第266話 ふぅ、蟹身は無事か
時を少し遡ってエイル達がアズラスに到着した頃、シルバ達はレイの背中に乗ってフーチマンの上空までやって来た。
フーチマンは火山の街であり、気温がムラマサと比べて暑い。
割災予報機で示された場所には既に第六騎士団が到着しており、いつ割災が起きても彼等が出現するモンスターと最初に遭遇できるようになっている。
毎回シルバ達が率先して戦ってしまえば、騎士団が戦って成長する機会を奪うことになるから、出現したモンスターによってはシルバ達が手を出さないと各騎士団長に伝えてある。
割災発生時刻になった途端、フーチマンから少し離れた場所に異界と繋がる穴が生じる。
そこから現れたのは棍棒を持った単眼の巨人の集団だった。
「サイクロプスか。あれなら第六騎士団に任せても構わないな」
「シルバ君、ということはサイクロプスってブラック級モンスターで合ってる?」
「その認識で合ってるぞ。5体程度なら、第六騎士団が十分戦えるよ。既に騎士団長には任せるって命令しといた」
サイクロプスの姿を目視できてすぐの段階で、シルバは第六騎士団長にサイクロプス達は任せたとマジフォンで命令を出していた。
それゆえ、第六騎士団長はシルバ達が戦うまでもない相手と理解して騎士団員に声をかける。
「皆の者、敵はブラック級モンスターのサイクロプス5体! 魔法系スキルを使えない肉弾戦のみの敵だ! そんな奴等に俺達が負けるか!?」
「「「・・・「「勝つ! 絶対に勝つ!」」・・・」」」
「よろしい!
第六騎士団長の指示を受け、第六騎士団は団員が3人ずつ組んでサイクロプスに挑んでいく。
何故なら、第六騎士団長は現場全体を見て助けが必要な組のフォローをするからだ。
もっとも、数的有利な状況で魔法系スキルも使えないサイクロプスに対し、劣勢になるような鍛え方をされている第六騎士団ではないのだが。
1人が
最後の1人が後方から攻撃するか支援することでダメージを上乗せしすれば、どの組も10分程でサイクロプスを倒せていた。
サイクロプスは第六騎士団だけで倒せたけれど、まだ異界に通じる穴は開いたままだ。
今のところ、異界への穴を塞ぐ方法は見つかっていないから、もう戦闘は終わったなんて考えて油断してはいけない。
その時、オークの頭部を持つ地龍が穴からのっそりと現れた。
両前脚は人間の手のようになっており、右手には頭蓋骨とそこから伸びる脊椎によって形成された杖を握っている。
「シルバ君、あれは何? ただのオークじゃないんだよね?」
「正解。あれはオーカス。シルバー級モンスターだな。とはいえ、第六騎士団が囲んで戦えば十分戦いになるだろう」
「第六騎士団長には伝えてある?」
「当然だ。俺達は後続の敵が割り込んでこないように見張るぞ」
「は~い」
継続してオーカスの敵は第六騎士団に任せ、シルバ達はその戦いの隙に現れるモンスターがいないかチェックすることにした。
「ブヒッヒィィィィィ!」
オーカスは挨拶代わりに吠えた後、杖を光らせて
「防御陣形!」
第六騎士団長の指示に従い、盾を持っている者達が騎士団の前方に移動して盾を構えた。
その者達が構えている盾に対し、どんどん闇の弾丸が命中していく。
「魔弓組発射!」
今度は騎士団の後方にいる魔法系スキル持ちや弓使い達に指示が出され、魔法の技や矢が放たれる。
「ブヒュゴ!」
しかしながら、その壁はオーカスの視界を塞ぐには十分過ぎる程大きかったため、壁を回り込むように接近戦を得意とする団員達が移動して攻撃を行う。
「ブヒヒ、ニョホホ!」
オーカスが不敵な笑みを浮かべて杖を掲げると、
これは<
任意の範囲に対して重力がかかる効果を持ち、今はオーカスを除く周囲の第六騎士団がすっぽり収まる範囲を対象としている。
