第240話 それができたら世界が変わるぞ
シルバは早くちょうだいと急かすアリエルに魔石の塊を与える。
「待たせて悪かったな。レイ、おあがり」
『いただきま~す』
大きくなってから魔石の塊を飲み込むと、レイの体が内側から光を放つ。
見た目こそ変わらないものの、レイから感じられる力が強まったことは明らかである。
『ご主人、<
「遂にブレスを吐けるようになったのか! レイ、おめでとう!」
甘えるレイの頭をシルバはわしゃわしゃと撫でた。
<
一般的にブレスの属性は固定されており、その属性が頭に付くブレスがスキル名になるのだが、レイの場合は2属性を使い分けられるからスキル名が変わった。
「レイ、ガーゴイルの魔石もあったな。これもおあがり」
『わ~い』
ガーゴイルの魔石をゴクリと飲み込んだ後、レイは<
レイが自分から何も言わなかったから、今回は魔法やスキルを取得できなかったのかと思ったが、シルバは念のために訊ねてみる。
「流石に今回は何も会得できなかったかな?」
『そんなことないよ。<
「マジか。容量はどれぐらい増えた?」
「<
「すごいな。レイはどんどん頼もしくなるね」
『ドヤァ』
シルバはドヤ顔のレイの頭を優しく撫でた。
レイがシルバに頭を撫でられてご満悦な頃、アリエル達もそれぞれの従魔にガーゴイルサーヴァント達の魔石を与えていた。
魔石の質からして、ガーゴイルサーヴァント達の魔石はブラック級モンスターのものに相当するらしく、それを一気に複数貰えればリト達は大喜びだった。
ちなみに、ガーゴイルの魔石はシルバー級モンスターのものに相当し、国内の北西端の森近辺で遭遇したアンピプテラの魔石も同程度の質だ。
レイ曰く、魔石の塊はシルバー級モンスター5体分の魔石に相当するとのことだから、このままでは遠くない内にレイはシルバー級モンスターの魔石でも満足できなくなるだろう。
従魔組の強化が終わったら、シルバ達はジーナの馬車を護衛しながらディオスに戻った。
ここでジーナを置いていくのは薄情と言われてもおかしくないので、ジーナをJ&S商会まで護衛した。
店でジーナの帰りを待っていた
ジーナと別れて登城した時にはすっかり夜になっていたが、アルケイデスに渡す物がある上にそれを後回しにするのは不味いから休まず登城した。
アルケイデスはシルバ達が疲れているだろうと思っていたため、シルバ達を通した応接室に茶菓子を用意してくれていた。
難易度の高いミッションをこなし、その帰りにシルバー級モンスター2体とブラック級モンスター10体以上を倒してくれたから、アルケイデスも細やかながらシルバを労おうと思ったのである。
マジフォンの掲示板を通じたチャットで簡潔な報告は済ませていたが、シルバから改めて報告を受けたアルケイデスは受け取った希望剣アルマを見て驚いていた。
「この剣が背教剣タローマティだったとはな。シルバ達が嘘を言ってるとは思わないが、邪悪な気配が欠片も感じられない。
「背教剣タローマティが絶叫するぐらいには強烈でしたね」
「呪われた剣が絶叫するのか。それはまた煩そうだ」
『本当に煩かったよ。滅多に怒らないエイルが怒ってたもん』
「ほう」
アルケイデスはエイルを見てそうだったのかと意外そうな表情をした。
エイルは温厚であり、アリエルとは違う意味でシルバの精神的支柱になってくれる女性というのがアルケイデスの認識だったから、背教剣タローマティの絶叫が本当に煩かったのだろうと彼は判断した。
「あっ、忘れてました。まだ渡す物がありました。レイ、催眠剣アンラ・マンユの成れの果てを出して」
『わかった~』
レイは<
「これが催眠剣アンラ・マンユだったものか。これも呪いが全く感じられないな」
「こっちは俺だけの
