第284話 自分達が喧嘩するように管理されてるって気づかないのは哀れだね

 リトがモフトリスキングに進化した後、シルバ達は畑の野菜型モンスターを収穫して種蒔きを終えてから次の区画に移動する。


『控えろ~』


「「「・・・「「メ、メェ~」」・・・」」」


 シルバーブル達の反応を思い出したのか、レイがドヤ顔でシルバーシープ達が平伏した。


「ハマったんだ?」


『エヘヘ。ちょっと楽しいよ』


「程々にな」


『うん』


 従魔にできない以上、いつ反抗するかわからないから、シルバはレイのお遊びをやり過ぎない程度に許容した。


 これで第一世代の反抗心が折れてくれれば、その子供の世代ではシルバ達に従うのが当たり前と思ってくれるかもしれない。


 そういう目論見があるからこうしているのであって、好きでモンスターファームのモンスター達を威圧しているのではない。


 シルバーブルは肉を目当てに育て、シルバーシープは肉と毛を目当てに育てている。


 シルバーシープの毛はまだ伸び切っていないので、今日は毛刈りをすることはない。


 だからこそ、シルバーシープの区画にこれ以上用はないからシルバ達はこの区画を後にした。


 次は色取り取りの山羊が集まっている区画だ。


 ここに集められているのはマジシャンゴートと呼ばれるシルバー級モンスターであり、体毛は適性がある属性の色になっている。


 火属性なら赤、水属性なら青、風属性なら緑、土属性なら茶色、氷属性なら水色、雷属性なら黄色、光属性なら白、闇属性なら黒だ。


 その色の割合は赤=青=緑=茶色>水色=黄色>白=黒となっていて、概ね人間の適性の比率と変わらない。


 マジシャンゴートを育てる理由は毛と肉と乳だ。


 マリア曰く、マジシャンゴートの毛は色の属性の耐性があるから、その毛を使って革鎧や服にすれば、生存確率が上がることだろう。


 肉は雄や乳の出なくなった雌を加工し、乳は雌から回収する。


 これだけ用途があるのだから、今のモンスターファームにおいて最も価値があるのはマジシャンゴートの区画と言えよう。


「マジシャンゴートはレイに怯えないな」


「肝が据わってるというか、ぼーっとしてるだけというか」


 アリエルの言う通り、マジシャンゴートはどの個体も面倒臭がりなのだ。


 岩の壁も土属性に適性がある個体ならば、<土魔法アースマジック>で岩の囲いをなくして逃げ出すこともできるのだが、岩の壁の中にいる限り誰にも襲われないとわかっているから誰も逃げ出さないのである。


 マジシャンゴートの区画の後に訊ねるのは、ボア区画と呼ばれる場所だ。


 ここには色付きモンスターのボアではなく、体が武器になっているか生えているボアが集められている。


 アローボアとソードボア、ハンマーボア、アックスボアの4種類おり、これらはブラック級モンスターだ。


 ブラック級モンスターでクフトマトのように何度も収穫できないならば、ボア区画はなくても良いのではと思う者もいるかもしれない。


 だが、このボア区画にいる者達は戦うことでストレスがかかり、肉質がシルバー級モンスターと遜色ないレベルに上がる。


 それゆえ、ボア区画では各種ボアに好きに喧嘩をさせている。


 そして、戦いに負けて力尽きた個体を食べるようにする仕組みだ。


 ボア達はただ喧嘩っ早いだけでなく、雄と雌で戦って勝った方が相手を尻に敷く習性がある。


 彼等にとって夫婦になる上での喧嘩はマウントの取り合いでもあり、必要なイベントなのだ。


『アリエル、見て。今日も今日とて野蛮なボア共だよ』


「自分達が喧嘩するように管理されてるって気づかないのは哀れだね」


 (この主従、なんて黒い会話をするんだか)


 シルバはリトとアリエルの会話を聞いて苦笑した。


 リトも愛らしい見た目をしているというのに、喋ってしまえば黒い発言が聞こえて来る。


 他人の前ではそういう素振りを見せないあたり、アリエルに似て狡賢い一面があるのは間違いない。


 現在はボアの区画が北端の区画であり、まだまだ土地は余っているけれど管理すべきモンスターがいない状態だ。


 勿体ない気はするけれど、いない者はいないのだから仕方あるまい。


 一通り見回りが終わったため、シルバ達がレイの背中に乗って帰ろうとした時だった。


 南の空から数珠繋ぎのシルエットの何かが、モンスターファームに向かって逃げ出して来たのがシルバ達の視界に映った。


 (なんだあれ? 遠くてよく見えないな)


