第259話 ありのまま今起こった事を話すわ!

 シルバはデコピンされて別れた時と変わらぬマリアの姿を見て、思わず大きな声を上げてしまった。


「えっ、シルバなの!? 随分大きくなったわね!」


 マリアは穴を通ってエリュシカに戻り、自分よりは小さくとも3年前より大きくなったシルバを見て喜んだ。


 マリアが通り過ぎた後、異界に通じる穴は消えて今回の割災は終わった。


 シルバと別れた後、改めてシルバがいなくなったことの寂しさを思い知り、マリアはシルバを探しに行きたい衝動に駆られる時が何度もあった。


 しかし、シルバから青春を奪ってはいけないと自分が決めたため、別れてからも割災が何度起きようともマリアはエリュシカに戻らなかった。


 それでも、どういう因果かシルバが目の前に現れたため、マリアは後先考えずに異界を飛び出してエリュシカに戻ってきてしまった。


 そして、流れるように<浄化クリーン>で身を清めてからシルバを抱き締めた。


 一連の動作は常人では目で追えるものではなく、マリアが光ったと思った次の瞬間にはシルバを抱き締めていたようにしか見えなかっただろう。


「う~ん、この温もりが懐かしいわ」


「マリア、力を緩めてくれ。強過ぎる」


「これぐらい平気でしょ? この程度で根を上げるような鍛え方はしてないもの」


「うっ、わざと力まないでくれ。マリアは馬鹿力なんだから」


 マリアが万力のように自分をぎゅうぎゅうに抱き締めるので、シルバの表情がどんどん苦しそうになっていく。


 アリエルとエイルは歴史的偉人であり、シルバの師匠であるマリアになんと言えば良いかわからなくてフリーズしてしまった。


 それゆえ、シルバを助けたのは従魔のレイだった。


『ご主人が痛がってるの! 力を抑えてよ!』


「あら? この子は<収縮シュリンク>を使ってるようだけどニーズヘッグなの? 色からして通常種じゃないわね。希少種? というかご主人? シルバってばニーズヘッグをテイムしたの?」


 レイが<念話テレパシー>を使って介入すれば、マリアは極めて珍しいものを見て逆に落ち着いたらしく、シルバを解放してレイをじっくり観察し始めた。


「レイは俺の従魔だ。卵から孵してテイムした。元々はワイバーンだったけど、進化してニーズヘッグになったんだ」


「刷り込みね。卵から孵してテイムって方法もやって見たかったけど、私には向いてなかったんだよね」


「あぁ、マリアって生き物から逃げられるか襲われるかのどっちかだもんな」


「そうそう。刷り込みにもチャレンジしてみたんだけど、生まれた瞬間に私を見てショック死するから、二度とやらないって決めたの」


 (刷り込みしようとしてショック死させるってどゆこと? 化け物かよ)


 シルバはそのような感想を思いついたが、マリアがそれを知ればデコピンして来るに違いないと判断して何も言わなかった。


 だが、現実は非情だった。


 シルバはマリアにデコピンされた。


「痛っ! いきなり何すんだよ!?」


「シルバから不届きな波動を感じたからデコピンしたまでよ」


 どうやら、シルバの考えていることはマリアにはお見通しのようだ。


「波動ってなんだし。何も言ってないのにデコピンするなんて横暴だろ」


「シルバが私のことを心の中で化け物って考えるのが悪いのよ」


「俺の心を勝手に読むな。というか心って読めるの?」


「読めるわ。<心読マインドリーディング>さえあれば」


 その発言に反応し、アリエルが一気に詰め寄る。


「その話を詳しく聞かせて下さい!」


 (アリエルにそのスキルを覚えさせたら駄目な気がする)


 そんなことを思いつつ、シルバはマリアに訊ねる。


「そんなスキル聞いたこともないんだが」


「ある訳ないでしょ。作り話だもの」


「そんなぁ」


 アリエルはショックを受けて膝から崩れ落ちた。


 本気で<心読マインドリーディング>を会得したかったらしい。


 それはさておき、マリアはシルバと行動を共にする者達に名乗っていなかったことを思い出し、自己紹介をすることにした。


「名乗るのが遅れてごめんなさい。私はマリア=ムラサメ。シルバの師匠よ」


 マリアに名乗られたのならば、アリエル達も黙っている訳にはいられない。


 アリエルは立ち上がり、エイルもその隣に移動して挨拶する。


「こちらこそご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。僕はアリエル=ムラサメ。ムラサメ公国第一公妃です」


