第224話 使える物はなんでも使うのね

 目的地のマイルク台地に到着したのは夕方だった。


 ワイバーン特別小隊だけで向かえば昼には到着できたのだが、B3-1の学生達を連れて行くと行軍速度が落ちてしまうので仕方あるまい。


 日が沈むまでまだ時間があったので、探索よりも先に野営する拠点の設置作業を始めた。


 拠点さえ作ってしまえば、馬車を牽いて来た馬をそこに残して休ませることができる。


 テントをサクサク立てた後、ロウが腰に両手を当てて胸を張る。


「諸君、これから重要な探索に移る。もしも食べられるモンスターがいなかった場合、我々の食事は貧相な物になってしまうと覚悟せよ」


「「な、なんだって~!?」」


「「本気出す」」


 ロウの発言にヨーキとメイ、ソラ、リクがそれは大変だと慌てた。


 無駄にクラスメイトを慌てさせ、その反応を見て楽しんでいるロウに対してアリエルがスッとロウの背後に立つ。


「何やってるんですかロウ先輩。いくらヨーキ達のリアクションが面白そうだからって、わざと不安にさせるようなことを言わないで下さい。クレアさんにロウ先輩が後輩の女子学生を虐めて楽しんでたって報告しますよ?」


「待て、早まるんじゃない。こんなのちょっとしたジョークじゃないか。大体、リアクションが一番面白いのはヨーキだから、女子学生のリアクションだけを見てる訳じゃない」


「言い訳する前に食材となるモンスターを探しましょうね。シルバ君を見て下さい。もう既にレッドブルを1頭仕留めてますよ」


「えっ、早過ぎじゃね?」


 アリエルが指し示した方向を見れば、シルバがレッドブルを仕留めて戻って来たところだったのでロウが目を丸くした。


「安心して下さい。今日の夜飯ですけど、俺が狩ったこいつとレイが運んでくる奴で全員分を賄えそうです」


「レッドブル2頭ってどう考えても余るでしょ。なんで足りないかもなんて雰囲気出してるんだ?」


「ロウ先輩、ヨーキとソラ、リクはよく食べるんです。育ち盛りの食欲を舐めないで下さい」


「あっ、はい」


 傍から見ればロウの方が常識的な考え方をしていたけれど、シルバの発言には有無を言わせない圧力が感じられてロウは言われるがままに頷いた。


 そこにポールがやって来て口を挟む。


「シルバ、日が暮れるまでに探索をするんだろ? だったら、俺がレッドブルを見とくから二手に分かれるなりして探索して来いよ」


「そうですね。じゃあ、アリエルはロウ先輩と一緒の組で頼む。俺はエイルと組むから」


 シルバが小隊メンバーの組み分けを提示すると、アリエルが不満を口にする。


「えぇ、またロウ先輩と組むのー? 僕もシルバ君と一緒に行動したい」


「アリエルさんや、俺がいる前でそんなに嫌がらないでおくれ」


「僕だってシルバ君ともっと一緒にいたいのに」


「あれ? 俺の声が聞こえてないのかな?」


「そう言うなって。アリエルが小隊の中では俺の次に強いんだから、二手に分かれる時は俺とアリエルが分かれた方が戦力的に偏らないんだ」


「シルバまで俺のことを無視する・・・だと・・・」


 アリエルどころかシルバまで自分のことを無視するので、ロウは膝から崩れ落ちた。


「何やってるんですか、ロウ先輩。仕方なく僕がペアを組んであげますから、クラスメイト達を連れて探索に行きますよ」


「一言多くて素直に感謝できねえ」


 そんなやり取りをしている内に、B3-1の学生達も4人ずつに分かれた。


 シルバとエイルが率いるのはサテラとソラ、リク、タオだ。


 アリエルとロウが率いるのはヨーキとロック、メイ、ウォーガンである。


「それじゃ、日が暮れるまでにモンスターの卵を1個は確保することを目標に動こう。1時間後にこの拠点に集合だ」


「了解」


 シルバとアリエルが手短に打ち合わせを済ませ、シルバ組とアリエル組がモンスターの卵を見つけるべく探索を始めた。


 明日の方が探索に時間を割けるため、今日の探索は下見のようなものだ。


 マイルク台地は基本的に隠れられる場所がなく、中心に大樹がある以外は木がポツポツとある程度である。


 視界が良好ということは、シルバ達がモンスターを簡単に見つけられることを意味する。


 もっとも、それはモンスター達もシルバ達を簡単に見つけられることを意味するのだが。


「みんな注意して。前方にピアレイがいる」


 シルバがクラスメイト達に注意を促せば、目が良いサテラがシルバに訊ねる。


