第24章 拳聖、再会する
第251話 この国でも脅迫手帳を作りたかったから丁度良いんだよね
ワイバーン特別小隊が引き継ぎを終えた頃には3月になっていた。
サタンティヌス王国はムラサメ公国に名前を改め、初代公王がシルバで第一公妃がアリエル、第二公妃がエイルになった。
アリエルとエイルのどちらが正妻になるかという話し合いは、血筋の問題でアリエルに軍配が上がった。
しかし、シルバはアリエルとエイルで扱いに差をつけないと約束したため、エイルもおとなしく第二公妃になることを承諾した。
また、エリュシカにおいて成人は15才だったけれど、実は例外が存在する。
それは王族、皇族等の国を導く家の者が15歳未満で即位するか、その配偶者となった場合だ。
この場合は15歳未満であっても成人として認められるので、シルバとアリエルはまだ13歳だが成人として扱われる。
ただし、それは年齢制限を誤魔化して良い訳ではないから、飲酒は15歳になるまでお預けなのだ。
エイルは既に卒業したから問題ないが、シルバとアリエルは軍学校に在学していた。
だが、シルバ達がムラサメ公国を建国したことで状況が変わり、シルバとアリエルは3月末付で2年前倒しの早期卒業扱いとなり、月末までの出席は免除された。
実際のところ、シルバは
それもあり、
学生会はシルバが学生会長になれないということで、メリルが学生会長に指名された。
最初は辞退しようとした彼女だが、ジョセフが副会長でセフィリアが会計として残ることを条件に学生会長になることを引き受けた。
軍学校の引継ぎはこれで良いが、帝国軍としての引継ぎも重要だ。
ワイバーン特別小隊はシルバとアリエル、エイルが抜けることで解体される。
そもそも、シルバ達はディオニシウス帝国軍から離脱するのだ。
ロウはクレアがディオニシウス帝国に残りたいと言ったため、シルバ達と共にムラサメ公国に移住することはなかった。
ワイバーン特別小隊が務めていた皇帝直属部隊の地位はキマイラ中隊に移譲され、旧ワイバーン特別小隊のロウは個人としてアルケイデスの護衛に任命された。
魔石研究室はマチルダが室長の地位を引き継いだから、こちらも問題なくことは進んだ。
ちなみに、ムラサメ公国はディオニシウス帝国と国のトップが兄弟であることから、兄弟国として同盟を結ぶことになった。
これには先行きを不安視していたムラサメ公国民も大喜びである。
トスハリ教国との戦争が終わり、内戦も終わったところでムラサメ公国の状況はズタボロだったが、シルバ達が率先して国内のモンスターを狩り、その肉を公国内の街に配っていたことから公王の支持率は高かった。
そこにディオニシウス帝国との同盟まで加われば、ムラサメ公国民も未来に期待ができるという訳だ。
とは言っても、まだまだ問題だらけな訳で、王城をリフォームしたムラマサ城の執務室ではシルバとアリエル、エイルが書類の山に追われながら必死にデスクワークをしている。
その時、ドアをノックする音が聞こえる。
「サイモンでございます。入ってもよろしいでしょうか?」
「入ってくれ」
「失礼いたします」
ドアを開けて入って来たのは革命軍の主導者だったサイモンだ。
彼は旧サタンティヌス王国では王国騎士団長を務めており、ムラサメ公国では第一騎士団長の地位にある。
また、階級制度はディオニシウス帝国と併せており、サイモンは武官では一番上の
正直なところ、ディオニシウス帝国の基準で実力的にはその下の
余談だが、サイモンは騎士団長ではあるものの武術一辺倒ではなく学もあり、部下からの信頼も厚い。
それもあり、公都ムラマサを守る第一騎士団以外の軍人からも相談を受け、シルバとの仲介をすることも少なくない。
「公王陛下、公国軍の人手が足りません。ディオニシウス帝国軍時代の経験から知恵をお貸しいただけないでしょうか?」
「具体的にはどの部門に人手が足りない?」
「特に急いでいるのは第一騎士団以外の騎士団です」
騎士部門は公国軍において盗賊やモンスターから公国民を守る役割を担っている。