「呆けてしまい申し訳ございませんでした。私はエイル=ムラサメ。ムラサメ公国第二公妃です」


「シルバ、ムラサメ公国ってどこ? 私が知らない国なんだけど。というか、2人ともムラサメ? シルバ、説明して」


「ムラサメ公国は元サタンティヌス王国だ。色々あって革命が起きて、ディオニシウス帝国から俺達が加担して革命を成功させた後、俺が公王になった。国の名前がムラサメなのは、帝国にいた頃に皇帝からムラサメを名乗って良いって言われたから。それと、アリエルもエイルも俺の奥さんだよ」


 シルバの説明を聞いてマリアがフリーズした。


 10秒程経ってからマリアは再起動する。


「ありのまま今起こった事を話すわ! 私は久し振りに弟子と再会したと思ったら、いつのまにか弟子が私の苗字を名乗って国の元首になっていた。な、何を言ってるのかわからないと思うけど、私も何を言われたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。浦島太郎だとかコールドスリープ明けだとかそんなチャチなもんじゃ断じてないわ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ・・・」


「一呼吸でよくそこまで喋れるな」


「違う、そうじゃない。求めてる反応はそういうのじゃないの」


「無理言うなよマリア。マリアの話ってほとんど知らない内容なんだから、ついていける訳ないだろ」


 シルバが困ったように言うと、マリアはこれが異世界転移した者の苦しみなのかと寂しそうに呟いた。


 気持ちを切り替えた後、マリアは気になったことがあってシルバに訊ねる。


「ねえ、いくら王国の革命に関わったからっていきなり国の元首になれなくない?」


「それは僕が捨てられたサタンティヌス王国第二王女だったからです」


「シルバったら王女様をお嫁さんにしちゃったの?」


「ちなみに、俺もスラムの孤児院育ちだったけど、ディオニシウス帝国の第三皇子だったって発覚した」


「やだー、シルバってロイヤルショタじゃないですかー」


 シルバが実は高貴な生まれだったと知り、まさかそんな秘密が隠されていたとはとマリアはショックを受けた。


 3人中2人が尊い生まれだったと知り、マリアは残るエイルも実はそうなのではと思って視線を向ける。


 エイルはその視線に気づいて両手を横に振った。


「私は違いますよ。せいぜい帝国軍学校の校長の娘ってぐらいです。シルバ君とは学生会に勧誘した時に出会いました」


「学生会? 見た感じ貴女の方がシルバよりも年上だけど、シルバが入学した年の学生会長かしら?」


「その通りです。シルバとアリエルは非情に目立っておりましたので、私が2人のいるクラスまで赴き、学生会にスカウトしました」


「私がシルバを育てた」


「知ってる」


 ドヤ顔を披露するマリアに対し、シルバ冷静にツッコミを入れた。


「シルバ、私に対して冷たくない?」


「そんなことないだろ」


「さては恥ずかしいのね?」


「違う」


「シルバ君がここまで一方的にやられるだなんて、流石はマリア様」


 アリエルはマリアとシルバのやり取りを見て戦慄した。


 この話題を続けていては不利なので、シルバは話題を変える。


「それよりマリア、異界に帰れなくなったけど大丈夫なの?」


「大丈夫よ。私、<無限収納インベントリ>を会得してるから。ほら」


 シルバの心配に対し、問題ないと言ってマリアは亜空間から大きなリュックサックを取り出した。


『レイと一緒!』


「フッフッフ。甘いわレイちゃん。私の<無限収納インベントリ>は収納スキルの頂点よ。レイちゃんが会得してるのは<虚空庫ストレージ>はじゃない?」


「ちょっと待て。なんでレイの保有スキルがわかるんだ?」


 レイとマリアの会話を聞き、マリアがレイのスキルを断定できる理由がわからなかったため、シルバはその根拠を示すよう促した。


「答えは単純。私には<看破シースルー>ってスキルがあるの。だから、保有スキルも適性のある属性もお見通しよ」


「待ってくれ。俺といた時にそんなスキルの話はしてなかったじゃんか」


「シルバがいなくなってから会得したのよ。疑うなら証拠を見せるわね。シルバ、貴方は水と氷、雷以外に光と火の属性があったのね」


「マジか」


「・・・すごい」


「当たりです」


 マリアに異界では使ったことのない属性を言い当てられ、シルバ達は驚くしかなかった。


「そうだ、私からも質問。今日の割災でエリュシカに向かうモンスターがやたら多かったの。何かに惹きつけられるような感じね。何か心当たりはない? それを探すためにこっちに残ったってのもあるのよ」


「色々説明することが多いから、まずは俺達の城に来てくれ。そこで話すから」


「あらやだ。3年も見ない内にシルバがお持ち帰りを覚えてるわ」


「喧しいわ!」


 この後、シルバ達はマリアを連れて城に戻り、マリアの知りたいこと全てを話した。

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