したシルバーレイヴンだった。


 その足にはどこかから盗んで来た卵があり、夫婦揃って他のモンスターの卵を盗んでいたことが明らかになった。


 卵を巣の中に置きたいが、置いて戦えば隙を見て盗まれる可能性がある。


 だが、盗まれても盗んだ相手を仕留めれば良いと思ったらしく、巣に卵を置いてから地上に向かって嵐刃ストームエッジを連射し始める。


「レイ!」


『うん!』


 レイは名前を呼ばれただけでシルバの意図を読み取り、反射領域リフレクトフィールドを展開する。


 それにより、シルバーレイヴンの攻撃は全て反射された。


「ガァァ!?」


 自分の攻撃が反射されるとは思っていなかったようで、シルバーレイヴンは射線から外れるようにくねくねと飛んで躱した。


 自身の攻撃が反射されたとわかれば、シルバーレイヴンが迂闊に同じことを繰り返すことはない。


 シルバー級モンスターがそんな馬鹿な真似をするなんてことはないのだ。


 遠距離攻撃が反射されてしまうなら、近距離攻撃主体の先頭に切り替えれば良いと判断し、シルバーレイヴンは風鎧ウインドアーマーで自分の防御力を上げる。


 準備が整えてすぐにシルバ達に向かって急降下し始めた。


 シルバーレイヴン自体が大きく、風鎧ウインドアーマーで防御力を上げているから普通にぶつかればただでは済まない。


 だからこそ、シルバが自分達に影響が出る前に迎撃する。


「壱式光の型:光線拳」


「ガッ!?」


 シルバの攻撃を真正面から受け、シルバーレイヴンが上空に弾き飛ばされた。


 風鎧ウインドアーマーで防御力を高めており、落下エネルギーを衝突する際の威力に上乗せしていたこともあって、シルバーレイヴンはまだ戦える力が残っていた。


 それでも、風鎧ウインドアーマーは消滅していてシルバーレイヴンの表情に焦りが見られることから、風鎧ウインドアーマーがなかったら勝負は決まっていたのだろう。


「ガァ!」


 シルバーレイヴンは再び風鎧ウインドアーマーを発動した後、ある程度高度を上げてから再度急降下し始める。


 もっとも、同じことを繰り返しても結果は変わらないとわかっているので、シルバーレイヴンは体を横回転させることで威力を高める作戦に出た。


 その状態で鋭い嘴が命中すれば、ドリルに削られるような結果を齎すに違いない。


 素手では若干の不安があったから、シルバはベルトから熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを取り出して装着する。


『出番なのよっ』


『出番、多い。満足』


 熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュは自分達を使ってもらえると喜び、シルバの頭に直接弾んだ声を届けた。


 シルバはそれらの声を受けつつ、続けて準備を行う。


「レイ、風付与ウインドエンチャントを頼む」


『うん!』


 レイがリクエスト通りに風付与ウインドエンチャントをかければ、シルバの準備は整った。


「肆式風の型:嵐濫乱世!」


 敵が攻撃の質を高めるのなら、自分は質も量も増やして迎撃する。


 それがシルバの対策だった。


 シルバが集中してシルバーレイヴンの嘴を何度も狙って攻撃することにより、シルバーレイヴンの風鎧ウインドアーマーが破れて嘴が砕けた。


「ガァァァァァァァァァァ!」


 シルバの猛攻で嘴を砕かれてしまい、シルバーレイヴンは絶叫して大樹に突っ込んだ。


 痛みを誤魔化そうと暴れたのである。


 シルバーレイヴンの巨体がぶつかる度に大樹が揺れ、葉がどんどん落ちていく。


「手負いの敵を放置して苦しめる趣味はない。弐式:無刀刃」


 <付与術エンチャント>を用いなくとも倒せると判断し、シルバは基礎の型で暴れるシルバーレイヴンの首を刎ねた。


 力尽きたシルバーレイヴンの体は血液が蒸発してカサカサに乾燥しており、解体は手早く済んだ。


「レイ、こっちおいで」


『うん』


 シルバに手招きされて近寄れば、レイはシルバーレイヴンの魔石を与えてもらった。


 連続して新しいスキルや魔法を会得できなかったようだが、そうだとしてもレイから感じられる力は強まった。


「シルバ、お疲れ様でした」


「ありがとう。エイル達を無事に守れて良かったよ」


「シルバの後ろにいたんです。警戒はしてましたけど、それと同じぐらい安心感がありました」


「そりゃ良かった」


 大切な婚約者に頼られてシルバが悪い気分になるなんてことはあり得ない。


 優しく笑うエイルにシルバも笑って応じた。


 それはさておき、3体目のシルバーレイヴンが現れることもなかったため、シルバとレイは巣から卵を回収した。


 2体のシルバーレイヴンと戦い、モンスターの卵を5種類も確保できたことはシルバ達にとってありがたいことだった。


 いずれの卵もシルバ達が今まで回収したことのないものだったため、ディオスの基地に戻れば研究部門の者達がきっと小躍りすることだろう。


 時間が来たので拠点に戻ると、ロウがシルバ達の様子を見てニヤリと笑う。


「おや、珍しいな。シルバ達は空振りだなんて。こっちはバイピリカの卵と砂金を手に入れたぞ」


 今回は自分達が飼っただろうと自信に満ちた表情のロウに対し、シルバはニッコリと笑いかける。


「一体いつ空振りだと言いましたか? レイ、よろしく」


『は~い』


 シルバに言われてレイが<道具箱アイテムボックス>を発動した。


 亜空間から5つの卵とシルバーレイヴンの死体を見せたところ、ロウが口をポカンと開けたまま動かなくなった。


「シルバ君、しれっとレイが亜空間から卵を取り出したんだけど」


「あぁ、それは<道具箱アイテムボックス>ってスキルだ。シルバーレイヴンの魔石を与えた時に会得した」


 そのままシルバから<道具箱アイテムボックス>の効果を聞くと、別行動していたアリエル達とポールの顔が引き攣った。


「そんなスキルがあるなら物流に革命が起きるね」


「シルバが座天使級ソロネで良かった。階級が低かったら、シルバを利用しようとする者が続出したぞ」


「そうですよね。まあ、僕がいる限りシルバ君を便利に使おうなんて考えを起こさせませんけど」


 ポールの発言を受けてアリエルは頷きつつ、サラッと頼もしいことを言った。


 そこに学習しないお馬鹿なクラスメイト達が乗っかる。


「アリエルに逆らったら無事じゃ済まないよな」


「私知ってる。こういうのを黒幕って言うんだよね」


「そっかぁ。じゃあ黒幕らしくヨーキとメイに表舞台から退場してもらおうかなぁ」


「「ごめんなさい!」」


 目の笑っていない笑みを浮かべたアリエルを見て、ヨーキもメイも即座に謝った。


 昼食はシルバ達が倒したシルバーレイヴンの肉を使って作り、食後の休憩時間を終えて拠点の後始末をした後、シルバ達はディオスに向かって出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る