第265話 にゃ、にゃんてことをいきなり訊くんですか!?

 ワーウルフの回収も終えてムラマサ城に戻り、シルバ達は遅めの朝食にありついた。


 食後のコーヒーを飲んでゆっくりしていたところ、本日二度目の警報が場内に響き渡った。


 (まったく、今日はなんでこう割災が続くかね?)


 シルバは苦笑しながら他のメンバーを連れて割災予報機を確認しに移動した。


 そのモニターには、火山近くのフーチマンとトスハリ教国との国境に近いアズラスで1時間後に割災が発生すると表示されていた。


「2か所か。アリエル、第六騎士団と第八騎士団に出動要請して。俺達は二手に分かれて騎士団に手に負えなさそうなモンスターが現れた時に戦おう。俺とアリエルがフーチマンに向かうから、エイルはマリアを連れてアズラスに向かってほしい」


「「了解!」」


 出動する組み合わせだが、シルバとエイルにはそれぞれレイとマリナという空を飛べる従魔がいるから別の組になる。


 シルバとマリアが組むと戦力が大幅に偏ってしまうので、マリアにはエイルの護衛という意味も込めてエイルと共に行動してもらうのだ。


 時間が差し迫っている中、組む相手に意見する者はいない。


 シルバ達は手分けして割災の鎮圧に向けて行動を開始した。


 シルバはアリエルが第六騎士団と第八騎士団に指示を出すのを待ってから移動するため、ムラマサ城を出るのはエイルとマリアの方が先だった。


 マリナがエイルとマリアを乗せてアズラスへと向かった。


 マリアは移動中にエイルに訊ねる。


「エイルはさ、シルバと1日でも早く子供を作りたい?」


「にゃ、にゃんてことをいきなり訊くんですか!?」


「アハハ、にゃんてことだって。動揺し過ぎでしょ」


 エイルが顔を真っ赤にして噛むなんてベタなことをしたものだから、マリアはエイルには可愛げがあると感じた。


 それとは対照的に可愛げがないと感じるのはアリエルだ。


 情報通で今や黒幕的な在り方をしているアリエルに可愛げを求めるのは難しいから、その分だけエイルが可愛く思えてしまうというのもあるだろう。


 マリアがいきなり下世話な話をした理由だが、シルバとアリエル、エイルがどうやら一緒に寝ているにもかかわらず少しの悪戯もなく寝ていると感じ取ったからだ。


 日本人のマリアの考え方でいけば、エイルが17歳でシルバとアリエルが13歳ならいずれも未成年だ。


 それでも、エリュシカにおいては15歳で成人扱いされ、公王と公妃になったシルバとアリエルも13歳ではあるが成人とみなされている。


 だというのに、これっぽっちも色気のある夜を過ごしてなさそうだとわかったので、夫婦で年長のエイルに探りを入れてみたのだ。


 エイルはマリアがどんな意図で質問して来たのかわからなかったが、自分の回答によってはシルバに相応しくないと思われるのではないかと思いつつ、自分の心に正直になって応じる。


「勿論子供は欲しいですよ。シルバは親の愛を知らずに育ちましたが、異界では拳者様に面倒を見てもらい、軍学校時代では彼が皇族だとわかってからアルケイデス様もロザリー様もシルバを可愛がってくれました。今のシルバなら、きっと愛情をもって子供を育てられると思いますし、私とシルバの間に子供ができればもっとシルバは家族の繋がりを感じられますから」


「なるほどねぇ。まあ、エイルは政治的な考えとか抜きにしてシルバとの間に子供が欲しそうなのがわかったわ。じゃあ、アリエルの方はどうなのかしら? 正直、私はあの子が純粋にシルバを好きなのかまだよくわからないの。エイルから見てどう?」