「それもすごい話だ。魂約だなんて禁書庫のどの本にも記されてなかったぞ。シルバ、体調に問題はないんだよな?」
「今のところ問題ありません。強いて言うならば、火属性の適性が急激に上がったせいで【村雨流格闘術】の火の型の加減が大雑把になってしまったぐらいですかね。こちらは体が慣れれば調整できるようですが」
催眠剣アンラ・マンユの怨念が熱尖拳タルウィと渇尖拳ザリチュに吸収されて強化されたと聞けば、アルケイデスはシルバの体に異変があってもおかしくないと思った。
それを心配して訊ねたが、シルバの回答を聞いて問題はなさそうだとホッとした。
「シルバに問題がなければ構わない。それにしても、姉貴が闇オークションで魔石の塊なんて競り落としてたんだって?」
「そうらしいですね。今はレイが飲み込んでしまいましたが、大量の魔石を圧縮した物だと聞きました。レイが実際に<
「魔石はモンスターを強化するから、J&S商会の共同代表が魔石の塊を狙ったモンスターに狙われた訳か」
「そのようですね。魔石の塊の存在を知って個人的には魔石の圧縮に興味が湧きました」
「どんなところに興味があるんだ?」
シルバは
それゆえ、アルケイデスはシルバが興味を持った内容によってはまた学問が発展するのではと期待して訊ねたのだ。
「魔石の塊の性質ですね。作る技術が失われてしまったようですが、それを再現できれば大きく分けて3つのメリットが生じます」
「3つか。1つ目は新たな動力源の確保だよな?」
「その通りです。等級が低いモンスターの魔石だったとしても、かき集めて圧縮すれば動力源になり得るでしょう」
現在、パープル級モンスター以上のモンスターの魔石は一般的な
マジフォンもそういったものに含まれ、今のシルバ達のマジフォンにはレッド級モンスターの魔石が組み込まれた魔力回路を搭載している。
話は脱線してしまったが、パープル級モンスター未満の魔石を圧縮してパープル級モンスターと同等の魔石の塊にできるならば、今までは使い道の限られていた魔石の使い道が増える。
帝国軍の研究部門や
「2つ目はなんだ? あぁ、従魔の成長に使うのか」
「正解です。強くなるにつれ、レイ達が求める魔石の質は高くなっていきます。もしも魔石の塊を自由に作れるようになれば、今は魔石が十分に行き届いていない従魔にも魔石が行き届いて強化できるでしょう」
アルケイデスはシルバの説明を受けて確かにそうだと頷いた。
シルバ達ワイバーン特別小隊の働きにより、ディオニシウス帝国では従魔を持つ軍人が増えて来た。
そのおかげで割災による死傷者の数は減り、今のディオニシウス帝国はサタンティヌス王国やトスハリ教国が気軽にちょっかいをかけられないところまで力をつけていた。
しかし、いずれは他国も刷り込みによるテイムに気づき、魔石が従魔を強化することを知ってしまうだろう。
そうなった時、質の良い魔石は奪い合いになるから、今の内から魔石の塊を自由に作れるようになっておくべきなのだ。
「3つ目はなんだ? これ以上は俺もアイディアが出て来ないんだが」
「3つ目はまだ可能性の段階ですが、魔石の塊を使って異界からこちらに来てしまったモンスターを誘導できるのではないかと考えてます。要は、街から離れたポイントに魔石の塊を設置することでモンスターをおびき寄せ、そこを定期的に攻めることで危険なモンスターの討伐を効率化します」
「それができたら世界が変わるぞ。よし、決めた。シルバ達にはしばらく研究部門と協力し、魔石の塊を作る技術の再現に取り組んでもらおう。モンスターの卵回収は一旦終了としよう」
「承知しました」
アルケイデスの即断即決により、シルバ達に下されたモンスターの卵回収ミッションは終わりを告げた。
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