このままではオーカスが次に仕掛ける攻撃で少なくないダメージを受けてしまう。
そう判断したシルバはアリエルに声をかける。
「アリエル、出番だよ」
「そうみたいだね。リト、オーカスの真似はできる?」
「ピヨ!」
アリエルに任されたリトは、
オーカスは上空にいるシルバ達がレイに乗って空を飛んでいるせいで、自分の勝ち筋をちっとも見出せずにいた。
どうしたものかと悩んでいる内に、オーカスは自らが発動していた
「これで終わりだね。バイバイ」
アリエルが
「リト、ナイスアシスト」
「ピヨ♪」
アリエルに褒められてリトは胸を張った。
モフモフが胸を張るとモフ度が増すので、アリエルはレイが着陸するまでリトをモフり続けた。
「第一公妃陛下、お力添えいただき感謝申し上げます」
「構わないよ。オーカス相手に途中まで上手くやれてたけど、
「肝に銘じます」
第六騎士団長はアリエルに指摘されたことを真摯に受け止めた。
仕方ないと放置していれば、次は自分や団員がやられてしまう。
対策は急務だと考えるのが当然だろう。
その後、第六騎士団がサイクロプスを解体し、アリエルとリトがオーカスを解体して銀魔石はリトに与えられた。
作業が終わる頃には異界に繋がる穴も徐々に小さくなって来たのだが、横歩きと呼ぶには速過ぎる横走りで穴を通過する影があった。
それは穴をギリギリ通過できるぐらいのサイズの蟹だった。
蟹の体はプラチナカラーに染まっており、火山の近くだろうと少しも暑さを感じさせない堂々とした姿である。
「カルキノスは俺とレイがやる」
シルバがそう宣言したため、その場にいる者全員がカルキノスと呼ばれた蟹型モンスターはゴールド級モンスターだと判断した。
アリエルとリトはその場にいても足手纏いにならないから残ったが、第六騎士団は回収すべきものを回収してその場から離れた。
これは敵前逃亡ではなく撤退だ。
シルバとレイが戦う邪魔をしないための撤退なのだ。
だからこそ、第六騎士団は少し離れた場所から戦闘を見守ろうとしている。
カルキノスは口を泡でブクブクさせ、シルバとレイに向かって
「レイ、お願い」
『は~い』
レイは
自分の攻撃が反射したことにより、カルキノスは口を切ってしまう。
そのダメージがカルキノスを怒らせてしまい、プラチナカラーだった体が朱色に染まる。
カルキノスが先程よりも素早く
「伍式水の型:
シルバが水を纏った両腕を前に出し、親指同士と人差し指同士をくっつける。
その中心に渦巻が生じており、
防ぐだけでシルバのターンは終わらないから、昨日の模擬戦で見たマリアの足運びを真似して一瞬でカルキノスとの距離を詰める。
「陸式水の型:明鏡止水」
攻撃のモーション中に一切の音は聞こえなくなり、シルバが突き出した水の槍を纏った右手はカルキノスに刺さった。
その直後に音が突然圧縮されながら戻ってきて、音がした時にはカルキノスが渦巻のように回転しながら後方に吹き飛んでいった。
こうなったのは伍式水の型:渦巻でカルキノスの攻撃のエネルギーを吸収し、陸式水の型:明鏡止水に上乗せしたからだ。
甲殻が大破したカルキノスはシルバの一撃で力尽きてしまった。
(ふぅ、蟹身は無事か)
圧倒的な威力で第六騎士団の全団員を驚かした張本人は、食べられるカルキノスの蟹身が無事だったことに安堵していた。
それはさておき、シルバは割災予報機は今回も正しい予報を示したことを思い出し、これならばディオニシウス帝国に輸出できそうだと満足した。
穴は完全に閉じてこれ以上の追加はないから、カルキノスの魔石をレイに与えた後、シルバとアリエル、リトはレイの背中に乗ってムラマサへと帰った。
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