 マリアはアリエルとエイルが弟子シルバと結婚したと聞き、弟子の結婚を喜ぶと共に彼女達が弟子を利用して成り上がろうとしていないか気になっていた。


 エイルはアリエルと違ってわかりやすいから、シルバに純粋に好意を寄せていることがわかった。


 だからこそ、マリアはエイルの言い分に頷けた。


 しかし、アリエルという存在はマリアにとって困惑させられっぱなしなのだ。


 奇襲や不意打ち上等な戦闘スタイルもそうだが、腹黒さや脅迫手帳を作って裏から支配するスタンスも自分の知るシルバとは噛み合わない。


 無論、前者についてはアリエルから学んだシルバに一本取られたため、シルバの戦闘の幅を広げてくれたという点でマリアはアリエルを評価している。


 だが、黒幕的なアリエルが純粋にシルバを愛しているのだろうかと気になるのは事実だ。


 後でアリエル本人にも直接訊くつもりだけれど、エイルから見たアリエルのシルバへの気持ちも知りたくなり、マリアは質問を追加した。


「そうですね。アリエルは誤解されやすいですけど、ああ見えてシルバのことが大好きですよ。アリエルがアルと名乗ってた時、母も陰で支えてたみたいですが、シルバはずっと傍にいて護衛でありライバルでした。あの2人は競争を楽しんでますから、お互いに違うタイプの方が良いんですよ」


「護衛と王女が恋に落ちるなんてのは昔も聞いた話だけど、ライバルを好きになるって感覚がわからないのよね」


「拳者様にはライバルがいなかったのですか?」


「いなかったわねぇ。道場じゃ負けなしだったし、大会では優勝しかしたことないもの。相手になる人はいなかったの」


 マリアがあっさりと言うと、エイルはそんなマリアに戦慄した。


 シルバも軍学校や帝国軍のミッション、公国建国後で常勝無敗だったが、マリアには勝てたためしがないと言っていたからか、エイルが彼に戦慄することはなかった。


「強過ぎるというのも大変なんですね。ちなみに、拳者様はシルバのことをどう思ってらっしゃるんですか? 私の目から見て、拳者様はどうにもただの育ての親や師匠って感じには見えないんですよ」


「良い目をしてるじゃん。私はシルバのことが好きよ。もっとも、恋愛的な好きかどうかはわからないんだけどね。何十年も異界で毎日休むことなくモンスターと戦って来た私にとって、異界に迷い込んだシルバは弟子ってだけじゃなくて、生きる楽しみでもあったから。あぁ、そうね、依存してるって言えばしっくり来るのかしら」


「依存ですか。って、そろそろ目的地に着きますよ」


 エイルはあと少しでマリアの気持ちを理解できそうだったから、できればもっと話を続けていたかった。


 しかしながら、まずは割災をどうにかする方が優先すべきなので、地上に第八騎士団を見つけて気持ちを切り替えた。


 第八騎士団が集まっている場所の前方に、予定時刻になると同時に割災が起きて異界に通じる穴が出現した。


 そこから現れたのは、ゴールドスコーピオン率いるシルバースコーピオンの群れだった。


「拳者様、不味いです。あのランクのモンスターの群れと第八騎士団がまともにぶつかれば、下手をすると壊滅の危機です」


「トスハリ教国との戦争で一番戦力を失ってるんだったわね。了解。じゃあ、ちょっと行って来るわ」


 マリアはエイルの説明を聞き、第八騎士団に素顔がバレないように仮面を装着してマリナの背から飛び降りた。


 マリナが敵の群れの上空に移動していたこともあり、マリアは真下に敵の群れがいるなら丁度良いとそのまま攻撃を開始する。


「肆式風の型:嵐濫乱世」


 強風を纏ったマリアの両腕が次々に真下に向かって繰り出され、拳を一度繰り出しただけでも嵐が起きるのだから、何度も拳を繰り出せばシルバースコーピオン達どころかゴールドスコーピオンまで甲羅を割られた状態で力尽きた。


 マリナの背中の上からマリアの戦いを見ていたため、エイルはマリアの強さを思い知った。


「瞬殺じゃないですか。しかも、シルバとの模擬戦では使わなかった技ですね」


 シルバとマリアの模擬戦では、マリアはシルバが使う型しか披露しなかった。


 レイの力を借りれば風の型も使えたが、あの時は自分だけでマリアと模擬戦にすることになっていたから、シルバは風の型を使わずに戦った。


 マリアもシルバが自分と1対1をしたいのだと気づいていたから、前回はシルバの使う型に合わせていたのだ。


 この戦いではそんな制限なんてないので、マリアはゴールドスコーピオン率いるシルバースコーピオンの群れをあっさりと倒した。


 アズラスでの割災は穴が閉じてしまったので早く終わり、第八騎士団はその後戦利品を回収するだけの簡単なお仕事に従事した。


 マリアの力を借りなければ無駄に戦力が減っていただろうから、彼等は快くその作業を進めたのだった。

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