第一騎士団がムラマサを守り、第二騎士団以降はムラサメ公国の主要な街に配備されている。
騎士団が人手不足なのはトスハリ教国との戦争と内戦のせいだ。
あれで徒に騎士の数が減り、それぞれの街に配置された騎士団は人手が足りず大忙しらしい。
「帝国からマジフォン等の技術供与を受け、指令の伝達速度やミッションの成功率自体は上がってると報告を受けた。第一騎士団以外の騎士団は一体何に時間を取られてる?」
シルバはアルケイデスやロザリーと相談し、
ディオニシウス帝国にしかない技術もあれば、ムラサメ公園にしかない技術もある。
それらを共有することで両国の技術水準は高まり、両国の研究部門は過去最高の盛り上がりを見せている。
技術の発展により業務効率は上がったが、それでも第一騎士団以外の騎士団の人手が足りないならば、その原因を取り除かなければなるまい。
シルバはそう思ってサイモンに訊ねた。
「騎士の育成に時間を要しております。戦争と内戦により、どの騎士団も比較的若い騎士ばかりです。彼等を育成しなければ、この先いつになっても騎士団は苦しいままなので、騎士団長やその側近もそれに時間を割いております。ただ、それによって街の見回りや街周辺のモンスターや盗賊の討伐、植物素材の調達が予定よりも遅れております」
「新設したテイマー部門の派遣できる者から順番に派遣せよ。育成の必要性は俺が言わずとも各騎士団長が理解してるだろうから、今は部門横断的に事に当たれ。また、俺から兄や姉にも人を借りられないか相談してみよう」
「かしこまりました。ありがとうございます」
サイモンはシルバの指示を聞いてすぐに執務室から出て行った。
それを見送ってマジフォンをいじった後、シルバは深く溜息をついた。
「この国ヤバいな。トスハリ教国に攻め込まれたら国境線が簡単に変わるぞ?」
「大丈夫だよシルバ君。トスハリ教国はお義姉さんが手を回して内戦を更に激しくさせてるから、こっちにちょっかいを出す余裕なんてないもの」
「ですが、それでも安心はできませんね。国とは人の集合体ですから、人手不足はできる限り早くなんとかしたいものです。テイマー達が派遣先で実力を発揮してくれれば、少しは楽になるでしょうけど人材育成には時間がかかります」
シルバの漏らした言葉に対し、アリエルは把握している情報を伝えてシルバの不安を取り除き、エイルはシルバに同調した。
「俺達が現場に出向くにも限界があるし、優秀な人材をどうにかして確保したいところだな。とりあえず、アルケイデス兄さんとロザリーお姉ちゃんには人手を貸してもらえないか頼んだけど、それじゃ根本的な解決にはならないんだよなぁ」
「シルバ君、お義姉さんから教わった内容を活かしてやってみたいことがあるんだけど聞いてくれる?」
シルバがどうしたものかと困っていると、アリエルが自身に満ちた表情で提案があると言った。
「聞かせて」
「うん。導入したいのは治安維持と相互補助を目的とした制度で、名前は連帯制度にしようかな」
アリエルは連帯制度について説明を始めた。
連帯制度とは近隣5家1組の組織を形成し、税の徴収や犯罪取り締まり等で不備が生じた場合は連帯責任になるものだった。
つまり、どこか1つの家でも払うべき税金を払わなかったり、罪を犯した者が出たら5つの家全員が罰を受けるというものである。
罰を受けたくないからこそ、お互いに密に連絡を取って困った時は助け合い、治安維持の効果が見込める。
「なるほど。騎士団の手が回らない以上、制度で国民を縛るしかないか。管理が楽になれば必要な人手も減る訳だし。良い制度じゃないか」
「この国でも脅迫手帳を作りたかったから丁度良いんだよね」
「ブレないねぇ」
「アリエルとお義姉さんは組ませちゃいけないタッグでしたね」
ニコニコしているアリエルを見て、シルバとエイルは苦笑するしかなかった。
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