「ピアレイってあのもじゃもじゃした葉っぱに覆われてるモンスターのこと? あれって木じゃないの?」


「違う。あいつは木に擬態して油断させる個体らしいな。ピアレイがいる場所の近くには水場があるはずだ。ピアレイを仕留めるついでに水場も探索しよう」


「チュルン♪」


 シルバの発言を受け、水場が近いなら自分の出番だとマリナがやる気を出す。


「マリナ、ピアレイを倒せますか?」


「チュル」


「わかりました。気を付けて倒すんですよ」


「チュル」


 マリナはなるべく音を出さずにピアレイの近くまで這って移動し、射程圏内に入ったら水牢ウォータージェイルを発動した。


 それにより、水の球体がピアレイの頭部だけをすっぽりと包み込み、息ができなくなったピアレイはじたばたする。


 ところが、じたばたするだけではマリナにダメージを与えることもできないし、マリナの集中力を削ぐこともできない。


 1分経たない内にピアレイの体が脱力し、その場に倒れて動かなくなった。


「すごい。これがレイクサーペントの実力なのね」


「やりよる」


「衝撃」


「エイルさん、私にもピアレイの葉を少し分けていただけないでしょうか? あれって薬品の素材になりますよね?」


 サテラとソラ、リクがマリナの実力に驚いている一方で、タオはピアレイの体を覆う葉が薬品の素材になると見抜いてエイルにお願いしていた。


「構いませんよ。私が使う分とシルバ、アリエルの調合に使う分を除いてもまだ余るでしょうから」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 エイルにピアレイの葉を分けてもらえることになり、タオが普段からは考えられないぐらいハイテンションになった。


 ピアレイの葉を全て毟ったところ、その体は心臓部に魔石の埋め込まれた案山子だった。


 魔石をマリナに与えようとエイルが抜き取ると、案山子の体はおがくずになって崩れ落ちてしまった。


「着火するのに使えそうだから、このおがくずも回収しよう」


「使える物はなんでも使うのね」


「その通りだよ、サテラ。持参する荷物を最小限にしたのなら、現地調達できる者でやりくりしないといけないからな」


「勉強になるわ」


 サテラは他のクラスメイト達に比べ、フィールドワークやミッションに精力的に参加したつもりだ。


 それでも、自分が積んで来た経験ではまだまだ足りず、シルバが積んだ経験には全然敵わないのだと悟った。


 だからこそ、この見学でシルバ達から学べることは少しでも多く吸収しようとしている。


 ピアレイの解体を済ませた後、シルバ達はピアレイがいた近くにあった池を調べることにした。


 池の中には複数の水草が生えているだけでなく、蟇蛙が泳いでいた。


 ただし、その蟇蛙は普通の蟇蛙よりもサイズが大きく、蝙蝠の翼と尻尾を生やしているのでモンスターだろう。


 (確か、ウォーターリーパーだったはず)


 異界で遭遇したことはなかったけれど、マリアから聞いた話と特徴がそっくりだったこともあり、シルバは池の中にいるモンスターがウォーターリーパーだと判断できた。


『ご主人、池の中に卵があるよ。それと、ウォーターリーパーの幼生もいる」


「・・・確かにあるな。よし、俺がウォーターリーパーの気を引き付けるから、エイルはマリナに卵を回収させてくれ」


「わかりました。マリナ、やれますね?」


「チュルン♪」


 シルバから大事な役割を任されたエイルは、マリナならきっとできると信じてウォーターリーパーの卵を回収させる。


「參式光の型:仏光陣」


 シルバの背後から現れた仏像が光を放ち、その光が眩し過ぎてウォーターリーパーとその幼体の目がやられてしまった。


 結果として、ウォーターリーパーとおたまじゃくしによく似た幼生体達が水面に力なく浮かび上がって来た。


「チュル!」


 その隙にウォーターリーパーの卵を回収したぞとマリナがアピールしたため、シルバは攻撃を開始する。


「壱式雷の型:紫電拳」


 シルバが池の水面を殴れば、水を伝ってウォーターリーパー達が感電して力尽きた。


 池の中にはウォーターリーパー以外もおり、それらを回収したところで1時間が経ちそうだから、シルバ達は拠点に戻った。

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