『ご主人、行ってみる?』


「行ってみよう」


 南にはスロネ王国があるので、正体不明のモンスターはスロネ王国から逃げ出して来たと考えて良いだろう。


 残念ながらスロネ王国にモンスターを怯えさせるような実力者はいなかったと記憶しているため、シルバは逃げて来たモンスターとそれが逃げて来る原因になった存在が何か気になった。


 レイの背中に乗って移動していく内に、シルバ達は正体不明のモンスターの姿をはっきりと視界に捉えることができた。


 マジフォンのモンスター図鑑機能で調べてみたところ、一致するデータなしという結果に終わった。


 つまり、シルバ達が目撃したモンスターはマリアの記憶とディオニシウス帝国の記録、ムラサメ公国の記録にも載っていない新種のモンスターということだ。


 そのモンスターは壺が数珠繋ぎになって蛇のような体を形成しており、頭部は宝箱で絨毯が翼の代わりをしている見た目である。


「ミミックの新種?」


「そうみたいだね。名付けちゃえば?」


 アリエルは目の前のモンスターを撮影した後、シルバに名付けてしまえと軽い気持ちで告げた。


「じゃあ、キマイラミミックで」


「了解。見たままだけどシンプルイズベストだよね」


「その通り。とりあえず、データを収集しよう。倒すのは大して難しくないだろうけど、レアなモンスターなら次に遭遇できるのがいつかわからない。データを取れないと後で困るかもしれないし、この後急ぎの用事もないからな」


「賛成」


 方針が決まったので、シルバ達はキマイラミミックの進路を妨害する位置取りをする。


 邪魔をするなと言わんばかりに、キマイラミミックの口から闇の弾丸が連射される。


「參式水の型:流水掌」


 倒すならばレイの反射領域リフレクトフィールドを使うべきだけれど、データを収集し終える前に倒す訳にはいかないから、シルバが參式水の型:流水掌で闇弾乱射ダークガトリングを受け流した。


 この攻防により、キマイラミミックは少なくとも<闇魔法ダークマジック>を会得していることがわかった。


「今の攻撃の威力からして、キマイラミミックはシルバー級モンスターの可能性が高いね。ブラック級モンスターにしては威力があったし」


「多分そうだろうけど、あいつがどの程度の強さなのかは倒して魔石を取り出すのが確実だ。決めつけるのは止めておこう」


「そうだね。僕はこのまま登録作業をするから、シルバ君はキマイラミミックの相手をお願いね」


「任せろ」


 アリエルとシルバがそのように話しているのが不愉快だったらしく、キマイラミミックは胴体の壺の口から爆弾を次々に放出して雨のように降らせる。


 <爆弾雨ボムレイン>は発動から着弾までの間に時間があるから、空中で爆破させてしまえば容易く防げる。


「壱式氷の型:砕氷拳」


 シルバは爆弾の雨を空中で爆発させるべく、正拳突きした拳から氷の散弾を飛ばした。


 <爆弾雨ボムレイン>も通用しなかったので、キマイラミミックは<射墨インクショット>でシルバ達の視界を塞ごうとする。


「レイ、吹き飛ばして」


『は~い』


 レイが<属性吐息エレメントブレス>の風のブレスを放てば、キマイラミミックの<射墨インクショット>なんて簡単に跳ね返されてしまい、キマイラミミックが墨塗れになった。


 墨のせいで視界は悪くなり、キマイラミミックは精密な攻撃ができないと判断したから、それなら破れかぶれだと<剛力突撃メガトンブリッツ>を発動する。


「そろそろスキルも出尽くしただろうし、とどめを刺すか。壱式雷の型:紫電拳」


 シルバの拳から飛び出した紫色の雷が命中し、キマイラミミックは地面へと墜落していく。


 墜落した先には何も育てているモンスターがいなかったから良いものの、もしも下に育てているモンスターがいれば大惨事だっただろう。


 そう思えるぐらいには落下音が大きかった。


 力尽きたキマイラミミックから魔石を取り出してみると、それは銀色に輝いていた。


「僕達の読み通り、シルバー級モンスターだったね」


「そうだな。初見でキツいのは<射墨インクショット>ぐらいだし、冷静に対処すればウチのどの騎士団でも大したダメージを負わずに倒せると思うぞ」


「僕もそう思う。・・・はい、キマイラミミックのデータ登録が完了したよ」


「ありがとう。さて、残る問題はキマイラミミックがなんでスロネ王国から逃げて来たかってことだな」


 片方の問題が片付いたため、シルバ達はもう片方の問題について仮説を立て始めた。

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