第239話 やったわ! これでディオニシウス家御用達商会の地位に向けて一歩前進ね!
最終的に全員がレイの<
「割災は国内の4ヶ所で同時に発生したそうだ。その内の1つがここで、それ以外はアーブラとジェロス、トフェレらしい」
「今回はディオスで被害がないみたいだね。折角買った家が壊れる心配がなくて良かったよ」
「そうですね。帰って来たら家が壊れてたなんて展開は嫌です」
「それは同感。俺的にはジェロスが滅ぶんじゃねって思ったんだけど、被害状況はどうなんだ?」
ロウはディオスが無事なのは良いことだが、ジェロスは街の中の膿を出し切るので手一杯な状況だから、割災が起きるとキツいのではとシルバに訊ねた。
「ロウ先輩の予想通りです。現在、キマイラ中隊が応援に向かってるそうです」
「なるほど。だったら被害は最小限に留まりそうだ」
最近では混乱剣アカ・マナフも上手く使いこなせており、シルバー級モンスターも安定して倒せるようになったから、ソッド達がやられる可能性は限りなく低いと見ている。
「シルバ君、陛下から僕達に追加ミッションはあるのかな?」
「いや、特にない。希望剣アルマの報告をしてあるから、いち早く帰還してくれってさ。あの剣がこの国に齎す利益を失うリスクは減らしたいのもそうだけど、俺達が働き過ぎると他の軍人達の功績を奪っちゃうから、どこにも立ち寄らずに帰還してほしいそうだ」
「やれやれ。僕達がいない時しか活躍できないなんて情けないね」
「まあまあ。じゃあ、そろそろ出発するぞ」
アリエルが困った味方だと言わんばかりに首を振るものだから、シルバは苦笑しながらそれを宥めて出発を宣言した。
アリエル達が馬車の中に入ったのを確認してから、レイがシルバを背中に乗せて馬車を足で掴む。
そのまま飛び立ち、シルバ達はディオスへと向かった。
アーブラとディオスの間の街道を移動する頃、レイの背中の上からシルバは地上で石像のモンスターの群れから逃げている馬車を見つけた。
その馬車には見覚えのあるブランドマークがあった。
(あれってJ&S商会の馬車じゃね? ガーゴイルに襲われてるじゃん)
J&S商会とはシルバと同学年のジーナとサリーが共同代表を務める商会だ。
学生が共同代表にもかかわらず、シルバの力も借りて人気商品を売り出すこの商会はディオスやその周辺の街でも注目を浴びている。
友人の商会の馬車が襲われているのを見つければ、それを放置するなんてことはあり得ない。
ましてや、馬車を追いかけるモンスターがガーゴイル率いるガーゴイルサーヴァントの群れなのだから、それらをディオスに連れ込ませる訳にはいかないだろう。
「レイ、着陸して戦闘だ。俺は先に行ってガーゴイルを仕留める」
『は~い』
シルバはレイに指示を出した後、熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを装備しながら空を駆け、先頭を進むガーゴイルと馬車の間に割り込んでから攻撃を仕掛ける。
「肆式火の型:
炎を纏った拳でラッシュを放てば、ガーゴイルの体に蜂の巣のような穴が空いた。
それだけでは留まらず、時間差でガーゴイルの体が打ち上げ花火のような音を出しながら爆発する。
熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュを使った攻撃でもあるため、熱と乾燥もガーゴイルの体を蝕んだことが影響して爆発の勢いを強めた。
ガーゴイルが爆散したことで、その背中に追従していたガーゴイルサーヴァントの群れの動きが停止する。
自分達を率いていた存在が消えたことにより、次にどうすればいいか自分達で考える必要が生じたからだ。
その時には着陸した馬車からアリエル達も出て来ており、ガーゴイルサーヴァント達に攻撃を仕掛け始める。
「串刺しにしてあげる」
アリエルがガーゴイルサーヴァントの群れ全体を効果範囲に設定し、
「ピヨ!」
リトが
「俺もやるか。ジェット、これを頼む」
ロウはジェットに薬品の入った皮袋を持たせ、ガーゴイルサーヴァント達の頭上でそれを落とさせる。
