第152話 そうですよ。これが品種改良の力です

 グラウンドにやって来たシルバ達は二度目の夏休み明けということで、この後の展開を理解していた。


「よーし、今から模擬戦をやるぞー。夏休み中の成果を見せてもらってからミッションを割り振るからそのつもりでいろよな」


 模擬戦の組み合わせは既に軍人であるシルバとアリエルは戦うことが決まっているが、3位~10位についてはポールの独断と偏見で決める。


 去年と同様にシルバとアリエルの模擬戦を最後にすることにして、ポールは適当に2人指名することにした。


「んじゃ、最初はロックとタオに勝負してもらおうか」


「はい」


「わかりました」


 選ばれた2人は前に出て向かい合って一礼する。


「第一試合、始めー」


 ポールのやる気が感じられない合図の直後、両者はバッグの中に手を突っ込んでその中身を相手の足元目掛けて投げつけた。


 ロックが投げたのは煙玉であり、白い煙がタオを中心に広がる。


 その一方、タオが投げた物も地面にぶつかった瞬間から煙が発生してロックを包み込んだ。


 それらの煙が同士が接触したところ、タオが投げつけた物から発生した煙の方が下に潜り込み、通常の煙と比べてやや青みがかっていることがわかる。


「何も見えないねー」


「見えなくても心の目で見切れば良いんだ」


「ヨーキ、ちょっと何言ってるのかわからない。帝国語でOKだよ」


「いや、<心眼サードアイ>の話なんだが」


 メイは自分が何を言ったのかさっぱりわかっていなかったと知り、ヨーキはスキルの名前を口にした。


 <心眼サードアイ>は剣士が硬い物を斬ろうとするなら会得すべきスキルだ。


 それゆえ、ヨーキは少ししょんぼりしながらそう言った。


 そんな話をしている内に煙が晴れ、マスクを身に着けたヨーキとタオの姿が見えて来た。


 2人はどちらとも最初の位置から一歩も動いておらず、煙の中で一体何をしていたのかわからない。


「てっきり攻撃を仕掛けて来ると思ったんだけどね」


「それは私のセリフです」


「まあ、ずっとここで立ってたって仕方ないし攻めさせてもらおうかな?」


「私も攻撃開始です」


 ロックは札を貼り付けた石をタオの頭上を通過するように投げる。


 その石がタオの頭上を越える前にタオの正面から元気に植物が生え、壁となって石が通過するのを防いだ。


「おいおい、マジかよ」


 ポールの顔が引き攣るのも無理もない。


 タオの正面から生えたそれはただの植物ではなく、マンイーターだったのだ。


 軍学校のグラウンドにいきなりマンイーターが現れれば、誰だって驚かないはずないだろう。


 しかし、シルバはそのマンイーターを冷静に分析して手出し無用だと判断した。


 (あれは自然発生したマンイーターじゃない。タオが調整したんだ)


 野生のマンイーター特有の凶暴さが見えず、投げつけられた石を食べた後はおとなしく待機しているのだからポールは困惑した。


「どーいうこった? まさか、タオがマンイーターをテイムしたのか?」


「違いますよハワード先生。これは今この場で種から急速に成長させたマンイーターです。種を品種改良して狂暴性を調整したんです」


「マジかー」


 しれっとすごいことをやってのけた教え子に対し、ポールはこの後報告書を書かなければと嬉しさ半分面倒臭さ半分の反応をした。


 その直後、マンイーターの体内でボンという音がする共に爆発した。


 こうなったのはロックが石に張り付けた札のせいである。


 時間経過を条件として起爆する札が爆発し、貼り付いていた石が破片になって体内からマンイーターを傷つけた。


 それにより、調整したとはいえ元々狂暴だったマンイーターに反撃する理由を与え、攻撃を仕掛けたロックにマンイーターが蔓を鞭のようにしならせて攻撃し始める。


 ロックが後ろに飛び退いた後、マンイーターの蔓がロックのいた場所を叩いた。


 その衝撃がスイッチになって小さな爆発が生じて土砂をまき散らした。


「うーん、マンイーターを倒すには色々と足りないけどこれはどうかな?」


 ロックが投げた瓶をマンイーターが割るが、瓶の中に入った液体に触れた途端にマンイーターが蔓から干からびていく。


「弱点が見抜かれましたか。仕方ありません。次です」


「はい、そこまでー」


「「え?」」


 まだまだやれると思っていた2人はポールに止められてしまい、どうして止めるんだと首を傾げた。


「不思議そうな顔をするんじゃないっての。模擬戦で張り切るのは良いけどこれ以上やるとグラウンドが滅茶苦茶になるだろうが。それに、今までの攻防だけでもお前達が罠や飛び道具をはじめとした攻撃手段に工夫を凝らしてることがわかった。だから終わりだ」