「キィ!」
ジェットが
薬品がかかった瞬間、ガーゴイルサーヴァントの群れ全体が熔け始めた。
ロウがジェットに割らせたフラスコに入っていたのは、クレア謹製メルトポーションである。
金属や岩石だけを熔かす薬品であり、瓦礫で道を防がれた時にも使えるからとクレアがロウに持たせた逸品だ。
ガーゴイルサーヴァントの体は石で構成されており、メルトポーションで体が熔けたということだ。
「マリナ、お願いしますね」
「チュル!」
エイルに頼まれたマリナは
シルバが参戦しなかったとしても、アリエル達は抜群のチームワークで勝利を掴んだ。
ガーゴイルもガーゴイルサーヴァントの群れも倒されたため、レイの近くに停められていたJ&S商会の馬車からジーナが飛び出してシルバに駆け寄って抱き着く。
「シルバ、ありがとう! 今回ばかりはもう駄目かと思った!」
「ジーナが乗ってたのか。無事で良かった」
余程怖かったらしく、ジーナの目には涙が見えた。
体も震えていたため、シルバはジーナが落ち着くまでその背中を優しく叩いて安心させた。
アリエルとエイルは自分達の前でシルバに抱き着くジーナに思うところはあったけれど、護衛もいないまま馬車でガーゴイル達から逃げていたジーナに同情して今だけはシルバの胸を貸してあげた。
落ち着いたジーナはシルバから離れ、改めて頭を下げた。
「シルバ、それに皆さんも助けて下さってありがとうございました」
「助けられたのは偶然だけどな。それよりも護衛はどうした? 御者が軍人ってことも普通じゃ考えられない。何事だ?」
「シルバ達なら話しても良いって言われてるから言うけど、口外厳禁だから気を付けてね。実は、ロザリー殿下からのご指名でシルバにこれを届ける依頼を受けてたの」
そう言ってジーナが鞄から取り出したのは、布に包まれた銀色の球体だ。
布を取り外してみたところ、モンスターの魔石にそっくりな色をした水晶玉サイズの何かだった。
「これは何?」
「過去にジェロスの闇オークションで競り落とした魔石の塊だって聞いたわ。今の技術では再現できないらしいんだけど、大量のモンスターの魔石を圧縮させたものなんだって。ロザリー殿下からレイちゃんにあげてねって伝言を頼まれたの」
『ご主人、レイ、これ欲しい』
レイはシルバがジーナから受け取った魔石の塊から目を離さずにそう言った。
チラッと周囲を見てみれば、リトとマリナ、ジェットも魔石の塊をじっと見ている。
「もしかして、さっきガーゴイル達に襲われてたのってこの魔石の塊が原因なんじゃね?」
「そうだと思う。ロザリー殿下からの依頼とあっては断れなかったけど、本当に怖かったわ。護衛の人達が割災が起きたアーブラで足止めしてくれたんだけど、それでもガーゴイル達に追われたんだもの」
ジーナの話を聞き、シルバはロザリーに掲示板のチャットを使って魔石の塊を受け取ったことを伝えた。
ジーナが大変な目に遭ったことも添えると、ロザリーはレイの強化のためにジーナに託したのであって、ジーナをモンスターに襲わせるために託したんじゃないと長文で弁明した。
シルバも魔石の塊を貰えたこと自体は嬉しかったので、お礼を述べた上で次からは託したことによる影響も考えてねとやんわり注意した。
ロザリーはジーナに悪いことをしたと反省し、今度埋め合わせをすると伝えてほしいと言って連絡を終えた。
アーブラでは異界に続く穴から出て来るモンスターの数が多く、まだその処理で忙しいようだ。
「ロザリーお姉ちゃんがジーナに今度埋め合わせをするってさ」
「やったわ! これでディオニシウス家御用達商会の地位に向けて一歩前進ね!」
(流石ジーナ。相変わらず商魂たくましいね)
急に元気になったジーナを見て、これでこそジーナだと感心した。
それから、これ以上は待てないと言わんばかりに頬ずりするので、シルバは魔石の塊をレイに与えることにした。
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