「「はい」」


 ロックもタオもポールに止められてしまえばこれ以上模擬戦を続ける気はないので、クラスメイト達が集まる場所に戻っていった。


「ロック、時間差だったり接触だったりで爆発するのすごいな!」


「あはは。ここまで上手く連動させるのは大変だったんだ。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 ロックがヨーキに感激されている一方で、シルバはタオが枯れたマンイーターの根元から種を回収しているのを見逃さなかったため、疑問をタオにぶつけてみた。


「タオ、もしかして種さえあれば何度でもマンイーターを壁や攻撃手段に使える?」


「そうですよ。これが品種改良の力です。品種改良した種を持ち歩いて、いざ戦う時は地面に埋めて特製の栄養剤をかければ頼れる護衛が出現するんです」


 そこでポールも話に加わる。


「テイムとは違うやり方だが面白いアプローチだ。タオ、今日の放課後に時間をくれ。校長に報告する文書を作る。上手くいけば昇進できるかもしれないぞ」


「本当ですか!? やりました!」


 薬を使って戦うタオが植物型モンスターまで操れるようになり、敵ならば恐ろしいが味方ならば頼もしいと思うB2-1一同だった。


 第二試合はメイとウォーガンの近接戦であり、激しい攻防を終えてメイが辛勝した。


 第三試合はソラとリクの姉弟対決になり、これもまた武器の戦いから決着がつかなくて徒手空拳の戦いになった。


 ダブルノックアウトになりそうなところでポールが止めて引き分けと判定された。


「みんなちゃんと強くなってたね」


「とか言いつつ模擬戦で当たったら一瞬で勝負を終わらせるんだろ?」


「シルバ君、当たり前なことを言わないでよ。やるなら徹底的にやらなきゃ」


「ですよねー。うん、知ってた」


 シルバはアリエルが初手落とし穴で出鼻を挫き、そこから土の腕で十字架の磔にするのだと察して苦笑いした。


 それと同時にウォーレスと同じようにやられてしまえば、間違いなくトラウマを植え付けられるのでアリエルの模擬戦の相手がアリエルに対処できる自分で良かったとシルバはホッとした。


「次はヨーキとサテラだな。準備しろー」


「うす!」


「はい!」


 選ばれたヨーキとサテラは前に出て向かい合って一礼する。


「第四試合、始めー」


 ポールのやっぱりやる気が感じられない合図の直後、サテラが弓矢に頼らず短剣を構えてヨーキに接近した。


「俺を相手に剣で挑むとは面白い」


「無駄口を叩いてる暇は与えない」


 斬りかかるサテラに対し、ヨーキは猿叫を使わずに冷静にサテラの攻撃を捌いていく。


 ヨーキはサテラの攻撃を捌いた後に反撃できたが、サテラが何かを狙っていると判断して深追いせずに攻撃を捌くことに集中した。


 サテラはヨーキがなかなか攻めて来ないので、痺れを切らして自分から仕掛けることにしたようだ。


 横薙ぎを放つ瞬間、サテラは握っていた短剣を手放した。


 今まで自分を攻撃していた短剣が地面に落ちていくという事実に注意を惹かれ、目で追ってしまうのは人間のさがだ。


 だが、そこでヨーキはサテラが背負っていた弓に手を伸ばすだろうと予測しており、自分を奮い立たせてサテラをビビらせるべく声を張り上げる。


「キェェェェェ!」


 その猿叫でサテラが一瞬だけ硬直してしまい、その隙にヨーキがサテラの頭に触れる手前で剣を止めれば勝負はついた。


「そこまで。ヨーキの勝ちだ」


「よっしゃあ!」


「ヨーキが駆け引きを覚えた・・・だって・・・?」


「あのヨーキが頭を使った?」


「信じ難い」


「いや、素直に褒めてくれよ!」


 ヨーキの戦い方が脳筋丸出しなものではなく、冷静に頭を使ったものだったことに観戦していたクラスメイト達は驚いていた。


 模擬戦の時はキリッとしていたヨーキも終わればいじられキャラに戻る。


 (いずれヨーキが鍛錬の相手になってくれると良いな)


 シルバはそんなことを思ったが、すぐに次の模擬戦が自分とアリエルのものだと思い直して気持ちを切り替えた。

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